フジテレビ系列で月曜9時から放送中のドラマ『海のはじまり』。このドラマは、『silent』や『いちばんすきな花』の脚本家・生方美久の最新作である。
※この記事には、ドラマ『海のはじまり』の内容が含まれます。『海のはじまり』はFODとTVerで配信中です。
あらすじ
父との再会
第8話では、夏が幼い頃に別れた実の父・基春との再会が描かれた。夏は、基春との再会に海を連れて行く。基春は、二十数年ぶりに会った夏に、少しおどけたような態度を見せる。それは、夏が真剣な話をしようとしても変わらない。もしかしたら、基春は自分の子供にどんな態度を取ってよいのか分からなかったのかもしれない。
さらに、基春は海の方を見ながら、「お前の子かどうかわかんないよ」と夏に言った。それを聞いた夏は、喫茶店の近くにいる大和を呼び出し、海を連れ出してもらう。感動の再会とはいかない。それは、夏も予想していた。だからこそ、大和を近くに呼んでいたのだろう。それでも、どこか期待してしまう。
「1回幻滅したくらいでね。諦めつかないんだよね」「実家帰るたびに、今日からうまくやれるんじゃないかってちょっと期待する」。自分の体験を話しながら、弥生は夏を慰めた。親との関係がうまくいっていない弥生は、何度も親に期待しては裏切られてきたのだ。
夏が基春に不信感を持ったのは、趣味が写真であることを基春が否定したからだ。幼い頃に基春からもらったフィルムカメラを夏はまだ使い続けていた。夏と基春をつなぐものが写真だったのだ。それを否定された夏は、心を閉ざす。
そんな夏と基春を写真屋の店主・新田が取り持つ。写真屋を訪れた夏に新田が言う。「2人とも説明が下手なんだよな。そっくり」。基春も夏と別れたすぐ後に、新田の元を訪れていた。基春が釣り堀で待っているという話を聞いた夏は、再び基春に会いに行く。
本音を話せる優しくない相手
基春は理想の優しい父親ではない。むしろ優しくなかったからこそ、夏は本音を口に出せた。夏は優しい人に囲まれている。月岡家の人も、南雲家の人も、弥生も優しい。だが優しいからこそ、言えない本音もある。
確かに、水季を妊娠させたのは夏だ。夏にその責任はある。ただ、水季は夏の意見を聞かずに子供をおろすのを決め、そしてそれをやめた。水季は子供を産んだことも、自分の病気のことも夏に伝えなかった。水季の死後、弥生との結婚を考えていたタイミングで、夏はそれらを知らされる。最悪のタイミング――そんな気持ちを、今まで夏は口に出せなかったのだ。
基春がシャッターを切らない理由
基春は夏にカメラをあげたことを覚えていた。ただ、写真を趣味と呼ぶことに抵抗があったのだ。「面白がるだけなら趣味。楽しみたい時に楽しむだけなら趣味。あなたは子供を釣りや競馬と同じだと思ってる」。そんな、ゆき子の言葉を基春は思い出す。基春はカメラを夏から受け取って、レンズ越しに夏を捉える。だが、基春はシャッターを切らない。
「レンズ越しに見てただけ」――基春は夏を育てられなかった自分をそう表現した。この言葉は夏にも突き刺さる。夏は、面白いからという理由で海や水季の姿を写真に収めていた。「面白い生き物」として、被写体として、レンズ越しに見ているだけでは、父になれないのだ。シャッターを切らなかった基春は、レンズを越えて、父として、夏と向き合おうとしたのではないか。
釣り堀と海岸
基春の後ろを夏がついて歩く姿は、第1話の冒頭を思い出させる(第1話の記事参照)。砂浜を歩く海を水季が後ろから同じペースで追いかける。海はふと立ち止まって振り返り、不安げな表情を浮かべる。そんな海に、水季は「行きたい方行きな」と告げる。娘の行く末を見守る母の姿だ。
一方、夏と基春がいるのは釣り堀である。釣り堀は、自然にある海とは違う。同じ水でもこちらは人工的な池だ。さらに、夏と基春の場合、先に立つのは父で、それを追いかけるのは息子だ。父の背中を見て、夏は本音を吐き出した。「ついてくんなよ」。基春はそう言って、追いかける夏を止めた。夏は基春と反対方向に立ち去る。夏と基春は再び別の道を歩み始めた。
弥生の本音
本音を口に出せない人物がもう1人いる。それが弥生だ。弥生も夏が優しすぎるがゆえに、本音を打ち明けられないでいた。そんな弥生は自分の本音を津野に打ち明ける。事情を知っている、それでいてちょっと突き放したような態度を取る津野になら本音を打ち明けられると弥生は思ったのだろう。
「海ちゃんのパパ始めようと思う」。夏は海にそう言った。はたして弥生は海の母になれるのか。そのために弥生が越えるべきものは何なのか。夏の終わりに、その答えは描かれる。
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