20240802 ジョン・レノン『マインド・ゲームス』アルティメイト・コレクション/ 1973 John Lennon 「Mind Games The Ultimate Collection」
ジョン・レノン第3作目のソロ・アルバム、2024年8月に「Mind Games the Ultimate Collection」新装ミックスでリリース。
ジョンのボーカルのクリアな生々しさは、近年録音したかのような鮮明さがある。
楽器も精緻に自然に分離されている。弦楽器の音もクリアで音圧も増した。ドラムの音も作品により相応しいグルーブにまとめられている。
レコーディング・メンバー
ジョン・レノン ギター&ボーカル
ケン・アッシャー ピアノ
デヴィッド・スピノザ ギター
ゴードン・エドワーズ ベース
ジム・ケルトナー ドラムス
マイケル・ブレッカー サックス
スニーキー・ピート・クライノー ペダル・スティール・ギター
曲目
Mind Games
Tight A$
あいすません - Aisumasen (I'm Sorry)
One Day (At A Time)
Bring On the Lucie (Freeda Peeple)
Nutopian International Anthem /(ヌートピア国際讃歌)
Intuition
Out The Blue
Only People
I Know (I Know)
You Are Here
Meat City
曲目感想
Mind Games
ジョンの活舌(かつぜつ)がかなりはっきりしており、メッセージがより距離が接近し、「どうしても言わずにいられない」本気なり迫力なりが迫ってきている。
生身のボーカルに「迫力」を持たせる事が出来ることにかなり驚いている。
その本気の歌の次にクリアに聴こえるのが中央で繰り返しリフレインしている、ジョンによるスライド・ギターの多重録音だ。
メッセージ性を強める際に繰り返す傾向があるが、今回も踏襲してスライド・ギターが非常に効果的だ。歌と同列の配置に大きく改修している。
歌詞の内容は「正」(exイマジンの世界)と「悪」との闘いという重たい題材だ。かなり踏み込み、過去のスピリチュアル系がテーマのソロ作品の楽曲の総括にも聴こえる。
演奏ではデビッド・スピノザのラスギャードっぽいギター・フレーズと2回目はレゲエ・カッティングに区別して弾くのがカッコいい。
付随して「パパパパ」とスタッカートに切るケン・アッシャーのピノも曲を盛り上げる。
こうした緻密な演奏が合わさり、アルバム・ジャケットにある曇天の空に一筋の光が差し込み導かれる(それこそスピ的展開にも取れる)様が描かれていて流石だ。
Tight A$
A$→ASS 引き締まったお尻とは、(深読みで)結婚生活の圧迫(Tight)と推測してみた。
「暑さに耐えられない場合は日陰に戻った方がいい」→別居の比喩とも
捉えることも出来る。
どこか聴き覚えのあるような曲調。。エルヴィス・プレスリーが歌っていた「Baby Let's Play House」と「That's All Right」のオマージュに聴こえる。
ギター・ソロについて特筆点はスニーキー・ピート・クライノウが弾くペダル・スティール・ギターが予想よりもフリー・スタイルで任せられている点。※過去在籍したフライング・ブリトウ・ブラザースでも聴けない自由度の高いソロプレイなのは予想外で驚きだ。
中盤はデビッド・スピノザのギターと絡むところは新装ミックスによる音の鮮明度によりよりビビッドに迫ってバンドのサウンドでカッコいい。
ジョン・レノン(uhh)といったギター・ソロの上機嫌な嬌声を聴くと重たいテーマの作品の中で、救われた気分になる。
Aisumasen (I'm Sorry) ‐ あいすません
インパクトのあるタイトルを前半に配置し、覚えた日本語を初めて作品化。ジョンの謝罪が委縮して神妙に聴こえる。(ビジネスかもしれないが)
ジェラス・ガイの続編にも聴こえる。
超の付く上級国民のオノ・ヨーコはジョンにとって(逃げたくなるくらい)想像以上に敵わない巨大な存在という側面があるのだろう。
One Day (At A Time)
前の曲の余韻が消え去り、カーペンターズの「遥かなる影」をオマージュとした曲が登場する。
ファルセットのメインのボーカルとコーラス展開もかなりそれを真似てる。
歌詞は(恐らく)ジョンにとってもヨーコにとってもお互い共依存なのだということを割りにストレートに綴っている。
歌詞の内容とカーペンターズの曲調が組み合わさることで、より私的で繊細な内面さが浮き立つように思える。
カーペンターズ調の曲にはスニーキーのペダル・スティールが自然に溶け込み聴き応えがあり貢献度が高い。
Bring On the Lucie (Freeda Peeple)
