『日本沈没』日本人難民というシミュレーションを見よー昔、映画が好きだった。そして今も好きなのだ 60s映画レビュー(17)
この映画の公開は約50年前の1973(昭和48)年です。私は中学1年でした。
当時、小松左京の原作は大ベストセラーになっていてウチの親父も上下巻(確かカッパブックスだった。これも懐かしいなあ)買ってきました。
私も興味津々で読み始めましたが…あまりにも難しく、2ページ目に入った所で即挫折。
というわけで、この映画はそんな子ども時代の懐かしい体験から「見てみよう」と思った次第です。何しろ50年前ですから、火山の爆発や津波等の特撮シーンは正直言って退屈です。
しかし、この映画を見て非常に新鮮に感じた点があります。
一つめは政治家の描き方。
この映画に登場する政治家たちは真面目にかつ全力でこの国家存亡の危機に立ち向かっています。つまり政治家のあるべき姿を活写しているのです。それが新鮮でした。とくに丹波哲郎が迫力ある総理大臣を演じています。
とかく日本映画というのは政治家を金と名誉と権力しか興味のない「悪」として描くことが多い気がします。もちろん、政治家のもつマイナス面を批判的に描くことも大事だとは思いますが、あまりにもステレオタイプな描き方ばかりで辟易しますね。
これも古い映画で恐縮ですが、パニック映画の代表作『タワーリングインフェルノ』では完成パーティーに招待された政治家が大火災から我先に逃げようとする男を制して「子どもと女性が先だ!」と一括するシーンがあるんです。カッコよかったなァ。政治家という職業の理想を描いていたわけです。
もう一つは国家や民族という巨大なテーマへの挑戦。
日本という国家の存亡、日本人という民族の行く末…こんな大きなテーマを描く映画って今、ありますか?ちょっと見当たらないと思いますね。
日本が沈没するということは国家が消滅することです。我々国民は後ろ盾を無くし流浪の民となるのです。
全てを失って他国の庇護のもと難民となって惨めに生きていく…その現実がリアルに迫ってきます。
どこの国が日本人難民を引き受けてくれるのか?皇室はどうなるのか?仮政府はどこに設置するか?どうやって民族大移動するのか?そもそも日本人全員が脱出できるのか?
ここがこの映画のキモです。
前半はやや退屈ですが、後半は身を乗り出して見ちゃいました(ちなみにその後、再映画化されたものは見ていません)。