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『三宅雪嶺人生訓』一八

https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/933730/1/21

〇発達の勢ひ
 弾丸は大なる力を以て砲口を離れざれば遠きに達せず、抑(おさ)ゆべからざる血気を以て発し、制すべからざる気力を以て進まざれば、目覚ましく活動するを得ず。

『日本及日本人』、『三宅雪嶺人生訓』七~八頁

【現代語訳】
〇発達の勢い
 弾丸は巨大な力によって砲口を離れなければ遠くには達しないように、抑えることのできない血気によって発揮しなければ、あるいは制することのできない気力によって進まなければ、目覚ましい活動はできない。

【補説】
血気や気力の重要性を説く話(「振気論」と呼ばれる)は、雪嶺に限らず戦前に活躍した言論人に広く確認できる。

具体的な根拠はないが、バブル崩壊後の日本経済の不振は青年・壮年の気力不足によるものが大きいのではないか。

戦後日本の経済成長を陰で支えたモチベーションは、裕福な生活を目指すというよりも、勝者米国を経済で打倒してやろうという、復讐のような気概があったと思われる。

若き日の青春を戦争に奪われた世代は、高度成長期は壮年として社会の中核を担い、経済を牽引した。
彼らのぎらついた仕事への執念は、心理上では経済で仇敵を負かすという、戦争の延長線上に行われたものと考えてもおかしくはあるまい。

ただ、打倒米国という目的が経済において叶えられた直後、日本経済は泡となって散り、モチベーションも当事者も消え失せた。


私が子供の時分は、やたらとエネルギッシュな大人が多かったが、今思うと彼らは密かに米国には負けまい、という気概を内に秘めていたと思う。

従軍経験者や戦後を生き延びた人は、今の人間と根本的に気力が違う。
すでに生活面でも満たされ、戦争の記憶も遥か遠い日本人は、嘗ての猛獣の姿はなく、喪家の狗と化している。

アングロサクソンにも再度負け、昔威張り散らしていた新興国にも追い越されては、亡くなった先人に顔向けもできない。

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