この世の中の諸悪(ルーシー)へのプロテストであり、作中最も際どい路線を行く。
歌詞の内容を中和するかのような穏やかなカントリー&フォーク調は過去のソロ・アルバム「イマジン」の作風を踏襲している。
演奏面ではイマジンのメロディに似た主旋律が歌と平行線に中央奥で鳴動しているがスニーキー・ピートクライノウのペダル・スティールが重要なポジションを担っている。
どこか「悪」を掃除機で吸い取ってるようなフレーズに聴こえる。
(ヌートピア国際讃歌) / Nutopian International Anthem
前の曲のお掃除後に「無音の4秒」は、空想国家の国歌となっている。
最終的なジョンの思想の総括というか本音は「ヌートピア」という言葉を作ることで本当は政治やスピリチャルに区切りをつけたかったのではないか。
Intuition
Intuition=直感に触れ、人間関係の構築をテーマとしており、スピリチュアル系の曲が続く。(スピ系に関する区切りかもしれない)
スティービー・ワンダーの作品に出てきそうなふわっとしたポップス調に作られている。
※後年の「ダブル・ファンタジー」の雰囲気も感じるので今後の音楽性のカギのようなものを感じる。
Out The Blue
オノ・ヨーコへの恋慕を直球で放つ。
アコースティック・ギターのアルペジオとジョンのせつないボーカルが今回のミックスによりクリアに前面に出てリアリティが増している。
「Every day~」から溜めのあるバンドの音が被さってくる。その展開やファルセットのコーラス具合などビートルズの「ホワイト・アルバム」を思い浮かべて聴いてしまう。
奥の方でスニーキー・ピートクライノウのペダル・スティールがここでも
縁の下を支えるように、今回の新装ミックスで新たな輝きを見せている。
さらにゴードン・エドワーズの後半のグリッサンドを混ぜたベース・プレイもカッコいい。
短期間にも関わらずそれぞれのスタジオ・ミュージシャンの発想やスキルは貢献度のポイントが高い。個々でそれぞれ感心する瞬間があるはずだ。
Only People
ピープルと言えば「Powe to the People」が思い浮かぶ。続編的な存在だ。
民衆パワーの有効性というもの今でもまだ通じると願うジョンは攻撃的な曲調である過去の「北風」的アプローチではなく太陽のようなほのぼのとしたアプローチで(政治的)メッセージを放っている。
I Know (I Know)
再びオノ・ヨーコへの謝罪をテーマにここはカントリー&フォーク調で仕立てているが、これがカッコいい。
他の曲と異なった角度で引き続き赤裸々に「愛」を表現していく。
アコースティック・ギターにコーラスをかけたアルペジオの音が心地良く
どことなくビートルズを思い起こす。
デビッド・スピノザのスライド・ギターが中盤から挿入されていくが
フレーズと登場のタイミングが良く、曲の貢献度が高い。
You Are Here
スニーキー・ピート・クライノウのペダル・スティールの演奏が前の曲に引き続きサスティーンを効果的に活用することで揺り篭に揺られたリラックスした境地を醸し出す。
そこからデビッド・スピノザの少しトレモロをかけたカントリー・フレーズでアシストしている。
オノ・ヨーコとの長距離の恋愛の歌詞の内容にペダル・スティールのフレーズが優しく寄り添っている。
Meat City
最後の曲に来て内省的なシンガー・ソング・ライターの曲調から唯一異なる
ロッキン・ブギだ。
1971年の後半、ニューヨークに移住して直ぐに書いた曲となっている。
作中で整合性に乏しいのは制作時の時系列によるものになっている。
今回曲のテーマによる曲順が巧妙に成立している。締めくくりに
アグレッシブなナンバーの投入はピリッとスパイスが効いている。
ところで、ドラマーがジム・ケルトナーとリック・マロッタの2名がクレジットされているがツイン・ドラムなのかと聴いてはいるが大陸的に縦横にうねる感覚が受け止められなかった。
ツイン・ドラムなのかどうか謎を残したまま作品が終わってしまった。
まとめ
1973年7月から1973年8月曲を作り録音までを超短期間で行っている。
過去3作品の世相問題、政治、スピリチャルというテーマを早々に
吐き出して区切りを付けたかった意向も感じ取れる。
NYの精鋭ミュージシャンが重すぎるコンセプト、独りよがりの危険性を見事に回避している。
マインド・ゲームス全編で演奏するミュージシャン、ジョンの赤裸々なラブ・ソングなりポリティカル(政治)なりスピリチャルなり重たいテーマに引きずられることなく粛々と中立に演奏することによって作品の価値がより高まったと思う。
彼らはビジネスに徹しており、演奏に魂を込めることに集中し今回のミックスでより伝わった。
今回の新装再発でより深く本質が見え、新しい価値が加わった作品として見えてきたとも言える再評価を願う名盤。
終わり