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講義 西欧音楽史 第4回:中世西欧音楽(後編)

ごきげんよう、皆さん。
今回は中世西欧音楽の後半、アルス・ノーヴァとアルス・スブティリオルについて講義するわ。
Ars Novaは「新しい芸術」って意味のラテン語で、フィリップ・ド・ヴィトリさんが前回の講義で扱ったノートルダム楽派の音楽に「Ars Antiqua(古い芸術)」ってレッテルを貼って、自著の権威付けに利用したことに由来するの。
この辺りは、前回の講義の復習ね。

当然だけど、音楽は新しいから優れてるわけじゃないし、古いから劣ってるわけでもない。
仮に新しさと質が直結するなら、私がバッハさんやベートーヴェンさんの時代にはまだ発明されてなかった技法を使って曲を書いたら、私は作曲家として彼らより優れてることになるけど、そんなはずがないのは明らかでしょ?
ヴィトリさんが新しい技法を中世西欧音楽に導入したのは事実だけど、それを理由に彼の音楽がノートルダム楽派より優れてるって論理は彼の主観であって、我田引水に過ぎないの。
ただし、新しい技法の発明が音楽家として称賛されるべき偉大な業績であることもまた確かなのよ。
その業績は正当に評価しなきゃいけない。
ヴィトリさんは優れた音楽家の一人であり、でもノートルダム楽派がヴィトリより劣ってるわけじゃないってこと。
そもそも、使う技法が違えば必然的に違う作風になるんだから、両者を同じ物差しで比較することが根本的に無意味ね。
ノートルダム楽派の作品には独自の魅力があり、ヴィトリさんの作品にも独自の魅力がある。
そこから先は、聴衆の側の好みの問題。
さて、注釈はこれくらいにしてそろそろ具体的な話に入りましょうか。
皆さんにアルス・ノーヴァがアルス・アンティクアより優れた音楽だと誤解してほしくなかったから、前置きが長くなってしまったわ。


「新しい芸術」と名乗るからには、当たり前だけどアルス・ノーヴァの理論にはそれまでには無かった新しくて斬新な発想や手法が導入されたの。
じゃあ、具体的に何が新しいのかしら?
個々を見ていけばいくつもあるけど、根本的に新しい試みを可能にしたのは記譜法の進化。
以前「西欧音楽史は記譜法の発展の歴史」って言ったけど、それはここでも例外じゃないのよ。

具体的に言うと、黒色計量記譜法。
皆さんが五線譜って呼んでるものの正式名称は白色計量記譜法だから、そこにかなり近付いたわけね。
そしてこれも既に触れたことだけど、西欧音楽史における記譜法の発展は、音価とリズムを正確に記述できるように要求された結果なの。
つまり、アルス・ノーヴァの「新しさ」は主にリズムの複雑化ってこと。

何から説明すれば皆さんが分かりやすいかは講義の準備をする度に悩んでるけど、今回はこのまま黒色計量記譜法の規則の解説から入ることにするわね。

カトリック教徒の私としてはあまり嬉しいことじゃないけど、この頃の西欧じゃ十字軍の失敗とかで教会の権威が揺らぎつつあったのよ。
キリスト教の三位一体の教義から、中世西欧音楽は3拍子が原則だったことは前回の講義で話したわよね。
だけど、教会の権威が揺らいだものだから、2拍子とか4拍子の試みが行われ始めたの。

そういう需要に応えたのが黒色計量記譜法。
モード記譜法にはロンガとブレヴィスの2つしか音符が無かったけど、黒色計量記譜法ではマクシマ、ロンガ、ブレヴィス、セミブレヴィス、ミニマの5個に音符が増えた。
白色計量記譜法の全音符に相当するのがセミブレヴィスで、セミブレヴィスをタクトゥス(1拍)として数えるの。

ここで重要になるのが、きっと皆さんには馴染みがないでしょうペルフェクトゥム(完全分割)とインペルフェクトゥム(不完全分割)の概念。
例えば、白色計量記譜法では8分音符は4分音符の半分の音価よね。
皆さんにとっては常識でしょう。
だけど、黒色計量記譜法じゃ必ずしもそうじゃないのよ。

シンプルに言うと、例えばブレヴィスの音価がロンガの1/3になる場合があって、これをペルフェクトゥムと呼ぶの。
3連符と同じようなものだと思ってくださればいいわ。
白色計量記譜法じゃ3連符を専用の記号で暫時表現するけど、黒色計量記譜法ではメンスーラって記号で表現された。
両者の違いは、3連符はその記号のある音符にしか適用されないけど、メンスーラは楽譜全体に影響を及ぼすこと。

