#106 カリード『シンシア』
カリード『シンシア』
いつもこんな書き出しになってしまうけれど、カリードもこの声にひと聴き惚れした。優しさにあふれて、ハイトーンヴォイスは美しく、なによりも誠実な人柄が伝わってくるのがいい。ジャンル的にはオルタナティヴR&Bになるけれど、それはサウンドに対する位置づけで、彼自身の歌は、クラシック・ソウルの影響が色濃く映し出されている。
カリードが10代でデビューした時、神童などと言われたみたいだけれど、5年ぶりとなるこの3rdアルバムを本人は、”原点回帰”の作品という。物語を語るのが好きで、歌詞は自分の日記のようなもの。そこには恋愛などの感情が綴られていて、せつなさはあっても、怒りは感じられない。そこもまた惹かれる理由だ。
男女ともに特にヒップホップ、歴史的にそういうものかもしれないけれど、社会への不満とか、強い怒りとかをぶちまける音楽に力負けするというか、その圧を受け止めきれず、疲れてしまう。だから、カリードのような歌に出会うと、その愛がうれしくなる。UKソウルもそうなんだけれど…。
1曲、具体的には『Breathe』で話題のアーロ・パークスと共演していて、ラップするんだけれど、なんで歌じゃなかったんだろうか。2人の声の相性はピッタリだと思うから、デュエットを聴きたかった。それからオートチューンの使い方も効果的で、アルバム全体の良きスパイスになっている。
お酒を飲みながら、ほどよい大きさのクラブで、彼の生歌を聴きたい。そんなことを考えながら、ボーッと聴くのが至福の時間となってくれる。
服部のり子
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