物語「MMワールド」2話 (チャーハンは強火が美味しい)
陽射しが眩しい。
そう思うといつもの散歩は少しめんどくさく感じられる。一歩一歩が面倒くさい。だけども、耳元で鳴る女性シンガーの音楽が家から目的地の公園まで歩く力をくれる。頑張れ、頑張れと応援している声がまるで自分だけを応援してくれているように感じられる。似たような歌が昔にもあったなあ、と考えているといつの間にか家の前に戻っていた。
玄関の郵便受けにはたくさんのチラシが入っていて、その中に怪しくも興味がそそられるものを見つけた。
黒色と藍色の中間の色がベースで、所々赤色の文字が書かれたカード。
ポストに入れるにはかなり大きめのカード。ぎりぎりポストに入っているほどの大きさだ。
手にとると文字が目に入ってくる。
『貴方は未来へ行きたくないですか?』
俺はチラシをぐしゃっと握りしめ、部屋に戻った。
「お帰りなさい、康太様。ただいまの時間は17時18分デス。本日仕事はナシ。ご飯をこれから作りますか?」
「いいよ。いい」
とベッドに倒れた俺には遠くで、かしこまりマシタ、という音が聞こえてくる。……フロ。 頭の中でその二文字を思い浮かべながら暗闇の中に沈んでいった。
ガタン、ゴォォォー……バン。床が揺れる。いつも通り俺の睡眠が邪魔をされた。起きたついでに腹を満たそうと立つ。
やりますか。
トントントン、トントントン。 バンバン……バン。 あっ……。
チャーハンには様々な具材を使ったものがある。キムチを具材とするキムチチャーハンや具材たくさんの五目チャーハン、とろりとした食感が特徴的なあんかけチャーハン。でも具材が無いと米だけを食べることが可能になる。米そのものの旨味を味わえる。だから今晩はシンプルチャーハンにした。
「いい匂いですね。康太様」と言うタンスの横を通り過ぎ、床に座ってご飯を食べ始める。 美味しい。 あの量販店で買った白いご飯が油にコーティングされている。その油は強火で熱されているため、ただの油でコーティングされるよりも風味が感じられ、思わずチャーハンに手が伸びる。そしてテレビ画面の中で笑う人間たちが最高の調味料になる。どこかで聞いたことがあるようなくだらない彼女に振られた話を芸人が喋って、まわりの人間達が手を叩いて大笑いをし、つっこむ。
滑稽。
強火で炒めたはずのチャーハンは、今日はあまり美味しくなかった。