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見上げた先に

僕の仕事は芸能関係でして、これまでいろんな事をやって来ました。
舞台やテーマパーク、映像や声優など。
ありがたい事にいろんな所で多くの仕事を行ってきました。
が、エンタメの世界では、それこそヒトの想いが蓄積されるが為にいろんな事に遭遇するものです。
今回はそんな話。




今から16~17年くらい前、僕がはじめて舞台に出演した時の話です。
今はもう無くなってしまった、都内某所の地下にあった劇場で僕は初舞台を踏みました。
19歳の頃だったかな。
子役が多くいる作品で同年代はAだけ、また仲良くしてくれてた年上のBさんと、作中で自分の妹役だった年下のCの3人とは特に仲良く稽古期間中から過ごしてました。

「今度の劇場はさ、取り壊しも決まってるくらい古い所だから出るんだよ」

Bさんが言うには、楽屋に誰のか分からない衣装が紛れ込むだの、搬入口のエレベーターに見知らぬ老人がいるだの、袖中で待機してると袖を引っ張られるだの。
どこまで本当でどこからが嘘なのか、若い僕らを怖がらせて楽しんでるのかって思う様な話ばかりで僕とAは話半分に聞いてたました。
Cはまだ中学生だったのでよく怖がっててそれを宥めたりしてました。

そんなこんなで劇場入り。
劇場の入ってる建物自体は50年以上の歴史があり、僕たちの作品を上演する地下の劇場自体も20年以上の歴史がある劇場は、Bさんの言う様に何処と無く異様というか、なかなか雰囲気のある所でした。
ただ、まあ、言われた様な怪異なども無くリハーサルも終わり無事に初日も終えた2日目の昼公演の時でした。

妹役Cがセリフを座りながら喋りつつ立っている僕を見上げる。
セリフが止まった。
僕を見て目を見開いて止まっている。言葉が出てこない。
間が生まれる。
ほんの少しの間を置いてCは目を伏せながらセリフを続けた。
今の間はなんだったのだろう。
そんな疑問を抱きながら芝居を続ける。

幕間休憩が終わって2幕。
自分は次のシーンの為に袖中でスタンバイしながら舞台上を眺める。
Aが舞台上で喋っている。淀みなくセリフが流れ出る。
しかし次の瞬間、一瞬セリフが詰まった。
体の向きは、先程Cの目線と同じ方向を向いている。

何があるんだろう。
客席から見切れない様にそちらを覗き込んで後悔した。
見るんじゃなかった。


2mはある舞台装置の裏から、
恐ろしい表情を浮かべた異様に顔のでかい女が
舞台上を覗き込んでいた。
舞台装置の裏は人が入り込む隙間は無い。
それなのにそいつはそこにいた。

目を合わせたくない。
本能的に思った僕はその公演の最中そちらを見る事は無かった。

昼公演が終わった後、夜公演までの短い時間の間にAとCに声をかけ近所の神社へお参りに行きました。
芝居の流れであの方向を向かなきゃならない時はなるべく見ない様にしようと、2人に言い含めました。
その後僕はコンビニでパック酒を買って、劇場の幕内さんに許可を取って劇場入口の神棚にお供えしました。
しかしながら、そいつは千秋楽までずっとそこにい続けました。

僕たちの公演があったその年の年末、その劇場のあった建物は半世紀の歴史に幕を閉じました。
今は再開発されて全くの別物になったそこの前を通るとその時の記憶は変わらず鮮明に思い出すし、
AやCと会うと自然とあの頃の話になります。

ちなみに小屋入り前あんなに僕たちに怖い話を吹っ掛けていたBさんは、あの公演期間中1度もあの女を見る事は無かったそうです。

劇場には何かがいる。
そう思わされる出来事でしたし、その後の芸能生活で出会う怪異との初コンタクトでした。




散文投稿3記事目。
人の想いはそこに残るし、作品によって生まれる感情は様々。
それらが複雑に絡み合い混ざり合うと、なにか言葉で言い表すことの出来ないモノが生まれるのかもしれません。

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