朝ドラ『虎に翼』ガラス戸とふすまの演出から見る寅子と優未の変化

ドラマ『虎に翼』では、14週から16週にかけて寅子(伊藤沙莉)と優未(竹澤咲子)の関係の変化が描かれた。その変化の描写にガラス戸とふすまが効果的に使われていた。ガラス戸は登場人物たちの心の隔たりや孤独を、ふすまはその隔たりや孤独が徐々に開かれていく様子を描いている。この記事では、それらの描写を振り返る。

第67話

登戸にある猪爪家のシーン。ガラス戸の間から、寅子が仕事をする様子を見ている優未。そんな優未の姿に気づかず、原稿用紙を読み続ける寅子。寅子に声をかけることなく、その場を立ち去る優未の姿がガラス戸越しに見える。

第68話

猪爪家のシーン。生理が辛くて朝起きられない寅子に優未が「行ってきます」と声をかける。慌てて起きる寅子に優未は「お姉さんだから送ってくれなくて平気」と告げる。立ち去る優未の姿がガラス戸越しに見える。この演出には、姿は見えているのに隔たれている寅子と優未の気持ちが現れている。

第70話

猪爪家のシーン。ガラス戸越しの優未をカメラが捉える。ぼやけたガラスと木枠で隔たれてられた優未の姿が、優未の孤独を強調する。優未の傍らには喪服姿のままで眠る寅子。その様子に気づく花江(森田望智)。

第73話、74話

猪爪家のシーン。寅子は家の外から、かるたで遊ぶ優未たちの姿をガラス戸越しに見ている。それは寅子がこれまで見てこなかった優未の本当の姿だった。これまで優未は寅子の帰宅に合わせて勉強しているふりをしていた。優未のそんないい子のふりに寅子は気づいていなかった。

寅子には優未の本当の姿が見えていない――そう指摘したのは花江だった。そんな時、寅子の新潟への転勤が決まる。寅子は新潟県の裁判所で判事となるのだ。花江は新潟についていくつもりだった。寅子に優未を任せておけないと考えたからだ。しかし、花江の反対を押し切って、寅子は優未と2人で新潟へ向かう。

第76話

真夜中、寅子と優未の暮らす家に書記官の高瀬雄三郎(望月歩)が訪ねてくる。寅子に令状をもらうためだ。判事は緊急の事態に夜中でも対応しなくてはならない。そんな寅子を優未がふすまの隙間から見ている。寅子も優未の視線に気づく。これまでは優未の視線に寅子が気づくことはなかった。寅子も少しずつ変化している。

第80話

真夜中、寅子と優未の暮らす家に書記官の高瀬が訪ねてくる。寅子に令状をもらうためだ。令状を受け取った高瀬は、娘さんにとキャラメルを寅子に渡して立ち去る。応対する寅子の姿を優未がふすまの隙間から覗いている。優未が起きていることに気づいた寅子は、高瀬からもらったキャラメルを明日食べるように優未にすすめる。ふすまの隙間越しの優未の主観カットが印象的だ。

優未はふすまを開いて顔を出し、「今食べちゃ駄目?」と寅子に尋ねる。「だって、おいしいもの一人で食べてもつまらない」と優未は言うのだ。それを聞いて寅子は、亡き夫・優三(仲野太賀)と河原でかぼちゃまんじゅうを食べたことを思い出す。寅子と優三は、おいしいものをいつも分け合って食べていた。寅子と優未はキャラメルを一緒に食べる。

登戸に住んでいた時、優未はいつもガラス戸越しに寅子を見ていた。ガラス戸は見えない壁の象徴だ。そのガラス戸が新潟の家の中にはない。そのかわりにあるのはふすまだ。そのふすまを開いて優未はようやく寅子に本当の姿を見せられた。寅子もこれまで話せなかった優三との思い出を優未に話せるようになった。

寅子は変顔を優未に見せる。緊張するとおなかが痛くなる優三の緊張を解くためのおまじないだ。優未も緊張するとおなかが痛くなることを寅子に打ち明けていた。寅子の変顔に優未は愛想笑いを浮かべる。そんな優未に寅子は「無理して笑わなくていいから」と声を掛ける。「一度できた溝は、そう簡単に埋まらない」ナレーションの尾野真千子の声が響く。「でも、それでも……」と尾野の声が続く。2人の間の溝は少しずつ埋まっていくのだろう。

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