#116 リベラ『DREAM』
リベラ『DREAM』
リベラは、歴史ある名門少年合唱団とは異なり、ひとりの男性ロバート・プライズマンの情熱で結成されて、地元サウス・ロンドンで歌に興味がありそうな子供達をスカウトするところから始まった。それが30年近く前のこと。そんな後発だからこそ、歴史が浅いからこそ、伝統に縛れることなく、さらにプライズマンの「メンバーをクローン化しない」という方針からメンバーそれぞれのナチュラルな発声の歌が育まれてきた。また、合唱=ピアノの伴奏という常識にも縛られることなく、ストリングスやホーン、キーボードなどの演奏で織りなすサウンドも独創的だ。
そのプライズマンが亡くなり、彼の愛弟子サム・コーツが後継者となって、前作からサムが音楽監督を務めているが、若い彼のカラーが全面的に生かされているのがこの新作『DREAM』になる。具体的にどういうところが新しいかと言うと、たとえば、『ラプソディ・イン・ブルー』。このガーシュインが制作した出演者全員が黒人というオペラの有名な劇中歌は、ジャズで演奏されるなど、大人向きと思われてきたけれど、タイトルを『そして、音楽は生まれた』に変えて、歌詞もリベラの音楽の核となる”天の導き”を歌っている。これが大人びたということなく、すごく洗練された歌になっていて、ガーシュインのメロデイーの素晴らしさを再認識すると同時に、リベラの可能性をさらに示す歌になっている。
他にも坂本龍一の『メリー・クリスマス・ミスター・ローレンス』や『ハッピー・クリスマス(戦争は終わった)』などポップ・ミュージックを取り上げたり、ベートーヴェンやリスト、ドヴォルザークといったクラシックの楽曲に歌詞をつけて歌ったりもしている。ここがオリジナルを重視したプライズマン時代との違いだろう。当初は、彼が不在のなか曲はどうするのか、不安や苦悩があったと思うが、これらのカヴァーが成功することで、ファンに対しても新たな道を示すことが出来たと思う。
ちょうどさきほど朝のTV番組でリベラの密着取材の模様が放送されていた。そのなかで性別、年齢に関係なく、コンサートで静かに涙を流す観客の姿が映し出されていた。その涙は、閉ざしていた心が開放されて、感情が素直に動くようになったのと同時に、歌に夢中になれて、遥々ロンドンから日本にやってきて、大舞台で成功している子供たちの姿にも感動するからではないか。
これからの時期年末に向けて、何かと忙しかったり、悩んだりすることが多くなるけれど、そんな時にこそ心の澱をリベラの歌で押し流して、とオススメしたい。きっと目に映る風景さえも変わってくるはずだから…。
服部のり子
追記 最後にもうひとつ、映画『誰も守ってくれない』の劇中で私が号泣した歌のMVです。
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