音楽家のリラックス法、追記
この記事は、本『演奏不安・ジストニアよ、さようなら 音楽家のための神経学』の補足、深堀りです。
今回は、演奏不安でのリラックス法の補足、書き漏らしたことの追記です。
リラックス法、補足
演奏不安、予期不安(また、前と同じ失敗やパニック発作をしそうで怖くなる)、不安障害など、恐怖を感じているときは、脳で扁桃体という部位が、警報を鳴らしています。
非常に怖かったこと、痛かったこと、ショックだったことなど、過去の出来事のせいで、今の状況を危険と判断し警報を鳴らします。多くは記憶にないか、覚えていても過去の出来事と今の状況とのつながりがわかりません。
自分にとって驚異的な体験は記憶を閉じ込めても、似たような状況や何かきっかけによって、神経系は危険を察知して我が身を守ろうとします。
交感神経系が優位になってドキドキしたり、恐怖が大きすぎて背側迷走神経系が優位になって、かたまったり頭が真っ白になったりします。
本に載せましたが、落ち着きやすくなるために、体や考えを使って、体、五感、思考から働きかけて安定させ、恐怖への閾値を上げます。マインドフルネスに、つまり、意識をじっくり向けて、ゆっくり動かしたり動く感覚を味わうことで、落ち着きやすくなり神経系は変わります。
自分の体、安らげる身体感覚や状況、安らいだ思い出など、自分の資源を活用します。自分が落ち着ける方法、落ち着く曲、癒される香り、癒される色を選ぶこと、自分に合った方法を行うことでより効果的です。
リラックスしやすくなる方法、腹側迷走神経系の作用を高める方法を、本に載せた以外を挙げます。
休みをとる
張り詰めた気持ちにゆとりを持たせましょう。がんばりすぎないことです。
週に1日、休んで気分転換をはかることをおすすめします。
練習は普段より軽めにし、難しいことはしないで、楽器から離れてのんびりしましょう。
“ねばならない”ことを手放してください。練習しなきゃいけない、勉強しなくちゃいけない、仕事しなくちゃ、家事しなくちゃいけないことは、しなくていい。1日休むだけで、次の日は驚くほど、気分良くやりやすくなります。
アウトドアに出かけたりして、日常とは違う時間を過ごしてください。
体を動かす
運動をしてください。
休憩時間にストレッチしたり、軽い筋トレをしたり、体を適度に動かすと、思考、全身をリフレッシュします。気分もよくなります。散歩もおすすめです。
スマホを見ると、頭、目、手を使うので、休憩にはなりません。
風呂につかる
お風呂で湯船につかりましょう。
重力が約1/6になって、体が重力から開放されます。体が温まり、呼吸が少し遅くなります。
きちんと睡眠をとる
おすすめは8時間で、少なくとも7時間は寝るようにしてください。よく寝ると、それだけで気分がよくなります。
ほとんどの日本人は睡眠が足りていません。夜11時過ぎ、遅くとも12時には就寝して、8時間くらい寝ると、頭がすっきりして、思考がネガティブになりません。夜に出番がある場合はできませんが、それ以外でぜひ、試してみて下さい。
寝付きをよくしたり、熟睡する工夫も取り入れてください。寝る1〜2時間前は、スマホやPCなど発光するものを見ない、大きな音を聞かないなど。
香り
嗅覚は、視覚や聴覚など他の感覚と違って、高度な大脳新皮質を経由せず、本能的な大脳辺縁系にダイレクトに届きます。大脳辺縁系は感情、行動に関わるため、香りを嗅ぐとすぐに感情が湧いたり動いたりします。
匂いは、生物として本能的な生存欲求を刺激します。おいしそうな匂い、危険な匂い、幸せ感、眠気、性欲など、人間にも備わる動物的な感覚です。
天然の植物から抽出される精油(アロマオイル)の香りは、心身に様々な効用があります。リラックスや眠気、癒やしの効果があるため、補完医療として用いられ、医療機関やケア施設で使われることもあります。
種類が多くあって、感じ方や好みが人によって違います。ご自分が落ち着く、癒されると思うものを選んで下さい。複数の精油を混ぜて、ブレンドしても楽しめます。
・(一般的に)落ち着くのは、木の香り。
〇〇ウッド、ヒノキ、プチグレン、ジュニパーなど
・気持ちが和らぎ、優しい気持ちになれるのは、花、葉。
ラベンダー、ローズ、ゼラニウムなど
・元気になりつつ落ち着くのは、柑橘系。
オレンジ、マンダリン、レモン、スイートオレンジ、ベルガモット、ゆずなど
みかんの皮を剥くと、パッと気持ちが明るくなって、同時に癒やされるように、香りの作用は一つだけではありません。本番前にはお薦めです。
視覚
・落ち着く色
ご自分が癒される色を、寝具、パジャマ、カーテンやクッションカバーに取り入れます。プライベート空間を自分の癒される色にすることで、リラックスしやすくなります。
・目を閉じる
視覚情報を遮断します。
日中、休憩時にただ目をつむったり、お手洗いの個室に入った際、目を軽く閉じるなど。
手の触覚
手触りの良いもの。
シルクなど触るとツルツルして優しい感触、ふわふわしたグッズなど感触のよいものを触る。
瞑想
有効性に関する調査から
ヨガ、太極拳、気功
ヨガを「ジストニア改善に役立つ身体技法」に載せています。ヨガは瞑想の手段でもあり、太極拳と気功とともに運動療法として用いられ、有効性も認められています。
大物が見ていると、あがりはひどくなる(追記)
カーペンターズがホワイトハウスに呼ばれ、ニクソン大統領夫妻と西ドイツ首相夫妻の前で演奏した際、カレンが「怖くなって、ドラムを叩けなくなった。息することすら怖くなった」と本に書いています。
誰が見ているかによって、あがりの程度が違ってきます。コンサートを聴きに来た人の中に、いつもより重要な人物、偉い先生や自分が尊敬する音楽家がいたら、あがりは助長される経験は、誰しもあると思います。
大きな会場で何度もコンサートした経験があっても、ホワイトハウスという特殊でかつ、狭い空間で、ドラムの大きな音を出すこと。そして、アメリカ大統領夫妻と西ドイツ大統領夫妻という世界的要人の前で、叩きながら歌うことは、大スターになっていたカレン・カーペンターにとって、普段よりも大きな恐怖でした。
22才だったカレンにとって、このときの恐怖はトラウマ的な経験になったと考えられます。