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新しいものを守る組織:『ピクサー流創造するちから』

アニメーションや絵画、映画などの「作品」を観ながら、私がよく思うことがあります。

「あんなアイディアはどこから降ってきたんだろう。」

なぜか、自分には不可能だと思うことは「天から降ってきた」だの「才能」だのといったラベルを付けたがります。

きっと自分ができない理由を自分の中にではなく、相手の中や環境にあると思いたいから、なのではないでしょうか。

少なくとも私は、そう思うことがあります。

才能だと思い込めば、努力しても才能がある人には叶わない、だから自分には責任がないと思うことができる。

天から降ってきたアイディアだと思い込めば、タイミングや環境、強いては神様に責任を転嫁することもできる訳です。

今回紹介する本は、ピクサーの創業者であるエド・キャットムルの著書です。

エドがディズニーに憧れた幼少期から、ピクサーを立ち上げ、ディズニーに買収されるまでの軌跡が記された本です。

ピクサーの代表作、トイ・ストーリーだけを挙げても、ストーリーはもちろんのこと、ニュアンスまで伝わる繊細な表情、人間をトラッキングしたかのようなリアルなおもちゃの動きなど、つくった人天才だ!と思わせる作品ばかりです。

でも、そんなピクサー作品は一人の力ではなくチームで、しかも数ヶ月から数年の試行錯誤を経て完成されます。

ピクサーが「創造し続ける」ためにどんな価値観で、何を大事にしているのか、考察を交えて本の内容をまとめていきます。

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ピクサー流創造するちから
[著] エド・キャットムル
ダイヤモンド社 2019.08
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本音で語りあう


本音で語る...

頭ではそうだよね、大事だよねと分かっていても、なかなか行動に繋がらないことがあります。

正直なフィードバックをしたら、傷つくんじゃないか、そうしたら自分が嫌われるんじゃないか、そもそも私個人の意見だし、正解ではないから離さなくても良いかな...

なんて正直になろうとすると、なぜか自己防衛本能を示す人は多いのではないでしょうか。

ただ、問題を解決し、効果的にチームで共同作業をしながら、さらに、新たな価値を生み出したいなら、事実や問題点を多方面から見つめ直し、その問題点が持つニュアンスまでも掴むことで、オープンにコミュニケーションをとる必要があります。そして、多方面の事実を把握できれば、より正しい意思決定につながる可能性が高くります。

著者のエドは、そんな自己防衛本能から自分自身を開放する簡単な方法を紹介しています。

それは、「正直さ」という言葉を「率直さ」と捉え直すこと。

正直さは、嘘や偽りがないという意味で、どこまでも個人的なニュアンスがあります(個人的な見解です)。

正直であることの評価軸は、正直であるかどうかではなく、正直に何かを発言した時の発言の内容にあります。

つまり、正直であるほど、自分の内側を人に明かすことになるのです。そして、人に明かすと評価や判断をされるので、その「評価」に恐れを感じるようになるのではないでしょうか。

一方、率直さには、抑制のなさ、遠慮のなさというニュアンスが含まれています。

率直であることの評価軸は、発言の中身の正誤や善悪に関わらず、どれだけ感じたままを話したかの度合いによって決まります。

つまり、正直であることと中身は変わらないかも知れませんが、発言の内容がどうであれ、話したこと、意見を述べたという事実の方が、評価対象になりいのです。

より良いものを作りたい、より良い議論をしたい、というような目標を持つ仲間同士やチーム内であれば、率直に語り合った方が良いに決まっています。ただ、人間である以上頭では分かっていても、心が付いていかないことだってあります。

それでも、言葉一つで、メンバーの意識が変わるのであれば、すぐに実践したいものです。

そして、ピクサーではそのためのシステムを創業当初から試行錯誤してきたと言います。

例をあげるのであれば、ブレイントラスト会議。

概要は、ベテラン、新人、同じ部署、違う部署にまたがる多様な人が集まり、アニメーションの初期段階から完成に至るまで、意見を話せる場です。

意見を話すときは、以下の項目が大事だと言います。まず、聴く側が素直に本音を聴く覚悟ができていること、次に、悪いところ、抜けている点、わかりにくい点、意味をなさない点を指摘することこそが「グッド・ノート(よい指摘)」だという意識を持つこと、必要に応じて少人数でブレイントラスト会議を行うなどです。

「聴く側の姿勢」に対しては特にシビアな印象を受けました。それは以下のような記述から受けた印象です。

...どんな経験豊富なブレイントラストでも、その基本理念を理解していない人、批評を攻撃と受け取る人、フィードバックを咀嚼しリセットしてやり直す能力のない人を助けることはできない。

