<2011年アメブロ編序幕⑪>
浅草歌舞伎の翌月はル・テアトル銀座で染五郎さん(現幸四郎)と公演。初めて亀治郎さんの怒涛の早替りを目の当たりにしてびっくり。また、蜷川実花さんが撮影したそれぞれの写真がすばらしく美しかったです。そして、三代目猿之助ファンの方から伝説的なお話を聞くことができご縁に感謝でした。
2月2日 ル・テアトル銀座 初日
初日、おめでとうございます!ル・テアトル銀座へ行ってきました。「二月花形歌舞伎」第一部です。
猿之助四十八撰の内「於染久松色読販 お染の七役」いやはや亀治郎さんは何回早替りをしたのでしょう。序幕で七役全員登場してくるのです!自分が演じているというアピールをしながらのさりげない早替りに脱帽です。
澤瀉屋さんの技術は凄いですね。それに大道具さんの苦労というか、工夫というか。。早替りをしやすそうなセットでした(笑)セットの裏がどうなっているのか凄く気になる。
花道は仮設で短く、スッポンは無いので、裏で走っている距離は短いと思うけど。。早替りのことだけで、ずっと語れそうなくらい興奮してます!
それにテアトルの舞台はまわる!意外だったのが亀治郎さんの独壇場かと思いきや、役者さん方が皆さん存在感があってキャラが面白かったです。
ストーリーもわかりやすいです。染五郎さん(現 幸四郎)は格好良くて面白くて色気がある悪人。亀治郎さんとの夫婦は楽しすぎます。お二人の時事ネタシーンもあり会場が沸きました。本当に仲が良いのですね。着物のお客さんも多く、大向こうもたくさんかかり、心地よい緊張感と期待感で華やかな初日でした。
パンフレットの中の蜷川実花さんのお写真が素敵です。全体がとてもテンポ良く、附けの音も歯切れ良く攻めていてよかった!やはり亀治郎さんは楽しませてくださるなあ。チームとしての力と一体感を感じました。千穐楽まで、もっともっとリズム感みたいなものが出てくる気がします。
あ~書きたいことが有りすぎます。余韻に浸りながら感想はまた明日。。。。めちゃめちゃ楽しかったです!
2月3日 お染の七役
「二月花形歌舞伎」第一部は、於染久松色読販(おそめひさまつうきなのよみうり)です。’お染の七役’と言われるこのお話。三代猿之助四十八撰に選定され、亀治郎さんのお家、澤瀉屋さんの出しものです。
三代猿之助さんが演じてから18年ぶりに上演となり、亀治郎さんが初役で務めます。伯父である猿之助さんは、自分より亀治郎のほうがあっている。。とパンフレットでおっしゃっています。女方の演目だからということですね。
早替りがふんだんに入った演目を亀治郎さんで拝見したかった夢が叶いました。
ストーリーは、お染(亀治郎)と久松(亀治郎)の悲恋の話を軸に久松の家のお家騒動が絡みます。立役1役を含め7役を亀治郎さんが演じます。
序幕で7役すべてが登場します!でも訳がわからなくないのです。役の性格、立場がはっきり自然と頭に入ります。手の動作、首の傾け方、歩き方、声や話し方など。。すべて細かく違います。艶のある目、純真な目。それらが見事に変わるから鮮やかなのです!
中でも’土手のお六’は面白かったです。亀治郎さん一番楽しんで演じているのではないでしょうか。夫役の染五郎さんと息ぴったり。夫が’悪’で、妻が姉さんタイプ。二人並ぶと絵になるけどドロドロしてます。
二人が面白くないわけがない(笑)ゆする時の啖呵や、バレる時の開き直りは面白いです。駕籠の前後を夫婦で担ぐ花道の引っ込みは、妙にドキドキしますね(笑)掛け合いが面白い!自分たちを変わり者だとか、TVによく出てるとか。お客さん大喜びで、凄く盛り上がりました。
大詰の早替りの中で2回本気で驚きました!!お芝居もテンポアップしていったと思います!大詰の常磐津が心地良く感じました。
お光(亀治郎)が狂乱し舞う姿は美しく惹きつけられます。お六の所作立て(舞踊での立ち回り)は格好良かった。染五郎さんも格好良かったです~!
