見出し画像

コオロギはどんな味?実際に食べた感想とコオロギ食についての考察

はじめに

近年、昆虫食が注目されています。おそらく引き金となったのは2013年の国際連合食糧農業機関(FAO)の昆虫食に関する報告書(全文英語)でしょう。

ここでは、近年の食糧問題の解決のため、栄養豊富で養殖のときに環境負荷の少ない昆虫を食用・飼料用として活用することが推奨されています。現在では食用昆虫の研究が世界各国の企業や大学などで盛んにおこなわれていて、多くの昆虫食商品が流通しています。

昆虫食ビジネスに携わっている世界の企業をまとめた図。
出典:「昆虫食・昆虫飼料市場の全貌がわかる『昆虫食カオスマップ 2019』公開」.BUGS GROOVE.https://bugsgroove.com/articles/2

今回は、この昆虫食ブームに乗っかって、食用昆虫として最もスタンダードであろうコオロギを実際に食べつつ、コオロギの食料としての可能性を考えていきたいと思います。


実食

百聞は一見に如かず。ということでまずは実際にコオロギを食べてみます。今回は、食用としてスタンダードな「ヨーロッパイエコオロギ(以下イエコ)」と「フタホシコオロギ(以下フタホシ)」の2種類を用意しました。

実際にこれから食べるヨーロッパイエコオロギ
※写真が暗くてすみません
実際にこれから食べるフタホシコオロギ

爬虫類の餌用としても一般的な両種ですが、飼育は一般的にイエコの方が簡単といわれており、最近はフタホシの需要がイエコに押され気味のようです。この商品は某国内企業がタイから輸入販売しているものです。原材料は乾燥コオロギと食塩です。

・見た目

コオロギの大きさですが、イエコがだいたい1.5~2cm、フタホシが2~3cmで、フタホシの方が一回り大きいです。

上がイエコで下がフタホシ。大きさの違いは一目瞭然
フタホシの方が気持ち悪い(この写真では見えにくいですが、特に脚が気持ち悪いのです)

見た目はイエコが薄い茶色で、小さいので虫感が少ないです。一方フタホシは黒くて大きく、羽や脚の形状もはっきり分かるので、虫特有の「キモさ」が強いです(ゴキブリみたい)。

・匂い

エビの香りがするという話を信じていましたが、エビ感はあまりありません。
コオロギを含む昆虫類は、エビやカニといった甲殻類と成分が近いとされています。

甲殻類アレルギーが起こる原因は、「トロポミオシン」と呼ばれるタンパク質です。この物質、実はエビ、カニ、シャコ、タコ、イカ、クモ、ダニ、昆虫を含む生物も同じ「トロポミオシン」が含まれているのです。この点で明確に昆虫食と甲殻類はとても近い存在だといえるのでしょう。

「昆虫食の安全性とアレルギーについて」.昆虫食の通販ショップ | TAKEO. https://takeo.tokyo/note/information/allergy/,(2022-06-07)より引用

そういう意味では、「コオロギ=エビ風味説」はあながち根拠がないわけでもないようです。
しかし、実際にコオロギを食べてみたらエビとは少し違うことが分かると思います。恐らく無印良品が出して話題になっていた「コオロギせんべい」など、食べやすいように加工されたコオロギ食品の味が(もしかしたら意図的に)エビに近いようになっていたのではないかと推測します。

実際には、コオロギには何とも言えない独自の匂いがあります。たとえるなら「あたりめ」の独特の臭みが一番近いと思います。

あたりめ画像

あたりめ(乾燥したスルメイカ)もコオロギと同じく高たんぱく低脂質の食品です(100グラムあたりのタンパク質はコオロギが約60g、あたりめが約70g)。直観ですが、この栄養の類似性と匂いの類似性には関係がある気がします。動物性たんぱく質を乾燥させるとこの独自のクセが出るのではないかと推測します(ジャーキーとかも同様)。

匂いに関しては、釣り用の練り餌に近いような気もします。一部の練り餌の成分に「さなぎ粉」というのが含まれています。「さなぎ粉」とはカイコの蛹の死骸を粉末にしたものです。もしかすると、コオロギと練り餌の匂いの近さは、コオロギとカイコ(=昆虫類)に共通する独自の匂いが原因かもしれません。実際、筆者はバッタも食べたことがあるのですが、何とも表現できない風味があったのを覚えています。昆虫には「昆虫風味」としか形容できない独自の質感があるのでしょう。

