見出し画像

『三宅雪嶺人生訓』二

https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/933730/1/18

〇衰ふるもの、盛ゆるもの
 満足する者は衰へ、落胆する者も衰ふ、唯だ早く長処短処を知り、能く短処を補ふ者、隆盛の域に進むに堪ふ。

【現代語訳】
〇衰える者、盛んな者
 満足する者は衰え、落胆する者も衰える。ただ自分の長所・短所を早く知り、短所をうまく補う者は、勢い盛んな段階に進むことができる。

『日本及日本人』、『三宅雪嶺人生訓』一~二頁

【補説】
芥川賞や直木賞を受賞後、鳴かず飛ばずという作家は多い。きっと、彼らの多くは受賞で満足したのだろう。

他方で、敬愛する筒井康隆は直木賞候補に複数回ノミネートされながら、結局受賞には至らなかった。
筒井は後年、もし直木賞を受賞していたら、作家としての成長は止まっていただろうと、(皮肉を交えた)感謝の言を残している。たしかに、『大いなる助走』に描かれた選考委員への私怨は、満足も落胆もせず、ネガティブな感情と向き合ったことで傑作として結晶化できた。
嫉妬は筒井の短所だが、本人はそれをモチベーションの燃料としてうまく活用したのである。

受賞がゴールであるなら、下手に賞など貰わない方がよい。
高みを目指し続ける人間にとって、むしろ無冠はありがたいことかもしれない(と、賞とは無縁の自分を慰める)。


いいなと思ったら応援しよう!