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「プロの“真贋士“が考えていることは何か?」を学ぶワークショップに参加しブランドについて考えが深まった話

私は現在、オンラインコミュニティのスタートアップに在籍していますが、前職は外資アパレルブランド、前々職は日本のモノづくりの会社に在籍していました。

ブランドと品質の関係や、品質にこだわるメーカーと、品質を似せてプロモーションにこだわる会社は生活者は見分けがつくのか?といったテーマには普段から関心があり、真贋美学というワークショップに先日参加しました。

プロの真贋士は何を見ているか?

五感でブランド品の真贋の世界を感じるワークショップで、プロの真贋士がどこを見ているのか?実際に模倣品と本物の実物を触りながら、本物と模倣品かを皆でクイズ形式で答えた後に、ディスカッションをするという、ワークショップです。

講座の背景にあるのは、模倣品の多さ。2023年の日本における税関での知的財産侵害品の差止件数は前年比17.5%増加の31,666件。差止点数は前年比19.7%増加の1,056,245点と高水準で推移しています。(真贋ワークショップ紹介文より)

増え続ける模倣品ですが、鑑定士の方いわく、年々クオリティが上がっていてプロでも見極めるのが難しくなってきているとのこと。実際、数年前にHermèsの模倣品販売では、なんと元Hermèsの職人が関わっていたとのこと。

https://www.wwdjapan.com/articles/1183233

模倣品がこれだけ増える背景は、ラグジュアリーブランドをできるだけ安価に購入したい層が一定数いるからですが、
「模倣品と本物の間にあるものにヒントがあるのでは?」
と問いかけをしたのが、ファッションビジネス学会FashionGood研究部会主宰の山口さん。

当日は実際に財布やバッグなどのブランド品が20品ほど、テーブルに置かれて本物か、模倣品かを当てるワークショップがありましたが、これが想像以上に難しい。

外見から判断するのは至難の業で、プロからポイントを効きつつ、細部まで見て何となくはわかりました。私の場合は目検でチェックして正答率55%ほど、プロの鑑定士さんから間に見るべきポイントを聞いて70%の正答率でした。過去に1人だけ、全問正解をした方がいたそうです。

実際に商品を触れてみて、模倣品と本物の違いで見極められたポイントはいくつかりました。

  1. ディテールの縫製やデザインが微妙な甘さがあり、違和感がある。ファスナーだったりロゴだったり、模倣品は細部を見ていくと微妙に整ってなくて、そういうのは時間をかけてみると、浮き彫りになります。

  2. 触った時の感覚が本物の方が重厚感があったり、素材の質感が指まで伝わってきた。模倣品だと、少し軽さを感じたり、触った時の感覚に安っぽさを覚えることがありました。

  3. 外観の美しさ。新品での比較ではわかりづらいのですが、ある程度使用感があった状態の方が見極めはしやすかったです。実際に本物と模倣品とでは経年変化が出てくると革の質感や全体のデザインに違いが出ていました。本物は経年変化があっても美しく、少し離れた場所から見ていても本物が纏うオーラを感じました。

興味深かったのが、「鞄や財布の表面よりも中身が大事 中身の芯の使い方が本物と模倣品では違います」というコメントです。表面は皆気にするところだから、できるだけ本物と同じにしようとしますが、見えない場所こそ、ディテールに差が出ます。これはブランド品に限らず、モノづくりでも同じことが言えると思います。

模倣品が増えた背景は、職人の労働条件に関係がある

では、なぜ模倣品がこれだけできてしまうか?というと、要因の一つとして、職人の労働条件にあるそうです。少し前に公開されたディオールの記事では44万円のバッグを作るのに、ディオールは9,200円しか製造業者に支払っていない事が判明しました。
https://www.businessinsider.jp/post-289763

会を主宰する山口さんは、ブランドがもっとサステナビリティを推進することにより、模倣品は減るのでは?と提言していました。私からみると、サスティナビリティはラグジュアリーブランドの方が進んでいるように見えますし、LVMHはサスティナビリティに1980年代から取り組んでいると記事で読んだことがありますが、素人から見てもどのブランドがサスティナビリティに力を入れて職人さんに対して正当な賃金を支払っているか?の判断は難しいです。
困ったことに、サスティナビリティの部署と、模倣品を対策する部署は縦割り組織で別になるとのことで、この辺の連携が取れていないことも要因としてありそうです。

日本は「質の良さ」をアピールしすぎているが、品質の良さは生活者はどこまでわかるのか?


ところで、ブランド物を買うときに、品質の良さは消費者はわかるものなのでしょうか?品質が良いから日本人はブランドものが好きなのか?という問いも会の中でトピックとしてあがりました。

私自身、様々な日本のモノづくりのブランドやメーカーを見てきましたが、日本のモノづくりは本当によくできています。低価格であってもある程度の質が担保されていますし、逆にメーカーの価格が品質に対して安すぎるのでは?と思うことも多いです。

以前こちらのnoteにも書きましたが、モノづくりの品質を追求するのが日本だとしたら、海外はブランド価値を高めることを追求します。

私は日本のメーカーにも、海外ブランドにも在籍していましたが、ブランドエレベーションという考え方が浸透しているか、いないかは大きな差だと思っています。ラグジュアリーブランドは、質の良いモノを作る姿勢を見せている、いわば世界観を創るのがとても上手です。

山口さんは「日本のモノづくりはよくできているけど、色気がない」とコメントしていましたが、世界観づくりも含めて、海外ブランドはそのブランドの世界に連れていってくれるような感覚があります。

日本のブランドは質ばかりを見続けているけど、そもそも品質の違いに気づく人はどれだけいるのだろうか?ブランド価値を品質と同じくらい考える必要があるのではないでしょうか。


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