#72 ザ・ウォー・アンド・トリーティ『Lover's Game』
ザ・ウォー・アンド・トリーティ『Lover's Game』
アルバムは、ブルージーなギターで印象的に始まる。いかにもアメリカ南部出身という感じなんだけれど、そこに続く歌は、ロックだし、デュオが結成されたのは北部ミシガン州だという。ここから多彩な裏切りがアルバムで展開されていく。ソウル、R&Bはもちろんこと、カントリー、フォーク、ロックが絶妙に交じり合った音楽。初めて聴いた時は、こんなアーティストがいるのかと驚き、そこがおもしろさを感じたけれど、それだけじゃなくて、妻のターニャ・ブラウントが映画『天使にラヴソングを2』でローリン・ヒルとデュエットしたとか、知るほどに発見がある2人なのだ。
ターニャは、その経歴からもゴスペルを歌ってきたことがわかる、魂を解放させるようなパワフルな熱唱を得意としているが、夫のマイケル・トロッターJr.は、曲によって歌い方を変えられるタイプのシンガー。『Ain't No Harmin' Me』という曲ではざらついた声でパワフルな熱唱したかと思うと、あったかくて、慈しみに満ちた声で『Have You A Heart』を歌ったり、フォーキーなギターが奏でられる『Yesterday's Burn』の歌い回しは、まさにカントリーのシンガー・ソングライターという感じ。それでも歌い方を切り替えているような違和感はなく、声も歌い方も歌に自然に合わせられるタイプだからこそ、この多彩さを楽しめるのだ。
ザ・ウォー・アンド・トリーティは、カントリー・ミュージック・アウォードにもアフリカ系として初めてノミネートされている。なんか”分断”が流行語のように多用されている時代に、それがどんなに後ろ向きで虚しいものなのか、こんな素敵なカタチで表現してくれている2人。心からありがとうと思う。
服部のり子