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『海のはじまり』第4話 責任と無責任の間

フジテレビ系列で月曜9時から放送中のドラマ『海のはじまり』。このドラマは、『silent』や『いちばんすきな花』の脚本家・生方美久の最新作である。

※この記事には、ドラマ『海のはじまり』の内容が含まれます。『海のはじまり』はFODTVerで配信中です。

あらすじ

月岡夏(目黒蓮)は、母である南雲水季(古川琴音)が亡くなった後も元気に振る舞う海(泉谷星奈)を心配し、「元気なふりをしなくていいよ」と悲しみの感情を吐き出させる。感情があふれ出し、夏にしがみついて泣き続ける海と、そんな海を初めて抱きしめながら、静かに涙を流す夏。百瀬弥生(有村架純)は、ただそんな二人を見守ることしかできなかった。

海岸へ遊びに来た夏と海。そこで海は、夏に「パパやらなくていいよ」と告げる。「でも、いなくならないで」と。海の本音を聞いた夏は「水季の代わりにはなれないけど、一緒にはいれる」と答える。二人の様子を遠くから眺めていた朱音(大竹しのぶ)と翔平(利重剛)は、亡き娘に思いを馳せ、「水季が生きていてくれたらな…」と涙ぐむ。

その後、夏は弥生のマンションへ。そこで夏は、海となるべく一緒にいることに決めたと告げる。それに対し、弥生は、海の父親になることにしたのかと夏に迫る。結論を出させようとする弥生に夏はいら立ちを感じてしまう。なぜ彼女が焦っているのか、分からずにいる夏に対して、弥生は自分の過去の出来事を話そうとするが…。

海のはじまり - フジテレビ

産めなかった弥生

第4話では、妊娠したときの弥生と水季の決断が対比された。子どもを産みたいと思っていた弥生は産めなかった。一方、子どもを産みたくないと思っていた水季は産んだ。この2人の違いは次の連続する2つのシーンに表れている。

◯弥生の部屋
弥生が電話している。

弥生「もしもしお母さん。相談があって」
弥生の母「何?」
弥生「妊娠した。彼の子」
弥生の母「そう」
弥生「どうしたらいいかな?」
弥生の母「相手に言ったの?」
弥生「言った。あんま産まないでほしいみたい」
弥生の母「じゃあ、おろしな」
弥生「一人で育てるのってさ……」
弥生の母「私、無理だからね。無理だから」
弥生「そう。そっかそっか。了解」
弥生の母「お金。ちゃんと出させなさいね」

『海のはじまり』本編と解説放送を元に筆者が作成

弥生の過去の恋人・浅井悠馬(稲葉友)は弥生が子どもを産むのを望んでいなかった。そのことは弥生と悠馬の喫茶店での会話で描かれる。悠馬は、弥生がおろすのを前提として話を進めた。「普通に仕事続けてキャリアを築いてさ。お互いのいいタイミングで、普通の順序でちゃんとした家庭築こう」。お互いの仕事を犠牲にせず、結婚してから子どもを産む。それが悠馬にとっての「普通」だった。

そんな悠馬の態度を見た弥生は子どもを産むのを諦めた。そのことは弥生の飲むコーヒーに表れている。弥生はノンカフェインのコーヒーを飲んでいた。妊娠した女性はカフェインを控えることが推奨されているからだろう。弥生は悠馬が立ち去った後、コーヒーのお代わりを注文する。伝票を見た店員は「ノンカフェインコーヒーでよろしいですか?」と尋ねる。弥生は「普通ので」と答えた。しかし、弥生はそのコーヒーに手を付けずに店を出る。弥生は子どもを一人で産もうと考えたのだ。

弥生は母に妊娠したことを相談する。それが先に挙げたシーンだ。弥生の恋人が子どもを産むのを望んでいないことを聞いた弥生の母は、弥生に子どもをおろすよう勧める。弥生が「一人で育てるのってさ……」と弥生が相談しようとすると、弥生の母は「私、無理だからね」と遮った。それは一人で子どもを育てる苦労を知っているからこその言葉のようにも思える。恋人からも母からも理解を得られなかった弥生は子どもを産むのを諦めた。

産んだ水季

弥生と母の電話のシーンに続くのは水季とその父・翔平のシーンである。

◯南雲家(水季の部屋)
水季がベッドの上で荷物をまとめている。

翔平「(ノックしながら)コンコン。泊まってかないの?」
水季「帰るに決まってんじゃん」

翔平が部屋に入ると、翔平の隣に腰掛ける。

水季「こんなの生まれてきたら怖い。こんな親不孝なの出てきたら怖い」
翔平「親不孝かどうか決めるのは親だよ。子供が勝手に決めないでくれる」
水季「自覚あるくらい親不孝なの」
翔平「そう。勝手に言ってなさい」

