#90 ヘイリー・ロレン『ドリームズ・ロスト・アンド・ファウンド』
ヘイリー・ロレン『ドリームズ・ロスト・アンド・ファウンド』
何を歌うか。ヘイリー・ロレンは、その選択肢が幅広く、今回も意外性を含めて選曲がいい。1曲目は、ジャズの有名なスタンダードナンバー『For All We Know』だけれど、そのあとレナード・コーエンの『Dance Me To The End Of Love』やジョニ・ミッチェルの『All I Want』を歌う。しかもアレンジ、とりわけ『All I Want』ではアコギが演奏されるので、オリジナルの面影がいいカタチで残されている。そこにジョニ・ミッチェルへのリスペクトが感じられるのだけれど、その背景には配信のない子供時代にアラスカでジャズを聴き、オレゴンに移住してからシンガー・ソングライターの歌に目覚めたという彼女の音楽体験が関係していると思う。
さらに「You Took Your Love Always From Me」というサブタイトルが付いた「Sukiyaki」のカヴァーも、坂本九の独特の歌い回しを生かしつつ、即興を交えて軽やかに歌っていく。そのオリジナルへのリスペクトもうれしくて、何度聴いても涙がこぼれる。しかも日本盤のボーナストラックではなく、彼女自身が選んだ曲というところがまたうれしい。
演奏に関しては音数が少なく、そのなかで歌とたおやかに絡み合うことで、心地よさが醸し出されている。ヘイリーの声も官能的ではあるけれど、媚びない清楚な色気があるし、確かなテクニックがあるから、ムードだけで攻めるようなジャズヴォーカルではない。歌によって表情を自在に変えられるヴォーカルだ。
また、フランス語、スペイン語の歌もあって、語感の違いがまたアルバムにいい刺激をもたらしている。そういう点も含めて、「私はジャズ初心者」という人にぜひオススメしたい。ジャズの魅力を構えずに堪能できる作品だと思う。
服部のり子
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