#92 レイヴェイ『Bewitched:The Goddess Edition』
レイヴェイ『Bewitched:The Goddess Edition』
初めて聴いた時、1曲目『Dreamer』の冒頭のハーモニーにうっとりとなり、時間を引き戻された感覚に陥った。レイヴェイ自身の多重録音によるものだけれど、40年代に活躍したヴォーカルグループ、パイド・パイパーズの『Dream』がワッと浮かんできたからだ。
収録曲は、ほとんどが彼女のオリジナル楽曲で、例外の2曲は、彼女が愛するジャズのスタンダードだ。この2曲ではジャズミュージシャンと共演しているけれど、ジャズのアルバムではない。強いて言うならば、ジャジーなのかな。ボサノバ風もあるけれど、あくまでも”風”であって、ジャンルを超越した世界が広がっている。
実際にレイヴェイも、彼女のファンもZ世代が中心で、TikTokからのバイラルヒットで注目されるようになったけれど、Z世代の特長として配信で音楽を聴いてきたから、ジャンルで音楽を選ぶという概念が薄いんじゃないかと。その価値観が反映された作品だと思う。彼女自身は、幼い頃からチェロとピアノを習い、家では父親が好きなジャズを聴いて育ち、バークリー音楽大学への留学を経て、デビューとなった。その経歴を背景とした音楽だけれど、過去に私も多用していた「クロスオーヴァー」の音楽とは違う。ここが新鮮に響く理由じゃないかなと思う。
そして、子供の頃から低音だったというアルト・ヴォイスがまさに魅惑的で、成熟した大人に間違えられるそうだが、でも、歌唱は若々しく、決して手練れなジャズ・ヴォーカルではない。そこも大きな魅力になっている。
さらにストーリー性のある歌詞がいい。Z世代から支持されている『Letter To My 13 Years Old Self』なんて大人の私が聴いても涙が溢れてくる。この共感は、世代を超えられるもの。歌詞を知ると、もっと好きになってくる。
服部のり子