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#132 レイヴェイ『A Night At The Symphony:Hollywood Bowl』
鈴木さんへ
ヴォーカルの声がU2のボノに似ているなぁ、なんて思っていたら、鈴木さんの原稿にイライジャの父親がボノとあって納得と、親子ってこんなにも声が似るんだとビックリです。きょうだいは、よく声もしゃべり方も似るもんですが……。
インヘイラーは、ちゃんと日本盤CDが出るんですね。かつてコアーズとかが世界的に成功した頃かな、アイルランドで青田買いが横行したことがあったけれど、そのブームが落ち着いてもこうした実力のあるバンドは、ちゃんと出てくるんですよね。最近アイルランドと距離があったので、うれしい出会いになりました。
ところで、ブームってなんでしょうね。堺正章さんの著書『最高の二番手』を読みながら考えるなか、グラミー賞のロック部門の結果にあらためてロック受難期なんだなと、そして、一番手の安定した強さを再認識しました。
さて、私が紹介するのはレイヴェイのライヴ・アルバムです。昨年5月に彼女の日本デビュー盤『ビー・ウィッチド:ザ・ゴッデス・エディション』を取り上げましたが、その収録曲をオーケストラとの共演で聴けます。
レイヴェイ『A Night At The Symphony:Hollywood Bowl』
レイヴェイ初のコンサートフィルム『レイヴェイ:A NIGHT AT THE SYMPHONY: HOLLYWOOD BOWL』を観てきた。わずか10日間の公開で、知らない人も多かったのではと思うけれど、98分の上映後、エンドクレジットを見ながら静かに涙がこぼれた。この涙の理由は、なんなのだろうか……。
コンサートは2部制で、前半はバンドと、後半でロサンゼルス・フィルハーモニックと共演した。会場は、LAの野外会場ハリウッドボウルで、キャパは約17500人。もちろんソールドアウトだった。そのコンサートの後半がライヴ・アルバムになった。
アルバムは、『Dreamer』という私の大好きな曲から始まり、『From The Start』までの15曲。本人がMCでも言っていたけれど、彼女自身にクラシック音楽の素養があること、さらにゆったりとした曲調のものが多いこともあって、オーケストラの壮大な演奏に負けることなく、アルト・ヴォイスでイキイキと伸びやかに歌っているのがまず際立っている。日本でもポップ・ミーツ・クラシックのコンサートが人気で、何回か見ているけれど、オーケストラとの共演は、想像以上に難しいので、実力が露呈してしまうことがままある。そういう意味では安定した歌唱力が頼もしいくらいだ。
映画を観ていないとわかりにくいかと思うが、6曲目の『Valentine』の歌の途中で、“It’s So Cute”という声が聞こえるが、これは会場から照らされたスマホのライトに反応したこと。また、最後の『From The Start』で“She‘s so perfect”と歌うと、続いて会場全体から”blah,blah,blah”と大合唱が沸き上がった時に極上の笑顔があった。
その笑顔と同じくらい幸せな笑顔が客席にもあった。グラミー賞でのドーチーやチャーリー・XCXといった女性アーティストの煽情的なパフォーマンスを観て、これが今のメインストリームかとショックだったが、そうじゃないもの、コンサバ的なものが好きな人達がここにいる。だからこその人気なわけだけれど、きっとレイヴェイと彼女の音楽に自己肯定出来ている女の子のいるはず。そんな思いが涙になったのかもしれない。
服部のり子