ロバート・パーマー / Robert Palmer Sneakin' Sally Through the Alley 1974
1974年にリリースされたロバート・パーマーのソロ・デビュー・アルバム
ロバート・パーマーは、海軍情報将校だった父親が駐屯していたマルタ共和国(イギリス連邦および欧州連合の加盟国。南ヨーロッパの共和制国家)の陸軍基地から流れるラジオからペギー・リー、ナット・キング・コール他、様々な音楽を聴いて育った。
そして彼はボーカリストとしてステージではしっかりと集中できるという考えから、(家庭の日常だった)父親の海軍の軍服を彷彿させるべくスーツを仕事上の武器としてまとっていた。
そうしたステージ・ギグの中で運命的な出会いが起こる。
アイランド・レコードの創業社長のクリス・ブラックウェルは、ジャズから流行のソウルやファンクまで、あらゆるものを取り入れた音楽の知識の豊富さとそれより何より彼の声を聴いてクラブのステージで衝撃を受ける。
クリスはすぐさまロバートとソロ・アーティストとして契約を交わした。
クリスは潜在能力もさることながら、自然と漂う気品や隠しても隠し切れない軍人の家庭で育った「品格」というものも同時に見抜いており、そんな彼に自由にミュージシャンやバンドをアサイン出来るように己の人脈やネットワークをフル活用した。
彼のジャンルを行き交うハイブリッドな音楽センスや気品をアメリカのミュージシャンとジャムセッションから練り上げた生々しいサウンドを作品にぶつけていく。
曲目
Sailin' Shoes
Hey Julia
Sneakin' Sally Thru the Alley
Get Outside
Blackmail
How Much Fun
From a Whisper to a Scream
Through It All There's You
曲目感想
Sailin' Shoes
リトルフィートのナンバーをただカバーするだけではなく、ローウェル・ジョージ本人を起用し、さらにミーターズと合体させた衝撃のコラボレーションが実現!
ジャムセッションとリハーサルを重ね、こなれた感じを見計らって録音に臨んでいるのが聴いて分かる。そしてこの奇跡のミュージシャンの集合体を裏方含めてプロセス丸ごと味わい尽くしている。
1つ上げれば、ロバート・パーマーの「Sailin' shoooose~」のコブシというか力んだところなどが象徴的だ。これがとてもゾクッとしてカッコいいし、このメンバーの組み合わせでやってみたかったという喜びがストレートに表現されている。
既に作品のハイライトが訪れた感じがするが、以後極上のグルーブと抑えきれない高揚感など聴いていて知らないうちに鳥肌が立つ場面に出くわしていく。
Hey Julia
別々の録音なのに上手い具合に継ぎ目なしにアルバムタイトル曲に繋がっている。これは前の曲とその次の曲のブリッジ的な存在として配置しているようだ。
ベース・ラインが強調されているがロバート・パーマー自身が弾いている。
アカペラ調の曲は彼のオリジナルだ。
Sneakin' Sally Thru the Alley
強力なナンバーを連続で畳みかけるのでなく、音楽をなるべく咀嚼してもらうようにと継ぎ目のない3曲には意図が有って構成されているのであろう。
引き続き継ぎ目無しで先の「Sailin' Shoes」でのローウェル・ジョージとミーターズのスペシャルなグルーブが再び襲う。
にゅっと入ってくるローウェル・ジョージのスライド・ギターの絶妙な存在感と気持ち良いタイミング。平行線上にアート・ネヴィルのクラビア・サウンドのキーボードが重なり、左右のチャンネルの混在が素晴らしいのと、ノリがとても気持ち良すぎる。
ジギー・モデリストの敢えて空間を入れた抜け気味のドラムの言い知れない存在感とタイム感の気持ち良さ。。
そのドラムに乗っかるロバート・パーマーのパッションがほとばしり、それに合わさった各パートの楽器演奏の音の空間や共存具合がパーフェクトだ。
もう「音楽の贅沢」が渋滞しており、唸って聴いてる4分半は本当にあっという間だ。
まだフェイドアウトしないでもっとこのまましばらく行って欲しいと切なる願いも叶わず曲が終わってしまう。。
Get Outside
驚愕のコラボはこれで終わらない。もう一つのブッキングが以下。
クレジットではニューヨーク・リズム・セクションとなっているが、
・キーボードのリチャード・ティー
・ギターのコーネル・デュプリー
・「エンサイクロペディア・オブ・ソウル」グループ母体の発起人のベーシストのゴードン・エドワーズ
・ドラムのバーナード・パーディー
恐ろしい事にこの作品はバーナード(この人の参加も違った意味で凄い)のドラム以外のレコード・デビュー前の「スタッフ(Stuff)」と共演しているのだ!