練り餌の成分のうちどれがコオロギと似ているのかは非常に気になる
出典:「川・小物、渓流釣り」.マルキユー.https://www.marukyu.com/product/898/

ただ、コオロギと練り餌の匂いの近さについてはもう一つ仮説があります。それは「オキアミ」です。オキアミは釣り餌によく使われるエビの一種です。これが練り餌の匂いの元だとしたら、さっきコオロギはエビ風味じゃないといったものの、やはりなにか似た部分があるのかもしれません。

オキアミ画像

そのほかにも練り餌の成分である魚粉や「イソメ(ミミズに似た海産動物)」などいくつかの候補が考えられますか、共通する匂いの原因は正確にはわかりません。
これはまた調べたいですね。

基本的にフタホシの方が匂いが強く、イエコの匂いは弱かったです。匂いの強さだけでなく、匂いのクセもフタホシの方にあるように思います。

・食感(+風味)

次にコオロギの食感についてですが、これは「ガラエビのから揚げ」の食感、それもエビの頭の部分の食感に最もよく似ています。

ガラエビのから揚げ。筆者は全国にあると勘違いしていた…
出典:「岡山の料理教室♡Very Merry Kitchen♡」.Ameba.https://ameblo.jp/kanon-harmony/entry-12680365022.html

ただし、この料理は瀬戸内ローカルらしいのでもっと普遍的な食べ物にたとえるなら、煮干しの食感(をもう少し軽くしたもの)というと分かりやすいかもしれません。

風味に関しても、外から匂っただけでは分からなかったけど、煮干しに似た香ばしさを感じました。また、イエコの方だけなぜか微かに上品な磯の香を感じます。香りに関してはイエコの方が好印象でした。

・味

コオロギ自体の味はほとんどせず、わずかに苦みがあるように感じるのみです。食塩が入っていてこれなので、もし純粋に乾燥コオロギだけを食べたとしたら、本当に味気がないでしょう。

ただ何度も噛んでいると、その奥にかすかにうまみを感じられます。このうまみは、イエコよりもフタホシの方に強く感じられました。うまくだしを取ったら、結構おいしいスープになるのではないかと思います。

コオロギ料理といえば、日本橋馬喰町にあるレストラン「ANTCICADA」さんが提供している「コオロギラーメン」が有名ですが、確かにこの感じなら煮干しだしのものに近いラーメンができそうだと思いました。ただ、コオロギから感じられるうまみは煮干しのうまみより相当弱いので、一杯作るのに大量のコオロギが必要だと思います。

コオロギラーメン画像 
出典:「“1杯に110匹”コオロギラーメン大人気! 昆虫食レストラン『アントシカダ』で実食、“カイコの糞”のアイスやお茶も」.食品産業新聞社.WEB.https://www.ssnp.co.jp/news/foodservice/2020/11/2020-1113-1443-15.html


・難点

コオロギを食べてみて一番気になったのは、飲み込んだあとに感じるのどの「イガイガ感」でした。これが不快でした。
かたい羽の部分がのどに残っているからではないかと思います。油で揚げたりしたらどうなるかわかりませんが、少なくとも乾燥コオロギ単体を常食にするのはのどの不快感のために少々厳しいと思いました。
このイガイガ感はフタホシの方がひどかったように思います。

・全体の感想

全体的に見て、コオロギは不味いというほどでもないですが、あまり美味しくないです。慣れていないせいもあるでしょうが、正直コオロギに似ているとされる食べ物で広く流通しているもの(エビや煮干し)に味で勝る点はないです。

ただし、味が薄いという難点については、見方を変えてみるとほかの味を邪魔しないという利点にもなりえます。だから、例えばパウダー状にして栄養の付加や風味付けのために料理に混ぜるというような使い方をするにはいいと思います(そういう商品はたくさんあります)。

料理して食べるなら、クセが少なくて食べやすいイエコの方が人気が出ると思います。ただ「コオロギ感」はフタホシの方が強いので、ワイルドな風味を味わいたいならフタホシの方がいいかもしれません。

・コオロギ≒シーフード?

