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悪戯もほどほどにしないと大変なことに…リヒャルト・シュトラウス 交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」

リヒャルト・シュトラウス
交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」作品28
Richard Strauss(1864-1949)
Til Eulenspiegels Lustige Streiche, Op.28

生没年をご覧になればおわかりの通り長寿を全うした作曲家です。ワーグナー、ブラームス全盛の時期に青年時代を生きたマーラーと同世代。

第一次世界大戦、第二次世界大戦を経験し、フルトヴェングラーとの交友もありました。

19世紀30代なかばまでの時代は交響詩、20世紀はオペラと標題付交響曲がシュトラウスの代表分野といって差し支えないでしょうが、管弦楽曲、室内楽曲、協奏曲、合唱曲、歌曲と多岐に渡り多くの作品を残しています。宗教曲がないのが特徴でしょう。父は音楽家で祖先にも音楽家を有する家系でした。

幼少からピアノ教育を受け、6~7歳ですでに作曲を始めたといいますから驚きです。8歳でヴァイオリンを習い、11歳からは音楽理論を学んでいます。

Op.1「祝祭行進曲」は12歳の作品。その後トントン拍子で学業、音楽活動を続け、マイニンゲン宮廷管弦楽団の第二指揮者に抜擢されます。

以後ブラームスとの出会い、ワーグナー信望者のヴァイオリニストとの交友と、この両巨匠の影響を受けるのです。

影響とは端的にいってしまえば絶対音楽と標題音楽の流れといえるでしょう。絶対音楽とは、標題無用。音楽は音楽が語るもの。という主義でしょうか。ベートーヴェンが大御所でブラームスがその弟子みたいなものでしょう。

一方、標題音楽とは、標題をつけることで音楽のイメージを前面に出す。

ベルリオーズとリストが有名です。ワーグナーが大理論をぶちまけました。

別に音楽がこの二種のアプローチに二分されるわけではなく、双方が混ざり合い濃度の程度が違うだけだと思うのですが、まあ、ここは難しい話はさておき…。

シュトラウスは父がブラームス信望者だった影響で当初ブラームス派だったようですが、後にワーグナー派へ転じます。

とはいっても、両者の影響をシュトラウス流にうまく消化し、シュトラウス独自の色彩をその作品にほどこしたといえるでしょう。


シュトラウスの音楽の特徴は独特のカラー

シュトラウスの音楽の特徴は独特のカラーにあります。音楽ですからもちろん色なんかないけれど、聞こえてくる音色からいろんな色が感じられます。
弦楽器群の美しさはピカイチですし、さらにクラリネットとフルートを始めとする木管楽器のさえずりが素晴らしい。

金管楽器による演出も面白くあるときは主役、ある時は効果音的脇役と、本当に飽きさせません。ホルンの活躍には目を見張るものがあります。
あとオペラの面白さ、これも語らずにはいられません。「薔薇の騎士」「サロメ」などで別の機会にお話しますが、今日は交響詩ということで…

親しまれている「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」

「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」はシュトラウスの交響詩の中で親しまれている作品のひとつでしょう。

同題の物語をモチーフに音楽で表現したもの。演奏時間も15分程度と、比較的気軽に聞ける作品です。

14世紀ドイツ各地で悪戯の限りをつくしたTil Eulenspiegel(ティル・オイレンシュピーゲル)という男の物語です

子供の頃の悪戯は、貧しい境遇を背景にした食べ物にまつわる他愛のない悪戯(パン屋を騙してパンを手に入れる等)ばかりですが、大人になってからは、ある時は高名な僧侶になりすまし人々にでたらめな説教をしたり、まじめくさった学者に議論をぶっかけたり、どんどんエスカレートしていき、周囲の人々の被害は大きくなっていきます。

有名なお話で、翻訳本もいくつかあるようです。

シュトラウスの音楽における表現力が見事なのはどの作品を聞いてもたちまち納得させられるのですが、この「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」は本当ピカイチです。

まず最初、弦楽器と木管楽器が落ち着いた美しい調べを奏でます。
これは昔話の決まり口調で「昔、昔、あるところに、とーんでもないいたずらものがおっての~」とお祖父さんお婆さんが語るフレーズのようなもの。

ホルンが突拍子もない音階で奏でるのがティル・オイレンシュピーゲルのテーマ

やがてホルンが突拍子もない音階でティル・オイレンシュピーゲルのテーマを吹きます。これが笑っちゃうメロディ。

ホルンの高音から低音までを駆使する難しいフレーズ、ホルンという楽器の奥の深さ、そして楽しさを感じさせてくれるテーマです。

そしてこのホルンのフレーズは他の楽器により一部が曲の至る所に現れてきます。聞きながら探してみるのも楽しいです。

フレーズはオーボエ、クラリネット、弦楽器が引き継ぎ、ダイナミックな管弦楽の演奏がはじまるかと思えば、なんとも脳天気なメロディがどんどん続きます。

予想を超える音楽展開なので、息つく暇もありません。フルートが出てくるは、クラリネットが飛び跳ねるは、まるで悪戯小僧がぴょんぴょんあちこちに出現するみたい。

シンバルの音で目が覚めます。でも悪戯は続く

ここからはだまされて怒り狂った大人達の表情でしょうか。

でも、そんなことはおかまいなしでころげまわる木管楽器たち。

気品ある古典的な弦楽器の演奏がしばらく続くと思えば、それを茶化すようなクラリネットの音色、トランペットのフェイント。妙に色っぽいヴァイオリンソロ。

気品をたもつふりをしてまたもや悪戯、そのうちにばれ、怒り狂った人々に追いかけられる、スペクタクル。

悪戯も怒りも規模が徐々に大きくなっていきます。突然快活なポルカ風メロディや、美しいワルツ風メロディ。クラリネット大活躍でその音色が映えます。

ホルンのソロに続き、次第にフィナーレを予感させる大袈裟な音楽。ところどころに、ユーモラスなフレーズを加えることを忘れていません。
本当にこれで終わりか?と勘違いしそうなクライマックス!!

フィナーレの予感。ところがまだ終わらない

その音楽を断ち切るような、大太鼓連打とトロンボーン(ホルンも加わっている?)の荘厳な響き。
裁きの場面を想像させます。

ティル・オイレンシュピーゲルの往生際の悪いつぶやきがクラリネットのこっけいなフレーズで現れます。

トロンボーンが最後のとどめのような強烈な一打。

判決が決まり判決がくだる場面か?
小さなクラリネットの音、最後まで彼は黙ることを知りません。高音クラリネットは最後のあがきか?

悪戯野郎もついに降参か?それとも?厳しい裁きが? 低音弦楽器の断続的な音で表現されます。ああ、怖い音楽。

最後は、冒頭の弦楽器の音楽。

「というお話だったとさ。お・し・ま・い」

↑ショルティとシカゴ交響楽団
Spotify、AppleMusicともに「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯」は10曲目に収録されています。

↑ヤンソンスとバイエルン放送交響楽団のライブ音源もエキサイティングです!

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