マクシマからロンガへの分割はマクシモドゥス、ロンガからブレヴィスへの分割はモドゥス、ブレヴィスからセミブレヴィスへの分割はテンプス、セミブレディスからミニマへの分割はプロラティオって呼ばれる。

この時、マクシモドゥスだけは常にペルフェクトゥムで行われる。
逆に言えば、他の3つはペルフェクトゥムでもインペルフェクトゥムでもどちらでもいいってことね。
つまり、ペルフェクトゥムのみの場合からマクシモドゥス以外全てインペルフェクトゥムの場合まで、黒色計量記譜法の音符の音価には8つのパターンがあるの。

見た目には全く同じ譜面でも、8通りの全く違うリズムがあり得るのよ。
そこで、ペルフェクトゥムとインペルフェクトゥムを明示して音価を確定させるための記号がメンスーラ。
楽譜の先頭に置かれて、これによってモドゥスとテンプスとプロラティオがペルフェクトゥムなのかインペルフェクトゥムなのかが示される訳ね。

じゃ、実際のメンスーラを見ていきましょうか。

⦿3:全てペルフェクトゥム
⦿:順にペルフェクトゥム、インペルフェクトゥム、ペルフェクトゥム、ペルフェクトゥム
○3:順にペルフェクトゥム、ペルフェクトゥム、ペルフェクトゥム、インペルフェクトゥム
○:順にペルフェクトゥム、インペルフェクトゥム、ペルフェクトゥム、インペルフェクトゥム
𝇊3:順にペルフェクトゥム、ペルフェクトゥム、インペルフェクトゥム、ペルフェクトゥム
𝇊:順にペルフェクトゥム、インペルフェクトゥム、インペルフェクトゥム、ペルフェクトゥム
C3:順にペルフェクトゥム、ペルフェクトゥム、インペルフェクトゥム、インペルフェクトゥム
C:順にペルフェクトゥム、インペルフェクトゥム、インペルフェクトゥム、インペルフェクトゥム

○は三位一体(完全)を意味してて、Cはその1つが欠けた不完全を意味してるの。
ちなみに、メンスーラは皆さんの時代の五線譜(白色計量記譜法)にも存在してるのよ。
譜面の先頭の調号のすぐ後ろに、Cって記号が書かれてるでしょ?
あれは、黒色計量記譜法のメンスーラが化石化して実質的な機能を失って、形だけ残ったものなのよ。

メンスーラの概念だけでもかなり複雑でしょ?
だけど、実際は黒色計量記譜法にはいろんな記号があって、もっと複雑なのよ。

まずはプンクトゥスから説明しようかしら。
これはペルフェクトゥムとインペルフェクトゥムの場合で役割と呼び名が変わる記号で、前者の時にはディヴィシオニス(分割点)と呼ばれて小節線の役割(黒色計量記譜法には、小節線がまだ無いの)を担う。
後者の場合はペルフェクティオニス(完全化点)と呼ばれて、これが付いた音符の音価を1/2引き伸ばす付点として働く。

次にアルテラティオ。
これは音符の音価を2倍にすることで、自分より1つ大きな音符の後でのみアルテラティオできる。
加えて完全モドゥスの時、2つのロンガあるいはプンクトゥスとロンガの間に2つのブレヴィスがプンクトゥスを挟まずに連続して置かれた場合は、2つ目のブレヴィスは必ずアルテラティオする。
この規則は完全テンプスの時のセミブレヴィスと、大プロラティオの時のミニマの場合にも全く同じように適用される。

更にコーラル(色符)って概念があって、赤色で書かれた音符は音価が2/3に縮小してることを示すの。
ペルフェクトゥムの時にはヘミオラ(2小節を纏めて3拍に分けて大きな3拍子として扱うこと)の効果を、インペルフェクトゥムの時には3連符を発生させる効果を持つわ。

かなり複雑でしょ?
だけど、プンクトゥスやアルテラティオやコーラルを上手く使いこなせば、どんなに途方もなく複雑なリズムでも作って記譜できるの。
逆に言えば、これくらいしなきゃ記譜できないくらいアルス・ノーヴァのリズムは複雑だったってことでもあるわね。

