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#107 ビーバドゥービー『ディス・イズ・ハウ・トゥモロー・ムーヴス』

服部さんへ

 前回ご紹介したワンリパブリックも出演した、SUMMER SONICを配信で観たのですが、ほとんどJ-POP/アイドルの祭典と化していて驚きました。ビルボードによる調査でも、日本のリスナーの洋楽(特に米国産)離れは明白だし、これが現実なのでしょう。観ておきたかったクリスティーナ・アギレラ(残念ながら配信なし)の客入りも、芳しくなかったようだし。そのあたりの世代で言うなら、もはやビヨンセぐらいしか響かないのかな……。
 気を取り直して、カリードの新作紹介、ありがとうございます。シルクのような風合いや光沢感を持った、優しく柔らかな歌声が心地よくて、この季節の清涼剤として打ってつけの作品ですね。柄にもなく、ドライブに似合いそう、なんてことを考えてしまいました。運転もできないのに。
 僕もアーロ・パークスに注目していたので、M-8が聴けて良かったです。彼女の魅力が大いに引き出された、素晴らしいコラボだと思います。個人的には、歌メロ+ラップもまたいいかなと。
 さて今回は、陰ながらずっと応援しているビーバドゥービーの新作を、ご紹介させていただきます。

ビーバドゥービー『ディス・イズ・ハウ・トゥモロー・ムーヴス』
 
 一昨年のサマソニで初来日した、ビーバドゥービーことビートリス・クリスティ・ラウスは、2000年にフィリピンで生まれ、ロンドンで育ったシンガー・ソングライター。アジア系女性として人種差別を受けることも少なくなく、自身のアイデンティに悩んだ時期もあったようだが、今や世界中に彼女の音楽を必要としている人がいる。その事実を、同じアジア人として心から祝福したい。テイラー・スウィフトのツアーのオープニング・アクトという貴重な経験を経てリリースされた、この3作目のフル・アルバム『ディス・イズ・ハウ・トゥモロー・ムーヴス』は、すでに全英チャート1位を獲得している。
 レッチリやU2、ストロークスからレディー・ガガ、アデルまで、数多くの名作を手がけてきた名匠リック・ルービンが、プロデュース参加を買って出た今作。ビーバドゥービーは自身の音楽的ルーツである90年代のロックを下地にしつつ、初期衝動よりも感情の繊細さや奥の深さ、攻撃性よりも内省へとシフト・チェンジしており、そのサウンドと歌は、少女から大人になった彼女の姿を映し出したかのようだ。本人がフィオナ・アップルから影響を受けたという、直裁的な歌詞も読み解きたくなってくる。

 アルバム全編を通して、より美しさが際立ったメロディは、グランジやオルタナといった枠を超えて、たとえばビートルズにも通じるクラシカルな輝きを放っている。「Ever Seen」という楽曲は、彼女が大好きな日本で撮ったMVも必見。

 グランジ/オルタナの薫りを楽しみたい方は、「Beaches」をぜひ。甲乙つけ難い楽曲が並ぶ中、個人的にはこれが一番好きです。

 楽器なんか弾けなくたってアーティストになることができる時代に、90年代ロックで音楽に目覚め、ギターを手にして曲を書いて歌う24歳。自分の気持ちを、相手に面と向かって、自らの言葉で一生懸命伝えようとしているようなアルバムのアートワークにも、なんだか感動してしまった。
                              鈴木宏和


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