第342回/2022年に追加したオーディオ・アクセサリーを振り返った11月[田中伊佐資]
●11月×日/考えてみれば、このコラムは「ミュージックバードってオーディオだ!」というタイトルなのだが、このところのネタはレコードのことばかりでオーディオはとんとご無沙汰だった。
僕はオーディオ評論家ではないから新製品を試聴する機会はないし、大物のオーディオを買い替える予定もないから、いきおい興味があるレコードのことばかりになる。これは仕方がない。
ただまあ、そうやって開き直っていてもオトナ気ないわけで、一応コラムの意図を考慮して2022年に追加した自分のオーディオアクセサリーを振り返ってみることにした。
◎回転ヘッドシェル
高円寺のEADレコードに行ったら、鹿児島に住む木工を趣味をしている方から回転型のシェルを送ってもらったと見せてもらった。シュアのM44カートリッジのハウジングを外して中身だけにして、それを差し込む仕組みになっている。これは良さそうですねえと感嘆していたら、店主の組嶽さんがその方を紹介してくれて、僕にも同じものを作ってくれた。
素材は、球形の回転部分がローズ、そのほかはギターにも使われるボコテ。ベアリングが組み込んであってカートリッジはくるくると360度回る。溝の追随性がいいためか、清濁あわせてラウドに音が出る。開けっぴろげな感じが気持ちよくて、外す気にならない。
◎ケーブル
トップウイングの極細径4芯シールドケーブル「FLUX」は、1,650円/mという価格で想像できるようにコストパフォーマンスがベラボーに高い。ただこれは切り売り販売のため、RCAプラグを付けなければならない。それを僕がやろうとすると汚らしい仕上がりになるのは目に見えているため、シェルリード専門工房で知られるKS-Remastaに依頼した。
スタジオなどで使われるプロ仕様のケーブルが母体となっているだけあって、音は虚飾がなくストレート。そしてKS-Remastaの製作テクニックや使用ハンダが効いていると思うが、きびきびと元気がある。
ステレオ誌のケーブル座談会で「これは、音楽之友社で売ったほうがいいんじゃないか」と冗談半分で発言したら、なんとそれが実現してしまい、2023年の1月下旬からオンラインショップ「ONTOMO Shop」で販売されるらしい。
◎仮想アース
「第322回/水でこねた粉をオーディオに付けたら、ずんと音が変わった2月」に書いた通り、金井製作所の仮想アース「Konadeアース01」には驚いた。僕は仮想アースそのものに懐疑的だったが、微妙なもやつきが消えてクリアになった事実は認めざるを得ない。
◎インシュレーター
システム自体が落ち着いて、ある程度オーディオの音が練られている状態になると、インシュレーターの存在はさほど重要ではないと思うことがある。確かに入れ替えれば音は変わる。しかし僕のシステムでは、それは微妙な範囲であって、なにかが絶対に必要不可欠ということはない。いや、なかったと過去形で記すべきだろう。
実は仮想アースが好結果だったので、同じ金井製作所が作っているインシュレーター「KaNaDe」はどうなんだろうと思って、スピーカーの下に敷いてみた。これも「第334回/ビートルズの『ゲット・バック』っていい曲だなあと初めて思った7月」で書いたので、ネタの使い回しとなってしまうが、多大な効果があった。
スケール感がアップして、スピーカーが大らかに歌うようになった。これまではスパイクをはめていて、それが特に悪いと思ったことはなかったが、響こうとしているスピーカーを抑制していたかのように感じられた。これもしばらく使っていたい。
◎電源
音元出版の「オーディオアクセサリー」で、出水電器が行ったオーディオ用電源工事の取材を10年以上続けている。ここ最近のオーディオ用分電盤工事では、回線ごとに1個ずつ付ける安全ブレーカーをやめて、ELB(漏電遮断器)を使うことが増えている。そうすることで接点が減り音質向上が見込めるのだった。
僕の家はそうなっていないが、出水電器の島元社長とはしょっちゅう会っているので、いつでもいいかの気分で実行に移していなかった。そんなに変わらないだろうとみくびっていたのも事実だ。しかし島元さんがそろそろ決着をつけましょうと年末の忙しい合間を縫って工事をしてくれた。
電源工事の通例で最初は音が硬かったが、みるみるうちに角が取れて滑らかになった。以前と比べて音の情報量や立体感がまったく違う。一段階グレードが上がった。接点の数が減っただけではなく、ブレーカーの筐体強度も大きく関係しているように思える。
取材したお宅で、さんざん体験談を聞いていながらスルーしていたことが悔やまれてならない。こんなことなもっと早くやっておけばよかった。
(2022年12月20日更新) 第341回に戻る
※鈴木裕氏は療養中のため、しばらく休載となります。(2022年5月27日)
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東京都生まれ。音楽雑誌の編集者を経てフリーライターに。近著は『大判 音の見える部屋 私のオーディオ人生譚』(音楽之友社)。ほか『ヴィニジャン レコード・オーディオの私的な壺』『ジャズと喫茶とオーディオ』『オーディオそしてレコード ずるずるベッタリ、その物欲記』(同)、『僕が選んだ「いい音ジャズ」201枚』(DU BOOKS)『オーディオ風土記』(同)、監修作に『新宿ピットインの50年』(河出書房新社)などがある。 Twitter
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