#59 ポスト・マローン『オースティン』
ポスト・マローン『オースティン』
前作アルバムの作風やら、今作からのシングル曲「モーニング」「ケミカル」の曲調やら、予兆があったと言えばあったし、ポスト・マローンにロックのバックグラウンドもあることは知られている。いやしかし、これはもう正真正銘のポップ・ロック・アルバムだ。
ラップは、ほとんどなし。全曲、本人がギターをプレイしている。ビッグでキャッチーなメロディでシング・アロングを誘うアンセムも、軽快なダンス・チューンも、甘美なバラードもお手のものとばかりに、ことごとくツボを押さえた佳曲が並ぶ。起伏を抑えた、ラップ寄りのヴォーカルを聴かせる「テキサス・ティー」のようなトラックが、逆に新鮮に響くぐらいなのだから、恐れ入る。ラスト2曲「グリーン・サム」「ラフ・イット・オフ」でのリリカルなアコギ演奏と、情感ダダ漏れの歌唱に至っては、もはや泣くしか術がない。
それにしても、こんなにいい歌を簡単に作って歌われてしまった日には、正統派シンガー・ソングライター(という表現が適切かわからないけど)もバンド勢も、立つ瀬がないというものだろう。
正統派ヒップホップ・ファン(という表現が適切かもわからないけど)が、今作をどう受け止めているのか気になるところではある。いちロック・ファンの僕は好きだし、また聴くだろう。ともあれ、今はこの新世代の才能のきらめきに、ただ見とれているしかなさそうだ。
鈴木宏和