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#110 ベッカ・スティーヴンス『メイプル・トゥ・ペーパー』

鈴木さんへ

 テイラー・スウィフトにつづいて、ビリー・アイリッシュもハリス支持を表明しましたよね。それにちょっと噛みついているのがファレル・ウィリアムスというのも興味深い構図ですが、テイラーも保守的なカントリーミュージック出身なので、政治的な発言をするまでに周囲の反対もあったし、勇気のいることでもあったと、ドキュメンタリー作品で描かれていました。
 そんな大統領選にまつわるニュースの一方で、最近目にしたとたん、エッ!?と体が固まるのが訃報です。セルジオ・メンデス、JDサウザー、テレサ・ブライトが天に召されてしまいました。とりわけインタビューしたことがあるテレサは、まだ64歳と若いので、ショックです…。
 さてさて、オアシスですね。おっしゃる通り、得意分野ではありませんが、話題になった当時は、アルバムを聴いたし、ライヴにも行きました。それもあって、彼らのニュースにいつも注目していますが、さすがに再結成は驚きました。モメにモメた兄弟の仲がそう簡単に修復するものじゃないでしょ。再結成ツアーが無事に終わるといいなと私も願ってしまいます。
 そして、今回、私が紹介するのはジャズ、ポップ、フォークと幅広く活躍するシンガー・ソングライター、ベッカ・スティーヴンスの4年ぶりのソロアルバムです。

ベッカ・スティーヴィンス『メイプル・トゥ・ペーパー』

 むきだしの肉声で生々しく歌っていく。1曲目の《ナウ・フィールズ・ビガー・ザン・ザ・パスト》が流れたとたん、70年代が鮮明に蘇ってきた。今回の新作は、全曲ギターの弾き語り。実際にライヴ方式で録音されたという。そして、ベッカ・スティーヴンスがソングライティングからプロデュース、アレンジ、エンジニアまで全てを初めてひとりで務めている。

 最初聴きながら、怒りに近い感情が伝わってくるなと思ったら、制作のインスピレーションになったのが母や、彼女の良き理解者で共作者でもあったデヴィッド・クロスビーの死といった深い悲しみ、さらにミュージシャンにとって死活問題であるストリーミングの実態などだという。前述した《ナウ・フィールズ・ビガー・ザン・ザ・パスト》では母の死で受けた尽きない悲しみを歌い、その歌詞に母と娘の絆が感じられて強く胸に迫りくる。作曲は、悲しみを癒すためのプロセスだったようだが、その一方で、娘さんの誕生という人生最大の歓びも経験した。そういったさまざまなことから曲は生まれたようだ。

 これまでに凄腕のブラッド・メルドーやスナーキー・パピーといったジャズアーティストとも共演しているけれど、そのルーツは、アパラチアン・フォークにあるという。その影響を色濃く感じさせるのがギター。もともとギター演奏に定評のある人ではあるけれど、弾き語りにイメージする爪弾くというより、弦を力強く弾く音に生命が宿っている感じさえする。加えて、これはどうやって出しているの?と思うような不思議で、魅力的な音色も聴かせてくれる。
 そして、ギターと同じような生命力が12曲目の《ペイン・トゥ・ビー・アパート》の最後に聞こえる、子供の元気溌剌な声からも感じられる。愛する人の死が制作の動機になったようだけれど、悲嘆から見出した希望が伝わってくるようで元気を受け取れる。そして、13曲目は唯一(日本盤ボーナストラックを除いて)のカヴァーである《レインボウ・コネクション》。この選曲、編成も素敵だ。
                            服部のり子


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