#104 ジョイ・ラップス『Girl in The Yard』
ジョイ・ラップス『Girl in The Yard』
音階のある旋律打楽器という特性を持ち、奏でられる倍音の美しさが際立つ。くわえて故郷のアフリカを偲びリズムを叩きたいという欲求と情熱から、破棄されたドラム缶で手作りしたというスティールパンの原点。いわゆる悲劇の歴史から生まれた楽器ではあるのに、音色はとてもピースフルというのも無性に心惹かれるところだ。
ジョイ・ラップスとの出会いは偶然だった。何か調べ物をしている時に美しいジャケットに出会い、アルバムを聴いてみた。そして、聴きながら、収録曲のタイトルに女性の名前がついたもの、たとえば、『Lulu's Dream』とか、『Sharifa the Great』とか、多いのが気になり、調べてみると、愛する姉や妹にインスパイアされて書かれた曲だったりした。一般的にスティールパンは、カヴァーが多く、耳馴染みのあるメロディーをこの独特の涼やかな音色で聴かせるのを得意としているけれど、大学で作曲を学んだジョイは、オリジナルを演奏する。しかもジャズというのが大きな特徴だ。
作曲は、夫のラーネル・ルイスに勧められて、本格的に始めたというが、このラーネルがレコーディングのキーマンだろう。同郷トロント出身の彼は、『Sharifa the Great』のMVでドラムを演奏している人だけれど、凄腕ジャズ集団スナーキー・パピーのメンバーでもある。そんな彼の影響もあってか、ドラム、パーカッション、ピアノ、オルガン、ギター、ベース、サックス、フルートなど大編成で、いい意味でスティールパン=カリビアンのイメージを覆す。もちろん『Juliet Blooms』のように映画『リトル・マーメイド』を彷彿させる爽やかなリズムの曲もあるけれど…。
さらに『Josie's Smile』ではジョイがリスペクトするNY出身のスティールパン奏者のアンディ・ナレルが参加しているところも聴きどころ。2台のスティールパンから放たれる涼やかな音色が空間を気持ちよさそうに滑っていく。そんな印象で遊ぶ時間が私の癒しとなってくれる。
服部のり子