バッハを聴く ブクステフーデからバッハへ
バッハ・コレギウム・ジャパンの定期演奏会『ブクステフーデからバッハへ』に行ってきました。
ブクステフーデといえば若きバッハに衝撃を与えた音楽家。
1705年、オルガニストになって2年たったバッハ(20歳)が、ブクステフーデのオルガン演奏を聴くために、アルンシュタットから400㎞以上離れたリューベックのまちに徒歩で出かけたのは有名なエピソードです。すっかりブクステフーデの演奏に心酔したバッハは4週間の休暇の予定を勝手に16週間も休み、たくさんのことを学びます。
さて、ブクステフーデってどんな人?
ディートリヒ・ブクステフーデ(1637頃-1707年)は17世紀の北ドイツおよびバルト海沿岸地域、プロイセンを代表する作曲家・オルガニスト。オルガニストであった父親に学び、リューベックの聖マリア教会のオルガニストとして生涯の大半を過ごします。約90曲あるオルガンのための作品群には、トッカータ・プレリュードやフーガ、シャコンヌなど多くの曲種があり、北ドイツ・オルガン楽派の最大の巨匠と呼ばれています。
演奏会のテーマ
《プレリュード ト短調》BuxWV 149
指揮の鈴木優人氏がオルガンソロで弾かれました。
冒頭の高音の駆け上がるような激しい音型に引き寄せられます。私はブクステフーデのオスティナート・バス(反復されるバス定型)がとても好きです。ズシッとくるビビリ音でフレーズが反復されることでグッと曲の流れの中に入っていきます。そしてなんといっても不協和音を含むフーガがカラダ全体にガツンと響き、とてもかっこいいのです。このフーガが天井の高さが38メートルもある聖マリア教会でどんなふうに響いたのか、想像しただけでも鳥肌が立ちそうです。私が好きなオルガンは、バッハが聴きたかったブクステフーデの中にあるというのが改めてわかった次第です。
↓こちらの映像は鈴木雅明氏のオルガン紀行のなかで、北ドイツの教会で演奏されたものです。オルガンの音色の作り方も説明されていて、とてもわかりやすいですよ。
《我らがイエスの御体》BuxWV 75
ブクステフーデの最高傑作のひとつです。十字架にかけられたイエスの体の、足、ひざ、手、わき、胸、心臓、顔という7部に語りかけるかたちで、その受難を思う内容の7つのカンタータからなるラテン語の作品です。A=465hzミーントーン※で調律された美しい音色で奏でられるアンサンブル、そしてそのアンサンブルの世界に歌唱陣が加わり、美しい祈りの世界が繰り広げられていきます。今日は特にソプラノの松井亜希さん、望月万里亜さんの表現力がとても伝わってきました。さらにアンサンブルでは、ヴィオラ・ダ・ガンバが小さいサイズのものから大きなものまで揃っての演奏を聴くことができた貴重な機会でした。
※ミーントーン(中全音律)は、完全5度音程にうねりのない純正律に近く、長3度音程(メジャーコード)の響きが美しいのが特徴です。12平均律と違い、どの調性で演奏しても破綻がない音律というわけではなく、♯が3つあるいは♭が2つより多い調は演奏不可能。
カンタータ第106番《神の時こそいと良き時》BWV 106
この曲はバッハ22歳、最初期のカンタータです。誰のための葬儀曲だったのかはわかっていません。実はこの曲には、個人的な思い入れがあり、好きな曲の一つです。4年前、父が亡くなった年のフルートの発表会で、この曲の冒頭「ソナティーナ」(リコーダーが演奏するところ)を演奏しました。そしていつか、BCJさんが演奏してくれないかなあと思っていたところ、今回演奏されるということで、願いが叶いました。
2本のリコーダーとビオラ・ダ・ガンバによる、静かな演奏が始まると、なぜかじわっと泣けてきました。悲しみの感情ではなく、澄みわたる空のようなイメージが心の中にひろがりました。2本のリコーダーのハモリやトレモロも効果的でした。リコーダーは全曲通じて演奏されますが、最後の締めくくりも素敵です。
今回はバッハがブクステフーデの音楽に出会ってとても衝撃を受けたことを思い浮かべながら、聴くことができました。そして、大好きな曲ばかりで、感謝の気持ちでいっぱいです。
プログラム
ブクステフーデからバッハへ
D.ブクステフーデ
《プレリュード ト短調》BuxWV 149
《我らがイエスの御体》BuxWV 75
J.S.バッハ
カンタータ第106番《神の時こそ、最上の時》BWV 106
ここまでお読みいただきありがとうございました。
過去の記事は各マガジンからもご覧いただけます。
楽しんでいただけたら幸いです。