翔平、水季に近づく。

翔平「ホントは産みたいの?」
水季「相手に似るなら、産みたい」
翔平「相手に似てほしいって思えるだなんて、そりゃもう、ね」
水季「迷惑かけたくない」
翔平「迷惑ねぇ……」
水季「責任を負わせたくない」
翔平「(うなずきながら)責任ね」

翔平が古い母子手帳を差し出す。

翔平「読んだことある?」
水季「いや読むもんじゃないでしょ?」
翔平「読むところいっぱいあるよ。お母さんいっぱい書く人だったから」

水季が母子手帳を受け取る。

『海のはじまり』本編と解説放送を元に筆者が作成

水季は両親に子どもをおろすことを伝えていた。水季の母・朱音はそれが許せない。朱音は不妊治療の末、ようやく水季を授かっていた。そのことを水季は何度も聞かされていた。水季はそれを重荷に感じていた。水季は言う。「お母さん水季に会いたかったんじゃないよ。子供が欲しかっただけでしょ。母親ってポジション欲しかっただけで」。水季は母の望むような子どもになれなかったと思っている。そんな自分に子どもを産む資格はない。そう水季は思っていたのかもしれない。

本当は子どもを産みたいという水季の思いを引き出したのは父の方だった。それが先に挙げたシーンだ。水季は「相手に似るなら、産みたい」と言う。水季は産みたいと思う一方で、自分のような親不孝な子どもが生まれるのを恐れている。だが翔平に言わせれば、「親不孝かどうか決めるのは親」なのだ。

水季は「迷惑かけたくない」「責任を負わせたくない」とも言う。だが迷惑や責任を感じるかどうかは、その相手次第だ。翔平が水季に手渡した朱音の母子手帳には、水季を産んだ当時の朱音の気持ちが書かれているのだろう。水季は自分のおなかの子の母子手帳を手に、子どもを産む決意を両親に伝える。

責任と無責任の間

弥生は相手とともに決める人である。それは、第1話で描かれた弥生の仕事の進め方や夏との会話に表れている(第1話の記事参照)。そんな弥生も夏の子どもである海の存在が明らかになると変わった。第2話で、弥生は海の母になりたいと夏に告げた(第2話の記事参照)。弥生は早く母になろうと焦っていた。

弥生は夏が海の認知や戸籍の手続きを先延ばしにしていることを無責任だと言う。そんな弥生に夏は「決めさせようとしないで」と返す。夏は住む家や学校、仕事など現実的な生活環境のことを考えた末で先延ばしを決めたのだ。一方、弥生はその先延ばしが許せない。そんな弥生の焦りの理由が夏には分からなかった。

弥生の焦りの理由は子どもをおろした過去にあった。弥生は子どもをおろしたことに罪悪感を抱えていた。その罪悪感を海の母になることで埋めようとしていたのだ。弥生は自分が子どもをおろした過去を夏に伝えられないでいた。夏は弥生が話してくれるのを待った。夏は相手の答えを待てる人だ。夏が待ってくれたからこそ弥生は自分の過去を打ち明けられた。

夏は悩む人だ。分からないことを分からないと認めて答えを先延ばしにする。それが悩むということだ。「パパやるって何?」――それが第3話の問いだった(第3話の記事参照)。その答えは夏も海も分からなかった。それでも2人は一緒にいることを選んだ。「一緒に悩めるのは助かる。さみしくない」と弥生は夏に言った。弥生は夏を一緒に悩むことに決めたのだ。

水季は自分で決める人だ。水季はなぜ子どもを産むことを夏に伝えなかったのか。それはまだ明かされていない。おそらく水季の病気が関係あるのだろう。第4話では入院している水季の姿が描かれた。水季は、まだ学生だった夏に子どもだけでなく自分の病気の責任まで負わせることができなかったのではないか。それでも水季が夏と一緒に悩むことができたらと考えてしまう。

責任の取り方には色々ある。人工妊娠中絶の費用を支払う、子どもを認知する、子どもを育てる、それらも責任の取り方だ。だが責任の取り方は、それだけではない。時間をかけて答えを出す。それもまた責任の取り方の一つではないか。夏の先延ばしは決して無責任なものではない。それは責任を取るまでの過程なのだ。そんな責任と無責任の間を『海のはじまり』は描いている。

※2024年7月30日16時10分に見出しと見出し画像を追加し、本文を加筆修正しました。また、2024年7月30日18時08分に再度更新しています。いずれも記事の趣旨は変えていません。

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小嶋裕一
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