アルス・ノーヴァは記譜法と作曲技法が直結してるから、まず黒色計量記譜法の解説から始めたけど、とりあえず記譜法に関してはこんなところね。
ここからは、具体的なアルス・ノーヴァの規則に触れていきましょうか。

まず、アルス・ノーヴァの楽曲は基本的に3声部で書かれるわ。
カントゥス(上声部の歌)、コントラテノール(テノールと同じ音域の対旋律)、テノール(下声部の定旋律)の3声部で、これをカンティレーナ様式って呼ぶ。
例外はあるけど3声部の間に主従関係はなくて、リズムや和音の面でそれぞれ独立してる。

完全1度、完全4度、完全5度、完全8度は完全協和音程、その他の和音は不協和音程と扱われる。
3声部のユニゾンから楽曲が始まって、不協和音程から完全協和音程への進行が原則。
だから、前回の講義で扱ったオルガヌムでは頻繁に現れてたみたいな、不協和音の連続はアルス・ノーヴァでは回避される。

同じ理由で平行5度と平行8度は(後述の例外を除いて)禁則だけど、不協和音程の平行進行は許される。
注意すべきは、この時代にはまだ3度の和音は不協和音として扱われてること。


具体的な作曲技法を見ていくと、リズム重視の国フランスの理論だから、リズムに関するものが多いわね。

まずはシンコペーション(拍節の強拍と弱拍のパターンを変えてリズムを複雑にすること)。
アルス・ノーヴァの理論では、弱拍の音符を次の小節の強拍の音符とタイで結ぶ、強拍を休止させる、弱拍にアクセントを置くの3つの手法がシンコペーションのために用いられるわ。

次にイソリズム。
テノール声部で音高とは無関係にオスティナート的に同じリズムを反復させて、そのリズムで楽曲に秩序を与える手法。
イソリズムを使うと曲のリズムの基礎がテノール声部のそれになるから、カントゥスとコントラテノールはテノールのリズムを基礎に、ヘテロフォニー的にリズムを変化させて複雑化させるようにすること。

ホケトゥス。
リズム重視のフランス系の中世西欧音楽(イタリア系はメロディ重視)には珍しいメロディに関する技法で、1つの旋律を複数の声部で組み立てること。
例えばドレミって旋律があったら、ドとレとミを別の声部に割り振って鳴らして旋律を形にするの。
カルナータカ音楽たんをやってる私の弟のサラの担当だから、私は詳しくは触れないけど、ガムランにこれに似た手法があるらしいわね。

フォーブルドン。
定旋律と下声部の間隔を6度または8度にして、中声部に定旋律の完全4度下を割り当てる技法。
これをすると、結果的に6の和音の連続が多く生まれる。
アルス・ノーヴァでは通常はテノールが定旋律を担当するけど、フォーブルドン中は例外的に上声部のカントゥスが定旋律を担当する規則があるわ。

最後に、二重導音終止。
楽曲の終止形の概念はアルス・アンティクアの時代に生まれたけど、アルス・ノーヴァの楽曲の最後を飾る和音の進行の規則、楽曲の終わらせ方の、こと。
さっきも言ったけど、アルス・ノーヴァでは3度の和音は不協和音だから、終止形もルネサンス音楽以降の対位法とか和声法とは全く違うの。
具体的に言うと、旋律のフィナリスからそれぞれ2度-増4度-増7度上の和音からフィナリス-5度(コンフィナリス)-8度の和音への進行で楽曲を終止させる。
この時、コントラテノールは半音上行、テノールは2度下行する。
カントゥスは旋法の増7音から6音に一度下行してからオクターブ上のフィナリスに逆行進行すること。
例えば、その曲の旋法が正格プロトゥスだったら、二重導音終止はミソ#ド#→ミソ#シ→レラレになるわね。

二重導音終止の何が面白いって、ルネサンス音楽以後は禁則になった、平行4度と平行5度を同時に含んでるのよ。
だから、アルス・スブティリオルの崩壊(後述)後のクラシックでは二重導音終止は一切用いられなくなったし、狭義のクラシックに慣れた方の耳にはとても強烈な響きに聴こえる。
二重導音終止こそ、中世西欧音楽の最も中世西欧音楽らしい要素と言えるわね。