ところで、コオロギを何かにたとえるとき、一貫して海産物であるということに気づきました(スルメ、オキアミ、ガラエビ、煮干しなど)。
これは興味深いですね。甲殻類の成分だけではなく、コオロギとシーフードには何らか別の共通した生物的構成があるのではないかと思います。バッタもエビとよく似た味だというし、昆虫と魚介の比較は面白いかもしれませんね。



考察:コオロギ食は普及するのか?

現代の日本において昆虫を食べる文化はほとんどありません。

かつては、山間の地域を中心にイナゴやハチの子などの昆虫類を食す文化があったといいますが、これは食事として楽しむというよりは、むしろ動物性たんぱく質の欠乏を避けるための栄養補給の側面が強いものだったのだろうと思います(生のコオロギのたんぱく質含有量は牛・豚・鶏の肉に匹敵する)。そして、そのような動機で定着した昆虫食文化は、飽食の現代ではなかなか受け入れられないものでしょう。
実際、日本の昆虫食の歴史についてまとめられている論文には、

最近は昆虫食を伝えている多くの国においても、畜産業による大型動物や鳥などの肉の供給が安定化し,海から遠く離れた地方でも輸送手段や保蔵技術の発達により魚肉などの入手が容易になったうえ,各種の加工食品が豊富に出回るようになって,蛋白源としての昆虫食は衰退または消滅しつつある地域が多い。

松浦 誠(1999).「日本における昆虫食の歴史と現状-スズメバチを中心として-」『三重大学生物資源紀要』第22号,pp.89-135.

と書かれています。ここから分かるのは、世界的に見ても食糧としての昆虫は一般的な食肉に対して明らかに評価が低いということでしょう。
コオロギに関しても、実際に食べてみて、そのまま常食する気にはなりませんでした。

しかし、コオロギはパウダーとして売られている商品が多くあり、コオロギ由来のプロテインを商品化したものもあります。このように、独特の見た目や匂いのクセをなくし、栄養補給のための商品に加工すれば、一般に定着する可能性は大いにあると思います。

株式会社ODD FUTUREが立ち上げたブランド「INNOCECT(イノセクト)」が2020年に発売開始したコオロギプロテイン。出典:「【日本初】コオロギタンパクを使用したカラダと地球に優しい「クリケットプロテイン」発売開始」.PR TIMES.https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000064875.html

グルメとして味わう場合であっても、前述した「コオロギラーメン」や「コオロギせんべい」などのように、おいしく加工すればかなりの伸びしろがあると感じました。

一般に普及させるうえでの一番の課題は、やはり値段を下げることだと思います。周りの「虫好きでない」友人知人にヒアリングした感じだと、多分コオロギプロテインが一般的なホエイプロテインの3分の1から4分の1くらいの値段だったら、結構な人が買ってくれると思います。

食用コオロギの大規模養殖を試みる企業は多くあり、例えば日本国内では徳島大学発のベンチャー企業で、コオロギの品種改良・養殖・加工・販売などを行っている「グリラス」が2022年2月末の時点で累計約5.2億円の資金調達に成功しているそうです(すごい)。これは一例ですが、昆虫食ビジネスへの注目は今後さらに強まっていくに違いありません。

出典:「食用コオロギ国内生産量No.1のグリラスが約2.9億円の資金調達を実施!累計調達額は業界最高額の約5.2億円に到達」.PR TIMES.https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000025.000070046.html

将来、コオロギの養殖がさらに大規模化・効率化し、量産されたコオロギが私たちの日常食になることを期待しています。



参考文献

・株式会社グリラス(22-2-28).「食用コオロギ国内生産量No.1のグリラスが約2.9億円の資金調達を実施!累計調達額は業界最高額の約5.2億円に到達」.PR TIMES.https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000025.000070046.html,(閲覧日2022-06-07)
・松浦 誠(1999).「日本における昆虫食の歴史と現状-スズメバチを中心として-」『三重大学生物資源紀要』第22号,pp.89-135
・「昆虫食の安全性とアレルギーについて」.昆虫食の通販ショップ | TAKEO. https://takeo.tokyo/note/information/allergy/,(閲覧日2022-06-07)
・「栄養価やアレルギー、安全性など昆虫食の疑問にお答えします」.昆虫食の通販ショップ | TAKEO.https://takeo.tokyo/note/answer-honestly/#ah-1-1,(閲覧日2022-06-08)




いいなと思ったら応援しよう!