虫けら映画評03 『甘い汗』(1964年)
虫けら映画評03 『甘い汗』(1964年)
生活ゴミや廃材の山に堰き止められたドブ川にぷくぷく泡立つメタンガスを銀色に捉えた映像が美しく、そのドブ川を潰してショッピングセンターを作ろうという都市計画のために立ち退きを迫られている一杯飲み屋がある。
そんな戦後でも高度成長期でもない時代の谷間に落ち込んでしまい、もがき格闘する女の物語。
劇中「36にもなってこの界隈でうろちょろしているんじゃあんたもおしまいね」
というような台詞があるが、現代語訳するなら
「46歳にもなって大久保公園で立ちんぼしているんじゃあんたも咳止め薬のオーバードーズで死んだ方がましね」
といったところかもしれない。
腰回りにでっぷりと贅肉をつけた京マチ子の深い胸の谷間に点々と浮かぶ妖艶な汗は、決して甘くはなく、度数だけが高い安酒の苦い味しかしないはずだ。
この世に甘い話などないし、甘い女もいない。
昔の愛人には塩をかけられたあげくに追い返されて実の娘にはバケツに入った水を頭からぶっかけられ縁切りされて、これより先はないというどん底まで堕ちてゆく。
ラストシーンに当場する渡り橋が僕には初見では死刑台へと続く13階段に思えて仕方なかったが、もう一度観ると、その後に控える場面で京マチ子は開き直ったように鼻歌を歌っている。
そしてこの映画は終わる。
その姿に俺は、矢吹丈に連なる太々しさを見た。
グランプリ女優京マチ子の大きく見開いた瞳には、ポストパンク的な狂気と凄みが宿っていた。
令和の今に通じる問題を数多く含んだ、必見のカルト的傑作。
未ソフト化。
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