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#106 カリード『シンシア』

鈴木さんへ

 ワン・リパブリックの新作、いいですね~。聴きながら、Zepp Tokyoでの初来日公演の盛り上がりとか、その前にしたライアン・テダーのインタビューが思い出されてきました。当時全米では大人気の状態で、「どうやったら日本で売れると思う?」と反対に質問されて、真剣に日本でアメリカ同様の大規模なライヴをやりたいって考えているんだな、というのが伝わってきたのを今でもよく覚えていますが、すでに発表されている来年1月の来日公演は有明アリーナ。着実に評価が高まり、ステップアップしていますよね。
 ところで、私も映画『トップガン マーヴェリック』を観ましたが、全然音楽のこと覚えていないです。ただ、この新作で『I Ain't Worried』を聴いた時にいい口笛ソングだなぁと。トップガンの記憶はあやふやですが、(無理筋の流れで、すみません)、さすがに昨日観たドキュメンタリー映画『ECMレコード サウンズ&サイレンス』の記憶はまだ鮮明です。ECMから出ている『オフィチウム』というアルバムが大好きで、その世界観やレコーディングの現場、さらにアルゼンチンのタンゴ酒場にも触れられたのが良かったです。映画は、10月18日から公開される予定だそうです。
 さて、今回私が取り上げるのはカリードの新作です。これまでR&Bとか、ヒップホップとかそんなに得意じゃなかったけれど、ラジオ番組『My Jam』のテーマがブラックミュージックなので、勉強しながら企画・構成を考えているなかで、この新作に出会いました。

カリード『シンシア』

 いつもこんな書き出しになってしまうけれど、カリードもこの声にひと聴き惚れした。優しさにあふれて、ハイトーンヴォイスは美しく、なによりも誠実な人柄が伝わってくるのがいい。ジャンル的にはオルタナティヴR&Bになるけれど、それはサウンドに対する位置づけで、彼自身の歌は、クラシック・ソウルの影響が色濃く映し出されている。
 カリードが10代でデビューした時、神童などと言われたみたいだけれど、5年ぶりとなるこの3rdアルバムを本人は、”原点回帰”の作品という。物語を語るのが好きで、歌詞は自分の日記のようなもの。そこには恋愛などの感情が綴られていて、せつなさはあっても、怒りは感じられない。そこもまた惹かれる理由だ。

 男女ともに特にヒップホップ、歴史的にそういうものかもしれないけれど、社会への不満とか、強い怒りとかをぶちまける音楽に力負けするというか、その圧を受け止めきれず、疲れてしまう。だから、カリードのような歌に出会うと、その愛がうれしくなる。UKソウルもそうなんだけれど…。
 1曲、具体的には『Breathe』で話題のアーロ・パークスと共演していて、ラップするんだけれど、なんで歌じゃなかったんだろうか。2人の声の相性はピッタリだと思うから、デュエットを聴きたかった。それからオートチューンの使い方も効果的で、アルバム全体の良きスパイスになっている。
 お酒を飲みながら、ほどよい大きさのクラブで、彼の生歌を聴きたい。そんなことを考えながら、ボーッと聴くのが至福の時間となってくれる。
                             服部のり子





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