「旧友」 Old Friends/サイモンとガーファンクル「ブックエンド」Bookends 第6曲
「老人の会話」が終わると、静かにフェードインしてくるストリングス。ギターのコード。一風変わったコードが2拍続きます。そのコードに乗るメロディ。というより、コードに合わせた。シンプルそのものの。
ブックエンドのように座るというとベンチで隣り合わせではなく、間を置き離れて座っている光景を想像します。親しい関係ではない。公園のベンチで、会話をかわすことのない老人が二人、少し離れて座っている寂しい光景です。
(「寂しい」というのは傍観者の一方的な想像。知り合いではなくとも、同じ歳を重ねた、つまり時代を共有した同志という意味では「幸福」ともいえます)
そういえば昔、ウィーンの公園で、老人たちが、ベンチに座って長い間静かに、読書もなにもせずただ通行人を見ている光景を目にしたことがあります。彼らは時が過ぎるのをああして一日中待っているのでしょうか?
冬なのに外で過ごしているのですね。オーバーコートに身をくるんでいても、心も体も寒い!街のざわめきは老人たちには何の関係もない単なる粉塵。コートにはりついたほこりを、彼らははらい落とすのでしょうか?
ガーファンクルのソロによるサビ。美しいメロディと、衝撃的な詩が印象的です。
70歳になる。そんな日が来ることを20歳、あるいは30歳代でも考えることは少ないでしょう。
若い頃は月日の経過については恐ろしく鈍感です。でも、確実に時は過ぎ、人は歳を重ねます。結婚し、子供が生まれ、成長し、自分の親も歳をとり、はじめて人間は自分の年齢を意識します。
しかし、その時でも、未来の年老いた自分を想像するのは難しいことです。いや、想像することから逃げているのかもしれません。
老人同士で語る共通の時代は輝かしい思い出です。他の世代には全くわからないけれど、老人同士は分かり合えるのです。しかし、分かち合うのは喜びだけでなく、恐れ。それは以後の人生に対する恐れでもあります。
ギターとストリングスのアレンジで、クライマックスを迎える「旧友」のラストは、同時にブックエンド組曲のクライマックス。ストリングスの力強い演奏は混沌とした様子に変化していきます。そして、一本の音で弦楽器が長い音符をのばした後、アルバム冒頭のメロディが再びギターで奏でられ、感動が回帰してきます。