小さな劇場で染五郎さんを初めて拝見しました。型が一つ一つ美しく、存在感があり、ついつい目がいってしまう。剃刀をくわえたままでの見得はゾクゾクして息が詰まりそうでした。
弘太郎さんのおにぎりの食べっぷりが可愛い♪縁談とフグを天秤にかけ、フグをとって毒にあたってしまうなんて。
ストーリーがわかりやすく、後味がスッキリして爽快です。上演中は、お客さんの驚いたり笑ったりする声が多く、一瞬にすべてのものが集中する緊張感がたまりません。そして、早替りをより楽しめたのは作り手の皆さんのチームワーク。
歌舞伎はやっぱり凄い!!舞台セットの工夫や、お衣装やかつらの技術、明かりの優しさ、音の懐かしさ。。。ますます興味が湧きました。
すべて人の手で作られている歌舞伎の舞台。作り手の方の心が込められているから、空間にあるすべてに「生命」を感じるのです。私がその時、その一部であることも本当に幸せです。
そして、三代目猿之助さんの想いを継いでいきたいと考えている亀治郎さんの進化を目の当たりにできたような気がします。有難うございます。
2月15日 ル・テアトルでイイ男対決!
「二月花形歌舞伎」第二部です。’女殺油地獄(おんなごろしあぶらのじごく)’歌舞伎で拝見するのは仁左衛門さん以来2回目です。染五郎さん(現 幸四郎)が妖しい魅力全開で危うい感じ漂う青年でした!
仁左衛門さんの時に驚いた「殺意が生まれる瞬間」私は勝手にそう思っている与兵衛の瞬間があります。その瞬間、染五郎さんの内から沸き上がる殺意が目から強く溢れ出しました。目から放たれる’気’に、私も「お~」と声を出してしまうほどでした。
話題になっている謎かけの前に、イイ男対決がありました。客席後ろの方から染五郎さんが登場しびっくり!近くで拝見するとガッシリしてわりと大きい方なのですね。若い男性のお客を立たせて、どちらがイイ男か拍手で対決!
お客さんに拍手した人が多くて、焦った染五郎さんは「空気を読むように~」と笑いをとって無事大きな拍手!
そして謎かけへ。噂話とかけまして。。。「整いました!」「噂話とかけまして、刺身の舟盛りと解く。。。その心は、どちらも尾ひれがついてくる!」
会場「お~!!」(笑)
小さな会場なので、染五郎さんは後ろの客席まで歩きながら話しかけ目線をくれていました。凄くお人柄が出ていて優しい空気に包まれました。そして、そのふれ合いで、与兵衛が実在するのではないかと錯覚しそうになります。
与兵衛の心の闇はいつ生まれてしまったのだろうか。。そんなことを考えながら余韻に浸っています。
2月17日 女殺油地獄
第二部の’女殺油地獄’現代にも通じるメッセージ性があり、とてもリアルな演目。私は文楽で拝見してから好きになりました。説得力があり、最初から最後まで流れるように進み、どんどん引き込まれます。
会場中に与兵衛の感情が染みていく感じ。与兵衛が楽しければ会場全体が楽しいし、狂気に満ちれば会場が冷たくなる。歌舞伎はこういう瞬間がたくさんありますが、今回特に生々しく、そして自然に感じました。
近松門左衛門の作品で人形浄瑠璃として初演され、大阪で起きた実際の殺人事件を題材にしています。内容が生々しいからか、江戸時代は初演以来再演がなかったそう。明治に入り、坪内逍遙が評価したことから歌舞伎として上演されることになり現代に至るようです。
ストーリーは、油屋河内屋の息子’与兵衛’が、同業の豊嶋屋の女房’お吉’を殺害し捕らえられるまで。殺害してしまう前の自由奔放な与兵衛は誰の言うことも聴ききません。それ故、果ては心が追いつめられていきます。
染五郎さんの与兵衛は愛嬌があり憎めない。虚勢を張っても、目に気弱さがあり、若さを感じます。朝までに借金を返さなければならず、お吉にお金を借りに行きますが断られます。両親の自分への想いに触れ、改心をしようと思っているのに、お吉には届かない。。そして殺意が生まれます。自然に生まれるのです。
