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#127 フランツ・フェルディナンド 『ザ・ヒューマン・フィアー』

服部さんへ、そしてアレクシス・フレンチ好きの読者さんへ

 そうそう、毎日新聞「らっこ」ですよね。あんなふうに、洋楽を自由に書ける場があったなら。しかも仕事で……と、ないものねだりをしたくなってしまう今日この頃。昨日。おととい。
 アレクシス・フレンチは、はじめましての一目惚れならぬ一聴き惚れ、と思ったら、2度目でしたか(汗)。ピアノのタッチに、人としての優しさや温かさ、繊細さがそのまま表れているようで、心に沁みます。ベートーヴェンの「運命」の解釈などには、クリエイティヴィティの豊かさを感じるし、「Soar」という歌モノでのフィーチャリング・ヴォーカルのセンスなんかも、実に見事。
 そして、オリジナル楽曲がまた、いいですね。このアルバムを、“人生のサウンドトラック”と呼んでいるとのこと。Vol.2も早晩リリースされると思われるので、それもぜひ聴いてみたいです。
 さて、今回僕が取り上げるのは、2024年にデビュー20周年を迎えたフランツ・フェルディナンドです。

フランツ・フェルディナンド『ザ・ヒューマン・フィアー』

 まずは↑のアーティスト写真を、ご覧ください。フランツ・フェルディナンドに対して僕が抱いているイメージがまさに、こんな感じなのです。捻くれたカッコよさというか、すっとぼけたカッコよさというか、竹中直人の「笑いながら怒る人」的なカッコよさというか……。
 個人的にこのバンドは、写真でヘンテコなポーズを決めているアレックス
・カプラノスと、ニック・マッカーシーのふたりの化学反応がキモだと思っていたので、ニックの脱退でなんとなく距離ができてしまっていたのだけど、気づけば6年ぶりとなるニュー・アルバムをしっかり聴いてみて、猛省。いや〜、やっぱりいいですわ、フランツ。ごめん、アレックスさん。貴方は素晴らしい。
 あえて変化球的なナンバーから取り上げると、「Tell Me I Should Stay」や「Black Eyelashes」などは、文系的でオタク的とも言えるニックの志向性を伝えつつ、バンドの進化を体現していて、なんだか楽しい。

 まあ、アルバム・タイトルからわかる通り、アルバム全体のテーマは“恐怖”なんですけどね。でも、そこを重くさせず、どんよりもさせず、カッコいい捻くれポップに仕上げてしまうんですよね、このバンドは。
 そして、僕が大好きな“フランツ節”を聴かせてくれるのが、捻くれにエッジとキャッチーさと華やかさを加えて撹拌したような、以下のような絶妙なバランスの曲たち。


 ほとんどが2〜3分台の計11曲、トータル35分というタイム感&曲の流れも、めちゃくちゃ気持ちよくて、すぐに頭からまた曲順通りにリピートしたくなってしまうという意味では、“フル・アルバム”という表現としても秀逸な1枚です。
 はい、意図して『頭から曲順通りに』とか『1枚』とか書きました。アルバムとして聴いてこその旨味もコクも堪能できるので、ぜひご賞味ください。これこそ、アートとポップの融合、大衆的で革新的なロック作品と言えるのではないでしょうか。
                              鈴木宏和


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