是非の理、詎か能く定む可き(よしあしのことわり、たれかよくさだむべき)
憲法十七条(いつくしきのり とをあまりなな をち)
第十条(とを を)
十に曰はく。
忿を絶ち瞋を棄て、人の違ふを怒らざれ。
人皆な心有り、心各執れること有り。
彼れ是みすれば則ち我れは非みす、我れ是みすれば則ち彼れは非みす。
我れ必ずしも聖りに非ず、彼れ必ずしも愚かに非ず。
共もに是れ凡夫のみ、是みし非みするの理、詎か能く定む可けむや。
相ひ共もに賢しく愚かなること、鐶の端し无きが如し。
是れを以て彼の人は瞋ると雖も、還りて我が失ちを恐れよ。
我れ独り得たりと雖も、衆に従ひて同じく挙へ。
十曰。
絶忿棄瞋、不怒人違。
人皆有心、々各有執。
彼是則我非、我是則彼非。
我必非聖、彼必非愚。
共是凡夫耳、是非之理詎能可定。
相共賢愚、如鐶无端。
是以彼人雖瞋、還恐我失。
我獨雖得、從衆同舉。
共もに是れ凡夫のみ、
(お互いにただ普通の人間なのである)
是みし非みするの理、
(正しいとするか正しくないとするかの判定原理を)
詎か能く定む可けむや。
(適正に定めることなどいったい誰にできるのだろうか)