『海のはじまり』第5話 妊娠にまつわる男女の非対称性
フジテレビ系列で月曜9時から放送中のドラマ『海のはじまり』。このドラマは、『silent』や『いちばんすきな花』の脚本家・生方美久の最新作である。
※この記事には、ドラマ『海のはじまり』の内容が含まれます。『海のはじまり』はFODとTVerで配信中です。
あらすじ
妊娠にまつわる男女の非対称性
第5話では妊娠にまつわる男女の非対称性が描かれた。それは次のシーンに表れている。
ゆき子の言う通り、男性は誰かを妊娠させたとしてもそのことを隠せる。一方、女性は隠せない。なぜなら、女性は妊娠によって体が変化するからだ。妊娠を続ければ、おなかが大きくなる。さらに、子供が生まれれば、それを隠し通すことはできないだろう。たとえ子供をおろす場合でも病院に行かなければならない。しかも人口妊娠中絶には相手の同意が必要になる。
もちろん夏が南雲水季(古川琴音)に子供をおろせと言ったわけではない。子供をおろすのは水季の意思だった。だが、夏はゆき子に水季が妊娠したことを話さなかった。そんな夏を和哉と大和がかばう。確かに夏が水季を妊娠させたことをゆき子に隠していたのは悪い。けれども、結果的には子供は生まれていた。だから、ゆき子が夏をそこまで責める必要があるのかと、和哉と大和は言いたいのだろう。
だが、ゆき子は許さない。たとえ子供が生きていったからといって、子供をおろしたことへの罪悪感がなくなったと単純に喜んでよいのだろうか。夏には生まれた子供を育てることへの想像力が足りていない。ゆき子はそう言いたかったのではないか。
子育てへの想像力
ゆき子には夏を一人で育てていた時期があった。ゆき子が夏の実父と離婚してから和哉と再婚するまでの間だ。ゆき子はお金にも時間にも余裕がなかった。美容院に行くにも罪悪感を感じるほどだ。そんなゆき子は、夏を一人で育てるのを諦め、友達に助けを求めた。「母親一人で寂しい思いさせないなんて無理よ」と、ゆき子は振り返る。
水季にも海を一人で育てていた時期があった。水季もゆき子と同じ様に美容室に行くお金と時間の余裕がなかった。それどころか、朝食を取る時間も海の髪を編み込む余裕もない。そんな心配を海にさせてしまったと、水季は悔やむ。そこで、今度一緒に美容院に行こうと海に提案する。はたして2人は美容院に行けたのだろうか。
弥生はそんな水季の苦労を想像する。それは弥生が美容院に行くシーンで描かれた。弥生は美容師に勧められたトリートメントをオーダーする。一方、同じ美容院には、1人で子供を育てている女性客がいた。その女性は、離婚した夫が子供と面会している間に、ようやく美容室に来られていた。その女性は美容師にヘッドスパを勧められる。しかし、その女性は断る。お金と時間の余裕がないからだ。そんな女性の姿を見て、弥生は何を思ったのだろうか。
(ちなみに、この美容院は『海のはじまり』と同じ生方美久が脚本を書いた『いちばんすきな花』でも登場した。『いちばんすきな花』で美容師だったハマカワフミエも同じ役で出演している。)
確かに、妊娠や子育てには、男と女の間で非対称性な部分がある。女性のゆき子や弥生には水季の妊娠や子育てにまつわる苦労が想像できた。それに比べて男性の夏や和哉、大和には水季の妊娠や子育てにまつわる苦労がしっかりと想像できていない。それでも、それを補うことはできるはずだ。
外野の重要性
水季が1人で海を育てていた時期に、水季を支えていたのは津野だった。津野は水季の働いていた図書館の同僚である。津野は水季の勤務時間のシフトを調整したり、海を預かったりしていた。そんな津野も、今はどのように海に関わっていいのか迷っている。「血でも法律でもつながってないですからね。弱いもんですよ。そばにいただけの他人なんて」。津野は同僚の三島芽衣子(山田真歩)に愚痴る。津野と同じく海のそばにいた芽衣子も、自分たちはしょせん外野なのだと言う。だが、野球には外野も必要だ。
夏は南雲家で海と一緒に過ごすことにした。そのことを夏は「泊まる」、海は「住む」と表現した。「泊まる」と「住む」の間となる時間を夏と海は過ごすのだろう。夏に用意された部屋は、水季が生前に暮らしていた部屋だった。そのことに夏は戸惑う。
なぜ夏を水季の部屋に泊まらせるのか。それは夏に水季の生前の生活を想像させるためである。夏を水季の部屋に泊まらせるのを決めたのは朱音だった。「想像はしてください。この7年の水季のこと」。朱音は第1話で夏にそう言った。
夏が水季の部屋の扉を開けようとする。カットが切り替わると、開いた扉の先海がいる。シーンが過去に飛んだのだ。それは水季が病に苦しんでいる時期でのことである。ベッドに寝ている水季が海の姿に気づく。海は水季と一緒に寝たいと言う。海は水季がいなくなっても眠れるように、朱音と一緒に寝る練習をしていた。水季は海に「ママいなくなっちゃうんだって」と言う。海は「今いるもん」と返す。水季は「今いるんだから一緒に寝た方がいいよね」と受け入れた。
電灯を消す水季。カットが切り替わると今度は電灯が点く。電灯を付けたのは夏である。シーンが現代に戻ったのだ。夏は水季のベッドに寝転んで部屋の天井を見る。それはかつて水季が見ていた景色だ。そこに海がやってきて、夏の上に飛び乗る。夏は海を自分から降ろして、ベッドの上に並んで座る。そこで2人は、かつて水季と海が一緒に住んでいたアパートへ行くことを約束する。
夏が真の意味で海の父になるには、まだ時間が必要だ。それは夏が海の髪を乾かす姿にも表れている。海が熱がるのを恐れるがあまり、夏はドライヤーを離し過ぎている。そんな夏の姿を翔平が見守る。海の髪を整えるのは翔平の役目でもある。津野も海の髪を乾かしたり、セットしたりもしていたはずだ。それは、津野が自分の髪を乾かしているときに、ソファーの隙間に海のものらしきヘアゴムを見つけるところからもうかがえる。夏と海の距離を産めてくれるのが翔平であり、津野なのであろう。
【最終更新】2024年8月6日17時44分
更新内容:見出し画像の追加、本文の加筆修正(※記事の趣旨は変えていません)
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