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#72 ザ・ウォー・アンド・トリーティ『Lover's Game』

鈴木さんへ

 今年最後の1枚は、当初映画『カラー・パープル』のサントラにしようと思っていました。日本公開は、来年2月だけれど、それに先駆けて試写を見せてもらったので。鈴木さんが言うようにミュージカル作品なので、唐突にダンスと歌が始まる違和感は、たしかにあったけれども、主演のファンテイジアをはじめ、ジョン・バティステなど音楽界から選ばれたキャスティングが素晴らしいこと。もちろん音楽もいいので、サントラにしようと思っていたんだけれど、鈴木さんが選んだザック・ブライアンにインスパイアされて、ザ・ウォー・アンド・トリーティに変えました。
 今回のグラミー賞で最優秀新人賞にノミネートされた彼らは、アフリカ系の夫婦デュオなんだけれど、カントリーの要素を自分達の音楽に取り入れていて、さらにザックのアルバム収録曲『Her Driver』にゲスト参加もしているんですよ。かつてはジャンルが壁として存在し、それを聴くファン層も明確に分かれていたけれど、今はさまざまな共演でいい化学反応が起こされて、ジャンルの境界線をいい意味で曖昧にする音楽が生まれている時代。ザックの音楽も伝統的なカントリー・ミュージックではなく、オルタナティヴ・ロックと言っていいですもんね。
 ということで、3月とちょっと前のリリースになりますが、ザ・ウォー・アンド・トリーティのアルバム『Lover's Game』を取り上げることにしました。

ザ・ウォー・アンド・トリーティ『Lover's Game』

 アルバムは、ブルージーなギターで印象的に始まる。いかにもアメリカ南部出身という感じなんだけれど、そこに続く歌は、ロックだし、デュオが結成されたのは北部ミシガン州だという。ここから多彩な裏切りがアルバムで展開されていく。ソウル、R&Bはもちろんこと、カントリー、フォーク、ロックが絶妙に交じり合った音楽。初めて聴いた時は、こんなアーティストがいるのかと驚き、そこがおもしろさを感じたけれど、それだけじゃなくて、妻のターニャ・ブラウントが映画『天使にラヴソングを2』でローリン・ヒルとデュエットしたとか、知るほどに発見がある2人なのだ。

 ターニャは、その経歴からもゴスペルを歌ってきたことがわかる、魂を解放させるようなパワフルな熱唱を得意としているが、夫のマイケル・トロッターJr.は、曲によって歌い方を変えられるタイプのシンガー。『Ain't No Harmin' Me』という曲ではざらついた声でパワフルな熱唱したかと思うと、あったかくて、慈しみに満ちた声で『Have You A Heart』を歌ったり、フォーキーなギターが奏でられる『Yesterday's Burn』の歌い回しは、まさにカントリーのシンガー・ソングライターという感じ。それでも歌い方を切り替えているような違和感はなく、声も歌い方も歌に自然に合わせられるタイプだからこそ、この多彩さを楽しめるのだ。

 ザ・ウォー・アンド・トリーティは、カントリー・ミュージック・アウォードにもアフリカ系として初めてノミネートされている。なんか”分断”が流行語のように多用されている時代に、それがどんなに後ろ向きで虚しいものなのか、こんな素敵なカタチで表現してくれている2人。心からありがとうと思う。
                             服部のり子



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