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『Last Night In Soho』と『Promising Young Woman』を観て

まずはエドガー・ライト監督作品を鑑賞。オープニングにはピーター&ゴードンの「愛なき世界」が流れ、主人公のエロイーズは新聞紙で作った手製のドレスを纏い踊ります。これがまたキュートでトーマシン・マッケンジーの可愛らしさ爆発です。
 本来作品は集中して最後まで観るところを時々何回かに分けて観ることがあります。今回もその予定だったのですがエロイーズが学校の寮を出て見つけた下宿先で迎えた最初の夜あたりから目が離せなくなり、結局最後まで観てしまいました。観終わって興奮というか心が動いた時の独特の落ち着きのなさを抱えたまま残りの家事を始めたのですが、やるべきことを脇に置いて観入ってしまうくらい映像と物語の展開がすばらしかったです。
 ライト監督のインタビューは山ほどオンライン上にありまして、ざっといくつか目を通したのですが、エロイーズがサンディという女性とシンクロした最初の夜のカフェ・ド・パリでのシーンはまるで魔法を使って実現させたかのようです。ジャックとのダンスシーンはカメラオペレーターや振付師など関係者の人達にいくつか提示された方法をすべて試しテイクを重ねた結果完成したようですが、滑らかにエロイーズとサンディが入れ替わります。
 『Baby Driver』といい本作といい、その映像と音楽の一体感の秀逸さに魅了されます。六十年代を描こうと思った結果、その時代が孕む闇を描かざるを得なくなったようですが、やはり目についてしまうのは蝕まれる女性たちの姿でした。この作品はその設定からホラーの要素も強いですが過去と現在がリンクして描かれるこの作品を観て思わず歴史や地理の勉強になりました。特異な街、Sohoを舞台にした必見の作品です。

[参考インタビュー]


サンディの過去を変えられなかったことで生じた無力感を拭いたいがために次の作品、エメラルド・フェネル監督作品を鑑賞。しかし私は輪をかけた無力感、さらに脱力してしまうのでした。
 キャシーを演じたキャリー・マリガンから漂う緊張や迷いや唯一無二の存在の喪失によって刻まれた深手が否が応でも伝わり物語が前に進むにつれどんどん辛くなってきました。
 フェネル監督と出演者のインタビューを動画で見たのですが、この作品の「誰も悪人が出てこない」という点から、日常として看過されている出来事の加害者と被害者、傍観者との間にある埋められない溝をとても巧妙に描いていると感じました。それはたとえ被害者の命を奪うような行為だったとしても当然のようにあちこちで起こることであり、自分もすでにそうしたことに関わっているかもしれず、すでに社会構造の中に組み込まれているようなものだとしたら、ものすごく恐ろしいことなわけです。そういった意味においてもこの作品は非常にスリラーの要素が強いように感じました。この作品にも女性が虐げられる内容が含まれており全体を通して復讐劇なのですが語られる日常に潜む想像力の欠如は映像の中のポップな色調と相反するように暗くて悲しい影を落としています。

[参考インタビュー]


この二つの作品の共通点は二人の女性の間に生まれたシンパシーだと思いました。虐げられた女性を共感した女性が救済するのです。
しかし自己と他者との境界が曖昧になることに畏れがあるため、危うさとその一方で神秘性を感じもします。
またこれらの作品のラストは怒涛の展開になっているので誰かにと一緒に鑑賞するのがおすすめかもしれません。観終わったあとに色々と話が弾むのでは、と想像します。


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