『海のはじまり』第10話 夏と水から海は生まれた
フジテレビ系列で月曜9時から放送中のドラマ『海のはじまり』。このドラマは、『silent』や『いちばんすきな花』の脚本家・生方美久の最新作である。
※この記事には、ドラマ『海のはじまり』の内容が含まれます。『海のはじまり』はFODとTVerで配信中です。
第10話「いなくならないで…ずっと一緒にいたい」あらすじ
2人で住むために決めなければならないこと
夏は海と2人で暮らすことを決めた。そのためには決めなければならないことが2つある。1つ目は、どこに住むのかだ。夏が今住んでいるアパートに引っ越すなら海は転校しなければならない。一方で海の学校の近くに住めば、夏は仕事を変えなければならない。2つ目は、海の名字だ。海は母親と同じ「南雲」を名乗っていた。夫婦に同姓が強制される日本では、親子で名字が異なれば周囲から疑問に思われる。生活上の手続きにも支障があるだろう。
夏は転職して海の学校の近くに住むことも考えている。海にストレスをかけたくなかったからだ。だが、会社の先輩・藤井からは転職を反対される。藤井は妻が入院した時、子供の世話に苦労した。慣れない生活に慣れない生活が重なれば、夏にも海にもストレスがかかる。転職すれば収入も減るかもしれない。子育てにはお金もかかる。藤井の言うことはもっともだ。
夏は海に転校して夏のアパートで一緒に暮らそうと提案する。海は転校は嫌だという。「ママ死んじゃったのに? ママいなくなって、海、いろんなこと変わったのに? まだ海が変えなきゃ駄目なの。何で?」。そう言う海に夏は「大人の都合でしかないよね」と返すしかなかった。
夏には大人の都合に振り回される子供の気持ちが分かる。夏は母のゆき子が再婚した時、名字が変わった。名字が変わったことをクラスメートにからかわれたこともあった。転校も自分が知らない間に決まっていた。転校の理由が再婚であることも友達には言いづらかった。だからこそ夏は一つ一つ海に選ばせる。
海が相談できる相手
海は津野に転校が嫌だと打ち明ける。転校すれば学校帰りに図書館に寄って津野と会うこともできなくなる。海は夏を困らせることで夏から嫌われるのを恐れていた。「絶対に嫌いにならないよ」。津野は海にそう言い切る。しれは、津野に一度は海の親になる覚悟があったからだろう(特別編の記事参照)。「いいんだよ。親なんだから」「子供のことで困るのが生きがいなんだから」。津野は、嫌なことは嫌だと主張すべきだと言う。
津野の後押しを受けた海は夏に転校したくないと伝えた。一方、夏のアパートに住むのは嫌じゃないという。その家に弥生はいるのか。海は夏に尋ねる。夏と弥生が別れたことを海はまだ知らない。弥生は夏と別れたことを自分の口で海に伝えたいと言っていた。
弥生は夏と別れたこと、海の母にはならないことを海に告げる。だが、それは弥生と海の別れを意味しない。「友達ってね、会いたい時会って、頼りたい時頼ればいいの。どっちかが嫌になったら縁切ったっていい」「仲良くしたい時だけ仲良くすればいいの」。弥生は海にそう言って、海と友達になった。
海を奪われる翔平と朱音の悲しみ
夏が転職を考えていることを聞いた翔平は、夏も一緒に南雲家で暮らすことを提案する。「孫や子供に甘えられないで、何生きがいにしたらいいの。娘がもういないっていうのに」。娘を失った翔平の悲しみを孫が埋めていたのだ。同じ気持ちを朱音も抱えているのだろう。「意地悪言えば、奪うようなもんなんだから」。朱音の言葉が夏に突き刺さる。
翔平や朱音から海を奪ってよいのか――夏は揺らぐ。自分が転職して海の学校の近くに住めば、翔平や朱音から海を奪わなくて済む。そんな夏の思いに疑問を投げかけるのは弥生だ。弥生は夏が仕事を頑張ってきたことを知っている。弥生が海の母にならずに夏と別れたのは、誰かのために自分を犠牲にしないためだ。弥生の選択を後押ししたのは水季だった。そのことを聞いた夏は海と再び向き合う。
夏と暮らすのを選んだ海
夏は海に選択を迫る。転校して自分と一緒に住むか、転校せずにこのまま別々に暮らすかだ。「できるだけ一緒にいる」。夏の決意を聞いた海は、夏と一緒に暮らすことを選んだ。
海が転校を拒んだのは、そこに水季との思い出があったからだ。水季と歩いた学校の廊下、水季と歩いた通学路、水季と暮らしたアパート、水季が働いていた図書館。夏の知らない海と水季の思い出が、そこにはある。
海は本当は転校したくないことを電話で弥生に打ち明ける。海は転校先の学校で友達ができるか不安だった。「海ちゃん、友達作るの上手だよ」。弥生の言葉に海は救われる。電話の相手は友達だと弥生は同僚に告げた。海に友達だと告げたのは気休めではない。弥生の本心だ。家族には話せないことも友達なら話せる。
お揃いの名前
夏は海に名字を月岡に変えるのか、それとも南雲のままにするのか選ばせる。海は月岡に変えるとあっさり決めた。名字が変わっても海と水季の名前は、お揃いだからだ。海には水季の「水」を意味する「さんずい」が含まれている。海は水季にそう教わっていた。朱音や翔平も水季と同じ苗字だ。お揃いだから、「大丈夫」なのだ。海は夏とお揃いになるために名字を月岡に変えることを選んだ。
2人は夏と水季の名前もお揃いなことに気づく。水季の「季」は季節の「季」だ。夏も季節の一つである。さらに言えば、夏と海の名前もお揃いなはずだ。水季は電話で夏と別れ話をしながら海の名前を付けた。夏と水から連想して、夏と過ごした海を思い出して、水季は子供に海と名付けたのではないか。
水季の手紙と津野の忠告
夏は海との暮らしを真剣に考えた。海のことを子供扱いしなかった。転校のことも名字のことも事情を話したうえで海に選ばせた。海の不安は友達の弥生が聞いてくれる。海の子育ても月岡家のみんなが助けてくれるはずだ。
気がかりなのは夏が水季の手紙を読んでいないことだ。「海ちゃんとの生活は一人で頑張りたいから。それまで水季の言葉には頼らない」。夏は水季の手紙を読んでいない理由を海にそう説明した。水季は海を産んだ時、一人で海を育てようとして苦労した。その頃の水季のような状況に今の夏は追い込まれているのではないか。水季は、その後、津野や両親など周囲の人に頼ることを覚えた。そんな水季は夏にどんな内容の手紙を書いたのか。
夏は津野の忠告にも答えられていない。弥生と別れて1人で海を育てるという夏に津野は次々とメッセージを送った。「一人でどうするんですか」「真面目に考えてます?」「子育て舐めてませんか?」「このまま南雲さんのお宅でお願いしてもいいと思いますけどね、俺は」。水季を一番近くで支えた津野は子育ての大変さを知っている。
「お友達ではない」――第9話で津野は夏のことをそう表現した。夏も津野を友達だとは思っていないだろう。たとえ友達でなくても、海のためならば、津野は夏のことを助けてくれるなるはずだ。
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