暗く抑制されたベースのイントロから(ほぼ)スタッフ(Stuff)の全パートの演奏とローウェル・ジョージのスライド・ギターがさり気なく絡むという普通は有り得ない事が実現する様がゴージャスで至高の音空間。。
コブシを効かせ、シャウトする場面のロバート・パーマーのボーカルは少々力み気味だが、力むなというのが土台無理な訳で、彼自身が贅沢な夢の時間を噛みしめて歌っている。それがストレートに伝わってくる。
Blackmail
引き続きリチャード・ティーのモータウンの系譜を辿るようなアッパーでありながら冷静さも持ち合わせた「あの(スウィートソウル)」ピアノが聴ける。
メンバーの贅沢さに引けを取られている場合では無く、主役のロバート・パーマーは少々吹っ切れて、溌溂と歌っている。というかもうほぼ実質Stuffを聴いているとも言える。
How Much Fun
再び、ミーターズ&ローウェル・ジョージのニューオリンズ・サウンド組に戻る。
この曲はリトルフィートで良く聴く「跳ね」を強調した、ディキシー・チキンの曲のようなテンポだ。
ここでもやはりジギー・モデリストのドラムの気持ち良さに耳が引きずられる。
このドラムのタイム感とコンプレッサーとフェイザーをかまし、音数の少ないロング・サスティンのローウェル・ジョージのスライド・ギターがあまりにハマり過ぎている。そこにアート・ネヴィルの飛び切り跳ねた生ピアノが隙間を埋めるというリスナー全面降伏状態だ。
何なら本家のリトルフィートを歌で凌駕してやろうと目論むロバート・パーマーのボーカル、女性ボーカルがそこから追随するさまや展開などから前年発表されたリトルフィートのディキシー・チキンという曲を猛烈に意識している。こういうリトルフィートへの「恋慕」が次回の作品の伏線になっていく。
From a Whisper to a Scream
1970年リリースのアラン・トゥーサンのカバー曲で本作最後のミーターズ&ローウェル・ジョージのナンバー。
オリジナルの忠実さの追求ではなく、ジャムセッションから発展、完成させていく生の演奏と構成するメンバーの長所を反映させていく「コンディション」に重点を置いた仕上がりだ。
とぐろを巻いた怪しいリズム隊に抑制された中にもソウルを注入するロバート・パーマーの歌。
終盤から歌と並列するスライド・ギターとオルガンと生ピアノの共存具合など精緻に構成された録音になっている。
Through It All There's You
曲名のテーマを歌い1コードで抑制された演奏で12分近く収録されているジャムセッション・ナンバー。
ニューヨーク・リズムセクション=スタッフのメンバーに加え、スティーブ・ウィンウッドがアコースティック・ピアノでクレジットされている。
推測であるが、アイランドレコード社長のクリス・ブラックウェルに「いい研修機会、社会体験だから」ということで所属アーティストのスティーブ・ウィンウッドをイギリスからアメリカに引っ張り出した可能性は無いだろうか?
ロバート・パーマーの今回の化学反応を同時に彼にも何か引き起こせたら一石二鳥では無いかと目論んだのでは無いだろうか?
そう考えると1曲だけウィンウッドがクレジットされているのも少し筋が通ってきそうな気がする。
総論
NY組もニューオリンズ組もグルーブやノリをジャムセッションでどんな感じかを体感し、沁み込ませて作り上げているのが特徴で、録音も極力手を加えないライブ感が本作品の重要なポイントになっている。
演奏を重ねていくうちに録音に参加したアメリカのミュージシャンはロバート・パーマーは本物のシンガーなのだと認識し、確信に繋がっていく。
とにかくこの作品に参加している一流のメンバーのブッキング力が驚異的。人選があまりに玄人過ぎるのとロバート・パーマーの音楽の教養と知識の高さが伺える。そして演奏の内容が想像以上に充実している。
英国人の青年シンガーがレコード会社の社長に目に留まり、採算度外視でアメリカのニューオリンズとニューヨークでレコーディングを行うという誰も出来ない夢の組み合わせを一気に実現させてしまった「贅沢が渋滞麻痺」し過ぎた超名盤。
広い部屋の天井が高い空間で大音量の重低音のスピーカーでこの作品を一度通して聴いてみたい。
終わり
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