そして、ヴィトリさんの最大の功績も、この二重導音終止の発明にあるの。
具体的には、それまでの中世西欧音楽じゃ「音楽の悪魔」とまで言われて絶対的な禁則だった増4度を、二重導音終止って形で楽理に取り入れてみせたこと。
彼は自ら「新しい」って称しただけあって、グレゴリオ聖歌の頃から長らく続いてきた西欧音楽の常識と伝統を破壊してみせたのよ。

さて、アルス・ノーヴァを作曲できるだけの知識はこれで教え終わったわ。
今の皆さんは、もうアルス・ノーヴァの楽理で曲を書けるはずよ。
最後にこの時代の楽式について講義して、アルス・スブティリオルの話に移りましょうか。


まず、少し時代を先取りするけど、西欧音楽史で器楽曲が優勢になったのはバロック音楽以後のこと。
狭義のクラシックが始まってからも、ルネサンス音楽が終わるまでは声楽曲が主流だったの。
当然だけど、中世西欧音楽も原則として歌曲よ。


バラード

3声部の歌曲。アルス・ノーヴァはフランス系の楽理だから、歌詞はフランス語で書かれた。
上声部のカントゥスが歌で、コントラテノールとテノールが器楽伴奏。
形式はA-a-Bで、Aとaはメロディが同じで歌詞が違う。


ロンドー

ABaAabABって形式の、3声部の歌曲。
大文字は歌詞のリフレインを伴う合唱パートで、小文字はメロディは大文字と同じで歌詞を変えた独唱パート。


ヴィルレー

ABbaAって形式の、3声部の歌曲。
大文字と小文字の意味は、それぞれロンドーと同じ。

じゃ、次に中世西欧音楽の最高潮にして締めくくりのアルス・スブティリオル。
Ars Subtiliorは「繊細な芸術」って意味のラテン語で、アルス・ノーヴァが技巧的に極度に先鋭化した、中世西欧音楽の最末期の潮流を指す言葉。
要は、クラシックに対する現代音楽みたいなもの。

具体的に言うと、アルス・ノーヴァが記譜法を更に進歩させた(=リズムを更に複雑化させた)ことに加えて、イタリアのトレチェント音楽から流麗なメロディを取り入れて発展したのがアルス・スブティリオル。
現代音楽を除けば、西欧音楽史で一番楽曲が複雑化してた時代。

特徴はアルス・ノーヴァ以上に極端に複雑化したリズムと、トレチェント音楽由来の美しいメロディの融合。

いろんな意味で、アルス・スブティリオルって音楽体系とアヴィニョンって街は切り離せないわ。
そもそも、リズム重視のアルス・ノーヴァとメロディ重視のトレチェント音楽が融合したのは、教皇庁がローマからアヴィニョンに移ったことで、イタリアから南フランスにトレチェント音楽が持ち込まれたことが要因だもの。

そして、その成立と崩壊の経緯から、アルス・スブティリオルは西欧音楽史においてとても特殊な立ち位置にいるのよ。
例えば、3連符はこの時代に発明されたわ。
メンスーラと3連符を組み合わせたら、リズムをもっと複雑にできるでしょ?

更に重要なのは、バスの概念が生まれたこと。
アルス・スブティリオルの楽曲は、あまりにリズムが複雑になり過ぎたあまり、それまでのカンティレーナ様式じゃ楽曲を安定させきれなくなったの。
そこで、従来のコントラテノールが他の声部からの独立性が高いコントラテノール・アルトゥスと、テノールより低音のコントラテノール・バッススに分割されて、4声部になったの。

ロックバンドで例えるなら、それまではボーカル(カントゥス)とリードギター(コントラテノール)とリズムギター(テノール)の3ピース編成が一般的だったのが、ベースがそこに加わって4ピースになったってこと。
皆さんの時代だとあって当然のベースラインって概念そのものが、この時代になるまでは無かったのよ。
ただし、アルス・スブティリオルにはカンティレーナ様式を維持した3声部の楽曲も多いけどね。

前衛性も強く帯びてて、ハート型や円形の楽譜で曲が書かれることもあったわ。
こうした傾向にも、やはりアヴィニョンって都市が関係しているの。
当時のフランスは百年戦争の最中で、アヴィニョン捕囚や大シスマで教皇庁がアヴィニョンに移ってきた。
戦乱で俗世が荒廃する中で、教皇庁をパトロンに作曲家たちは前衛性を追求したわ。
乱れきった俗世から離れて、他のことを何も気にせずに音楽に専念できる、音楽家の楽園が当時のアヴィニョンにはあったの。