その瞬間の染五郎さんの目から溢れる狂気が本当に恐ろしかったです。心の中で「待って!」と叫んだくらい。
そのあと与兵衛がハッとします。自分の感情に驚くのでしょうか。そして、油まみれになり、お吉を追いつめる与兵衛の口には笑みが浮かび、目が輝いてきます。殺し場の見得の美しいこと。。それぞれの’生きること’への本能みたいな執念が美しく感じさせるのかもしれません。
この事件のあとの与兵衛の様子も今回は上演されています。(この部分は現在はほぼ上演無し)何もなかったように陽気に振る舞う姿が何だか恐い。お吉のお通夜に行き、証拠を突きつけられて捕まります。途中、開き直って回りに暴力を振るう様子は狂ったようです。心の闇はいつ生まれるのかな。魅力的な染五郎さんでした。
お吉は亀治郎さん。大阪で言う「隣のお姉さん」的なキャラクターです。東京ではこういう感覚はないです。与兵衛が頼るのは恋愛感情からではないのですよね。甘えている。。というほうがいいかもしれません。
殺される時の’生きたい’気持ちが伝わって辛い。亀治郎さんを拝見して、こんなにかわいそうと思ったことはないかも。。
舞台転換も見応えあります。あっと言う間に場面が変わり、やはり歌舞伎の工夫は凄いです!テアトルならではな照明も面白かったです。スポットを使っていましたね。
浄瑠璃の言葉や三味線の音も生きているようです。そして、何より染五郎さんの表情から目が離せませんでした。第一部と第二部、まったく雰囲気が違いました。すごいな。心から楽しませていただきました。有難うございました。
3月5日 猿之助伝説
久しぶりの和食に大満足でした。雛祭りのお膳をいただき、筍ご飯の美味しさに感動です。
お誘いくださったのは、若い頃に三代目猿之助さんをご贔屓にされていたご婦人。この日知ったのですが、近年、幸四郎さん(現 白鸚 )の舞台の翻訳をされていらっしゃる方でした。以前、私が亀治郎さんや猿之助さんに興味があります!!とお話をしたら、猿之助さんの舞台で素敵な経験をしたのよ~とそこでタイムアップ。
今回、続きをやっと知ることができたのです。
お若い頃、銀座で時間が空き、思い立って歌舞伎座の一幕見席へ。演目は三代目猿之助さんの「黒塚」でした。上演後、猿之助さんが舞台に登場。たまたまこの日は、黒塚の老女を演じ始めて回数なのか年数なのか。。どうやら記念日だったよう。会場のファンはそのことを知っていて凄い熱気だったそうです。
御礼の口上のあと、猿之助さんは一階席~三階席、上手~下手まで、身体の向きを変えながら頭を深々と下げたそうです。
そして、ラスト。。身体を妙な方に向けて上手下手に頭を下げました。その頭の先は舞台袖に向かっていたそうです。一門、スタッフ、関係者の皆さんに向けて。両サイドには人影が見え、気配をたくさん感じたとおっしゃいます。
猿之助さんの感謝の気持ちに、お客さんだけでなく、彼を支えるすべての人、物、歌舞伎座までもが応えているような一体感。何より、すべての人々に感謝を表す猿之助さんの人柄に心が震えたそうです。
以来、猿之助さんの役者魂に惹きつけられてしまったそう。今では「夢を見ていたのかと想うの」と笑っておっしゃっていました。黒塚の感想を語るご婦人の様子は少女のようで可愛らしかったです。
私が澤瀉屋の皆さんにチームワークの良さを凄く感じるのは、猿之助さんのこういう精神が影響するのだと納得でした。それにお話を聴きながら泣けました。
映画「わが心の歌舞伎座」の中で、猿之助さんの黒塚の老女を観ることができて感謝です。でもやはり生の舞台で拝見したかった。いつか、黒塚の老女を亀治郎さんで拝見できることを楽しみにしています。
ご婦人とのご縁に感謝です。タイムスリップして歌舞伎座に行ってきたような。。。またの機会を楽しみにしています。
aya