『いちばんすきな花』 第10話『いちばんすきな花』のいちばんながいカット
この記事は、フジテレビ系で10月から放送中の連続ドラマ『いちばんすきな花』の第10話までの内容を含みます。『いちばんすきな花』はFODで配信されています。
このドラマの主人公は潮ゆくえ(多部未華子)、春木椿(松下洸平)、深雪夜々(今田美桜)、佐藤紅葉(神尾楓珠)の4人です。第10話で最も印象的だったのは、主人公たちではなく、望月希子(白鳥玉季)と穂積朔也(黒川想矢)の通う中学校のシーンでした。
いちばんながいカット
「おはよう」のあいさつが飛び交う中、希子が教室に入れないでいます「おはよう」と、希子に声をかける人はいません。クラスメートが、こそこそ話しています。
「望月さんじゃない?」
「希子?」
「ほら、後ろ」
「入ってくればいいのにね」
「ずっと後ろいるよ」
そのとき、穂積が希子に気づきました。穂積が希子に近づくと、希子は逃げるように立ち去ります。希子の後を穂積が追いかけます。ここから、このドラマで最も長いワンカットが始まりました。カメラは廊下や階段を歩く希子と穂積を正面から捉え続けます。
こそこそ話していたクラスメートの会話の一つひとつは、攻撃的なものではありませんでした。そもそも、希子は具体的な内容を聞き取れていません。それでも希子には、自分が歓迎されていないことが伝わってきます。
「ネットニュースの見出しみたいな感じ」
希子は自分に向けられた言葉をそう表現しました。
「嘘をホントっぽく言うのが、みんなうまいの。信じられる人はいいよね。傷つける側にまわれて。傷つかなくて済むから」
希子は、クラスメートから根も葉もない噂を流されたのかもしれません。
そんな学校の様子を、希子は「間違い探し」に例えました。クラスメートたちは、みんなと違う、間違っている誰かを探して、答え合わせして楽しんでいるのです。
「何でそれが望月(希子)じゃなきゃいけないの?」と、穂積が希子に問います。「別に誰でもいいんだよ。誰でもよくて。途中で誰かに変わったりするから」(ここでカットが切り替わる)「だから、穂積は保健室来なくていいって言ってんの」と、告げて、希子は1人で保健室に入っていきます。
希子は、穂積が次の対象になることをおそれて、穂積と距離を置こうとしていました。自分が傷ついているのに、他人の心配をしているのです。希子が気遣うのは、穂積だけではありません。希子は自分を傷つけている相手のことも気にかけています。そのことは、このあとの塾のシーンで描かれました。
「みんな」を押し付ける学校という場
希子が塾の先生のゆくえと話しています。一部始終を聞いたゆくえは「疲れちゃったね」と、希子をねぎらいます。希子は「みんなはみんなでつらいと思う。私のこと嫌ってないと、みんなで仲良くできないから。それは、それでつらい子いると思う」と、答えます。「そんなこと気にしなくても」と、ゆくえは返しますが、希子は気にしないではいられません。
「みんなでいなきゃいけないのと、1人でいなきゃいけないの、どっちがしんどいんだろう」と、希子は悩みます。このセリフは紅葉のことを思い起こさせます。紅葉は、クラスの目立つやつといるとき、しんどくなると話していました。客寄せパンダと呼ばれても、めんどくさいことを押し付けられても、みんなと一緒にいるために我慢してきたのです。自分を偽ってみんなと一緒にいるのも、やはりしんどいのです(そのときのことは、第5話で描かれました。詳しくは以下の記事をお読みください)。
希子と穂積の長いワンカットの背景には、「みんなの力」と書かれた文字の周りに色とりどりの手形が押してある紙や、「責任感を持ち 時に助け合い みんな仲良し」というスローガンが映り込んでいました。学校は「みんな」を押し付けてきます。学校の中では「みんな」になることが正解で、「みんな」になれないことが間違いなのです。
「みんな」にならないでいられる場所
だから、希子にとって、「みんな」にならないでいられる塾は救いの場でした。塾が救いの場になったのは、希子を理解してくれる、ゆくえがいたからです。ゆくえも学生時代に、塾の先生の美鳥に救われていました。希子と同じように、美鳥もかつて、希子と同じように根も葉もない噂を流されていました。美鳥は、「みんな」と違ったゆくえや椿、夜々や紅葉に救われました(そのときのことは、第8話で描かれました。詳しくは以下の記事をお読みください)。
主人公の4人もまた、「みんな」になれない人たちでした。主人公たちは、このドラマを通して「みんな」にならないでいられる場所を見つけられました。それは椿の家です。しかし、その家は、美鳥にとっての帰る場所でした。椿は美鳥に家を返すことになっています。主人公たちは、「みんな」にならないでいられる場所を失うのです。そんな主人公たちがどういう結末を迎えるのか。最終回のゆくえを見守りたいと思います。
『いちばんすきな花』についての記事は以下のマガジンにまとめています。
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