#103 イン・イン『マウント・マツ』
イン・イン『マウント・マツ』
不快指数200パーの暑さゆえ、僕も今回は気持ちだけでも涼しくなるような作品をと、クルアンピンを取り上げるつもりだったのだけど、配信でFUJI ROCKを観て、ぐぐぐっときてしまったので、同じインスト中心のバンドでクルアンピンにも音楽性が近い、イン・インの最新作をプッシュしたい。
FUJI ROCKで初来日を果たしたイン・インの舞台は、ピースフルな会場群の中でもとりわけピースフルな、FIELD OF HEAVEN 。何がぐぐぐって、メンバーがスマホのメモを見ながら、どれだけ日本でライヴすることを夢見てきたか、どれだけ今ここにいることがうれしいかを、日本語でたどたどしくも一生懸命、満面の笑顔で伝えていたこと。キャッチ・フレーズまで日本語でつけたメンバー紹介まで、ひと言ずつかみしめるように語る姿に、涙が出そうになった。FUJI ROCKのあの空気感の中だったら、間違いなく嗚咽ものだったと思う。
その彼らの新作がまた、日本人との親和性がめちゃくちゃ高い、極東インスト・ロック/ポップとでも呼ぶべき逸品なのだ。「卯年」に「寅年」、「子守唄」「東京ディスコ」「佐野の粘り強さ」「松の高みを目指す」(以上邦題)といった曲名もお見事なら、クラフトワークにYMO、ファンク、サーフ・ロック、ディスコ、東洋歌謡風……と、節操がないようで、なぜか絶妙にバランスが取れたサウンドは、まさに唯一無二。その中から、高橋幸宏へのオマージュだという「タカハシのタイミング」と、好対照なチル曲「ディナーのための指圧」の個人的推し2曲をアップしておきたい。いやしかし、ナイスなネーミング。
繰り返しますが、オランダの人ですよ、全員。日本のどこがそれほど魅力的なのかは、本人たちに聞いてみないことにはわからないけれど、こんなバンドが出てきてくれるところが、デジタルネイティヴ世代の音楽の面白さなのかもしれない。クルアンピンともども、亜熱帯化したイヤ〜な夏を乗り切る最高のパートナーになってくれそうだ。
鈴木宏和