ただし、それは薄氷みたいなものでしかなかった。
結論から言うと、アルス・スブティリオルは2つの原因で崩壊したわ。
まずは大シスマの解消。
教皇庁がローマに戻ってしまったから、アヴィニョンに集まってた作曲家たちはパトロンを失った。
次にペスト禍。
百年戦争中、フランスはペストの大流行で滅亡寸前に追い込まれたけど、特に流行が酷かったのが南仏だったのよ。
ペストのせいで、作曲家も聴衆もみんな亡くなってしまった訳。
だから、アルス・スブティリオルの高度な技法の大半がロストテクノロジーと化して、クラシックが始まる前に西欧音楽は一度リセットされたの。
ただし、バスの概念と3連符はクラシックに引き継がれたわ。

アルス・スブティリオルが特殊って言ったのは、そういう意味。
極めて高度に発達したのに、バスの概念みたいなごくわずかな痕跡だけをクラシックに残して、まるで存在しなかったみたいに消えて、忘れ去られてしまった。
西欧音楽が再び同じ水準にまで達するには、600年も待たなきゃいけなかった。
14世紀末のアヴィニョンでだけ成立し得た、泡沫の夢。
ルネサンス音楽以降のクラシックとは全く異質な、西欧音楽のもう一つの最果て、もう一つの可能性。
だから私、アルス・スブティリオルが大好きなの。
一番好きな作曲家はマッテオ・ダ・ペルージャさん。
ちなみに、アルス・スブティリオルではバラードが主流の楽式だったわ。

キプロスのアルス・スブティリオルの扱いには迷ったけど、厳密にはあれは私じゃなくてステフの担当だから、私の講義ではキプロスにも独自色が強いフランスとは別種のアルス・スブティリオルがあった、って触れておくだけに留めるわね。


アルス・スブティリオルに関してはこんなところかしら。
最後に、中世西欧音楽で用いられた楽器を挙げて今回の講義は終わりにするわ。


ヴィエール

中世フィドルとも呼ばれる擦弦楽器。
まあ、ヴァイオリンの祖先みたいなものね。
本体とか弓の形も少し違うけど、ヴァイオリンとの最大の違いは調弦法。
楽器としての性質や形は似てても、調弦法の違いが原因で、皆さんの時代のヴァイオリンとは全く別の楽器に近いくらい奏法が違うわ。


リュート

基本的にはクラシックのリュートと同じ名前で同じ構造の楽器だけど、指じゃなくて撥で弾くのが中世のリュートの特徴。


プサルタリー

24本の弦を指で弾いて演奏する撥弦楽器。
チェンバロの祖先でもあるわ。


オルガニストルム

ハーディ・ガーディの祖先。
ハンドルを回しながら鍵盤を押して演奏する擦弦楽器ね。
要は、擦弦楽器は素人の私にも弾けるヴァイオリン。


クロモルヌ

ダブルリードの木管楽器。
フランス語読みのクロモルヌより、ドイツ語読みのクルムホルンの方が皆さんの国では一般的ね。
吹き込む息の量で音量じゃなくて音高が変化する、ちょっと珍しい楽器。
構造的に音量は常に一定で、出せる音域も狭いからバロック音楽の初期に他の木管楽器に淘汰された。


リコーダー

リコーダーはオーケストラの通常編成に含まれてないから軽視されがちだけど、元々はフルートより歴史が古くて格も高い木管楽器だったのよ。
フルートと地位が逆転したのは古典派の初期の頃で、こと中世西欧音楽の時代にはリコーダーはとても重要な楽器で、演奏される機会も多かったわ。


パイプオルガン

説明不要よね。


クラヴィコード

机の上に載せられるような、小型の鍵盤楽器。
構造的に音量がとても小さいのだけど、ハープシコードと違って強弱の表現が可能なのが特徴。
時代を大きく経たロマン派音楽の時代には、クラヴィコードを弾けることは女性のたしなみの一つとされていたわ。

以上。
これで中世西欧音楽の講義の後半は終わり。
私の講義を聞いた皆さんが中世西欧音楽に興味を持って、楽しんでくださるようになればとても嬉しいし、理論を実践して新曲を書いてくださったらもっと嬉しいわ。
特に、アルス・スブティリオル。
次回の講義で扱うのは、ルネサンス音楽と厳格対位法。
いよいよ、所謂「狭義のクラシック」よ。
楽しみに待っていて頂戴ね。


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