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#90 ヘイリー・ロレン『ドリームズ・ロスト・アンド・ファウンド』

鈴木さんへ

 1曲目で泣きました。私の感情が不安定になっているのかなぁ。でも、『Ice Cream Piano』ってどういうこと?と思って、歌詞を調べるうちに涙が出てきました。「平和を望んでいない人」がいるからだって…。
 ヴァンパイア・ウィークエンドも食わず嫌いでした。だって、この名前よ。どんな子供達?という先入観があって、避けてきましたが、ヴォーカルの声がまず好きです。さらに想像とは違って、メランコリック。この感情に私は弱いので、ようやくアルバム全部を聴くことが出来ました。そのなかで『Connect』という曲のイントロのピアノとベースに聴き惚れたりと、好きなポイントが随所にありました。ご紹介をありがとうございます!
 さて、今週私が取り上げるのはジャズ・シンガーのヘイリー・ロレンの5年ぶりの新作です。連休に入り、春を満喫したいのに、なんだか仕事でゴタゴタしていて、心の安らぎを求めた結果、ヘイリー・ロレンになりました。
 それからヘイリーとは関係ないのですが、今月17日公開の映画『ボブ・マーリーONE LOVE』をひと足早く観ました。より深く、身近にレゲエの神様を感じられる映画でオススメします。ここで描かれている社会と50年以上経た今も変わらない悲しき現実。ヴァンパイア・ウィークエンドの『Ice Cream Piano』に歌ってくれてありがとうと言いたいですね。

ヘイリー・ロレン『ドリームズ・ロスト・アンド・ファウンド』

 何を歌うか。ヘイリー・ロレンは、その選択肢が幅広く、今回も意外性を含めて選曲がいい。1曲目は、ジャズの有名なスタンダードナンバー『For All We Know』だけれど、そのあとレナード・コーエンの『Dance Me To The End Of Love』やジョニ・ミッチェルの『All I Want』を歌う。しかもアレンジ、とりわけ『All I Want』ではアコギが演奏されるので、オリジナルの面影がいいカタチで残されている。そこにジョニ・ミッチェルへのリスペクトが感じられるのだけれど、その背景には配信のない子供時代にアラスカでジャズを聴き、オレゴンに移住してからシンガー・ソングライターの歌に目覚めたという彼女の音楽体験が関係していると思う。
 さらに「You Took Your Love Always From Me」というサブタイトルが付いた「Sukiyaki」のカヴァーも、坂本九の独特の歌い回しを生かしつつ、即興を交えて軽やかに歌っていく。そのオリジナルへのリスペクトもうれしくて、何度聴いても涙がこぼれる。しかも日本盤のボーナストラックではなく、彼女自身が選んだ曲というところがまたうれしい。
 演奏に関しては音数が少なく、そのなかで歌とたおやかに絡み合うことで、心地よさが醸し出されている。ヘイリーの声も官能的ではあるけれど、媚びない清楚な色気があるし、確かなテクニックがあるから、ムードだけで攻めるようなジャズヴォーカルではない。歌によって表情を自在に変えられるヴォーカルだ。
 また、フランス語、スペイン語の歌もあって、語感の違いがまたアルバムにいい刺激をもたらしている。そういう点も含めて、「私はジャズ初心者」という人にぜひオススメしたい。ジャズの魅力を構えずに堪能できる作品だと思う。
                             服部のり子


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