また、「必要に応じて少人数で...」という点に、率直さをどれだけ大事に思っているかという姿勢が伺えます。

なぜなら、ピクサーのマネージャーはメンバーが率直な意見を述べることができているか常に目を光らせ、パワーバランスを考えてメンバーを構成し直し、再度会議を開催するという労力を掛けているからです。

一発屋ではなく、新しいものを創造し「続ける」ためには、個人だけではなく、チームの頭脳を合体させるがことく、率直な意見を言い合える関係性の構築と環境を作ることがまずは必要なのかも知れません。


できる限り早く失敗する


新しいものを創造し続けるためには、現在地に安住するのではなく、新たな領域に分け入る必要があります。

新たな領域に踏み入れて失敗したとしても、行動をしたことで分かったこと、自然に得られアイディア、未来の成功ための糧になります。

もちろん、事前の計画やこの道は正しいかどうかと考えることは一定必要ではあるものの、「新しいものを創造する」のであれば、計画したところ大抵想定外の事件によって引き起こされます。

そして、新たな領域に足を踏み入れて、ここは違った!と気付くまでの時間が短ければ短いほど、それだけ軌道修正する時間を得ることができます。

そういゆ意味で、著者はピクサーでも「怖いもの知らず」な企業文化をつくることを大事にしています。

ピクサーでは新たなプロジェクトに失敗したり、映画が立て続けにヒットをしないといった事態が発生したとき、その後に反省をする会議を開くのだそうです。

「なにが失敗を招いたのか」を誰かの責任にするためではなくフラットに議論し、失敗の要因を仮説立てて検証していく...そして、同じ失敗をしないための施策を打つ。とてもシンプルですが、シンプルな作業を徹底している度合いが今のピクサーを創り上げているのかも知れません。


認識と現実は異なることを忘れない


著者であるエドには経営哲の一つを紹介します。

それは「見えないものを解き明かし、その本質を理解しようとしない人は、リーダーとして失格である」というものです。

人は役割や立場によって、見える世界は変わってきます。自分自身の視野や世界観も時と共に変化することもあるでしょう。

その事実を自覚し、私とあなたとは認識が違うかも知れない、私が見えていない物があるかも知れない、1年前の価値観と今では自分の見方にも変化が生じているかもしれない、といった姿勢を持ち続けることに著者は価値をおいています。

自分が正しいと確信したときほど、他の視点が無視されることはない。

率直さや失敗を恐れずに新しい領域に踏み入ることを妨げないためにも必要な価値観なのかも知れません。

自分に見えていない事実が潜んでいるかも知れないという可能性を感じることなしに、新しい領域に踏み入れようとは思わないでしょう。

また、自分の意見が必ずしも正しいとは限らないという視野の広さがないと、率直な議論を交わしても、それが生かされることはないのです。

特に、過去のモデルを参考にしようとするときには注意をすべきです。過去の出来事はすでに経験していることなので、知っているつもりになりやすいですが、過去の出来事をどのように捉えるかは人それぞれであり、過去のモデルが未来の新たなモデルと合致する保証はありません。

ですが、未来は不確実なため、過去の経験が優位に立つことは多々あります。人間は自分のメンタルモデルとは相容れないものを見ると、それを拒絶しようとします。この心理状態には「確証バイアス」という名前がついていたりします。そして、人間は自分自身の「バイアス」を裏付ける情報を好みます。よって、不安定で複雑で不明確な新たなアイディアは、弱い立場になってしまうわけなんですね。

言うほど、簡単ではないことは日々の職場で感じます。忙しいほど、過去の経験に頼ったやり方で仕事を進めようとします。問題が複雑であるほど、解決できない理由・諦める理由を過去の経験から持ち出そうとします。

そして、根本的な問題は解決されないまま、数ヶ月後、同じ様な違和感にぶち当たる...

過去の経験に頼ることは一見、早く問題を解決させてくれるように見えますが、「早い解決」が「根本的な解決」とは限らないということを、私たちはすでに経験しているのではないでしょうか。

その違和感を率直に話し合い、常に安心感を持って新しいことに挑戦するための環境を作ることが、「創造し続ける」ために求められる条件なのかも知れません。


読んだ感想


自叙伝のようなこの本は、ビジネス書としては要点を掴みにくい本でした。さすが、ピクサーの創業者だけあってでしょうか、物語として読むにはとても面白かった。

要所要所に登場する、ピクサー文化を作る上で大事にしているポイント的なフレーズや単語は、一見「当たり前」だと感じさせるものでした。しかし、そのシステム化をするための経営者の徹底した努力が伺えました。

そこまでできるのは、リーダー達の内省や自己評価が根付いているからなのではないかと思います。

世界のピクサーです。すでに優秀な人材が集まっていることは自明なことではありますが、優秀さと率直さ、素直さが全部機能すると無敵な組織になりそうですね...

まずは、その3つのうち自分や自分が属している組織に不足しているものがなにか考えてみたいと思います。


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