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人生を本当に「生きる」ためのヒント

読書の秋2021。初参戦するにあたって選んだ本は『体験の哲学 地上最強の人生に役立つ哲学的活用法』だった。哲学には昔から興味があったし、自分自身体験することの重要性を感じているからという単純な理由で選択した。

読後の結論として。軽い気持ちで選んだものの、得られた結論は自分の人生を見つめ直すことにも繋がる、「人生を本当に『生きる』ためのヒント」を教えてくれた重要な本となった。

先に述べたように、私自身「体験」の重要性を強く信じている。他人の言葉をただ借りて、その知識をインプットして、あたかも自分が得たものとしてしまう。そんな頭でっかちに生きて、他人に何かを語るより、まずは自分でやってみる=体験することで語る言葉の方がよっぽど信憑性があり、人を惹きつける言葉になると信じてきた。

ただ、私が信じている効果的な「体験」というものは、非日常に軸足を置いたものだった。日常の中ではちょっとした体験も、日々の喧騒に埋没してしまい、体験が自分の中に残らないのではないか。だからこそ、非日常がとても重要なのだと。

しかし一方で、私たちの人生を構築するのは、圧倒的に非日常ではなく日常である。人生を本当の意味で豊かに生きるのは、日常生活を豊かに過ごす方法を模索しなければならない。この問いに対する答えは持っていなかった。

「身体は習慣通り日常生活を営んでいるが、内面的には何も感じていない人間(意識に注目すべき対象がなく、何の感覚も受け取っていない人間)」のことを哲学の世界では「哲学的ゾンビ」と呼びます。  『体験の哲学』

私たちの日常生活は、この「哲学的ゾンビ」状態にあると思う。気がつけば1日が終わり、1ヶ月が終わり、1年が終わる。「年をとるとあっという間に1年が過ぎるよ」と笑い話で言うが、それは実は本当の意味で人生を生きる上で危機的状況なのではないか。

そんな「哲学的ゾンビ」状態の日常から脱するヒントを与えてくれたのが本書である。日常の中で新鮮な気づきを得るためのコツを提案してくれている。

禅の「看脚下」の精神で、今自分の目の前にある体験に意識を向けること。意識がぼんやりとした状態で何かをするのではなく、「これから体験する」ということに意識を向けること。そうすることで、新鮮な気づきが得られると、本書は提言してくれている。

また、本書では日常的に体験してきたことに意識を向けるだけではなく、自分が意図的に選択してこなかった体験にも意識を向けることを提案してくれている。

自己選択が容易になっている今、自分に馴染みがないからとあえて選択しないことも増えた。しかし、自分に馴染みがないことを体験するからこそ、そこに新鮮な驚きや自分自身に対する気づきもあるだろう。この、新鮮な驚きや気づきがワクワク感を呼び起こし、私たちの日常を、ひいては人生を豊かにしていくのではないだろうか。

私ごとの経験として、最近はスーパーで野菜を買わず、露地栽培の野菜を取り扱う農家さんから直接野菜を買っている。すると、スーパーで買っていた時には「馴染みがないから」と手に取ることもなかったような野菜が送られてくることがある。実際に食べてみると、予想外の美味しさや初めての味に驚かされる。日常をちょっと変えるだけで、こんなにも日々が鮮やかになるものかと、自分でも驚きなのだ。

話を変えて、個人的な意見を述べたい。私は仕事として中高生と関わり合いになることが多いが、自分の「好きなこと」「将来の目標」を語れない子が多い。自分自身のその頃を思い出したら、同様だったと思う。

なぜ、好きなことを見つけられないのか。

大人たちは子供たちに好きなことを見つけさせるために様々な取り組みを手を替え品を替え与える。しかし、それよりも何よりも、子供たちにそれを施そうとする、私たち「大人自身」が好きなことを見つけられていないことが問題の根本なのではないだろうか。

今の日本には、本書で言う「哲学的ゾンビ」状態の大人があまりにも多いのではないだろうか。日本の幸福度が低いと言われる理由は、もしかしたらこの「哲学的ゾンビ」状態にある人がほとんどだからと仮定することができるだろう。

大人が「哲学的ゾンビ」なら、その背を見て育つ子供も自然と「哲学的ゾンビ」になる。この国は、「哲学的ゾンビ」人間で溢れているのかもしれない。

昔の日本人が「哲学的ゾンビ」だったとは思えない。目の前のことに意識を向けて、一生懸命に生きていたはずだ。自分の感情の変化、喜びや悲しみを純粋に感じて、素直に表していた。その一例が和歌だ。

世の中の動き、自然の移ろいをその目で見つめて、それを自分の心と調和させ、和歌に認めていた。日本人はもともと、日常を新鮮に捉えることが得意な民族だったはずなのだ。

今こそ、昔ながらの日本人の得意だった「看脚下」の精神を取り戻し、日常を毎日新鮮に、生き生きと生きることに目を向けてみるべきだと強く思う。

終わりに、今回は『体験の哲学 地上最強の人生に役立つ哲学活用法』に出会えたのは、私の人生の中で、ものすごく「歯車が噛み合った」感があり、学ぶこと・気づくことがたくさんあったため、著者に心から感謝したい。

前述した日本社会が抱える課題を、私なりにこれから解決していきたいと考えている中で、この本は重大な示唆を与えてくれた。「日常を新鮮に生きる」方法論だ。ぜひ、この本を手がかりにしたワークショップをこれから企画していきたい。

日本に生きる大人たちに生き生きとした人生を送ってもらいたい。そうすれば、子供も元気になるし、日本全体が元気になるはず。私はそんな世界を作る一助になりたい。

ぼんやりと「人生早送り」に生きるのではなく、日常の中のちょっとした体験に意識を向け、目を向け、味わい尽くす。「看脚下」を本書が提案する体験を通して行っていくことで、目の前に見える世界が鮮やかになっていくはずだ。

日常が変わることで、自分も変わる。そして、自分のワクワクに気づく。そのための大切な「ヒント」を教えてくれる。そんな本だった。


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