扉座「神遊(こころがよい)」との縁
こんなに涙が止まらなくなるとは想定外でした。横内謙介さんの言葉には救いがあるなぁ。悲しくて切なくても、その先に希望の光が見えます。
劇団扉座主宰の横内謙介さんのことは詳しくないけれど、澤瀉屋にはなくてはならない人ということは分かっています。三代目猿之助が創造したスーパー歌舞伎の多くの脚本を書き、当代猿之助さんのスーパー歌舞伎Ⅱ「ワンピース」「新版オグリ」、歌舞伎座興行では「日蓮」「新・三国志 関羽篇」、最近は4月の小劇場公演「森の石松」。
思えば、当代猿之助さんを通じて横内さんの世界の一部に触れてきた。劇団を主宰しているのは知っていましたが、歌舞伎座通いが常の私は、いつか。。と思うくらいでした。
疫病が流行り、演劇がことごとく中止になった時、横内さんのblogに心打たれました。劇団が直面した現実。その後、歌舞伎座も再開を果たし、新作「日蓮」が誕生したけど、まだまだ演劇業界は厳しい。
そんな時に猿之助さんが行った小劇場での公演「森の石松」。横内さんの脚本が楽しく、命をかけて芝居をする役者たちの’生きる姿’がそこにありました。
日替りゲストが佐々木蔵之介さんだった時でした。蔵之介さんが自身が出演するPARCO劇場の公演が中止になった話や、横内さんのblogを読んですごく感動した話が出ました。蔵之介さんも小劇場出身役者です。私もblogを読んでいたことを思い出し胸が熱くなりました。
そして思いついたのです。来月の扉座の公演に行こう、と。もちろん石松に出演していた役者さん、裏方さんが素敵だったこともあります。レイコママ役の松原さんにチケットをお願いしました。
タイトルが「神遊」’こころがよい’と読みます。
この言葉にも惹かれました。神秘的。
横内さんが三代目のスーパー歌舞伎「八犬伝」執筆中に話の中で出会った言葉だそう。心が通うこと。
物語は、八犬伝を書いた曲亭馬琴と、絵師 渡辺崋山の話。私は馬琴の名前を知っているくらいの知識で臨みました。
うかつでした。。。3月の三国志で猿之助さんの言葉であんなに泣いたのに(笑)中盤、そして後半は涙が止まらなくなって焦りました。三国志より泣いた。
会わずとも、その人を想うだけで生きる力が湧いてくるような、心が通い合える人と巡り会いたい。無性にそう思いました。
そして、通い方はそれぞれかもしれないなと。愛、信頼、尊敬、憧れ、友情。。様々な想いで結ばれた’こころがよい’の相手は、自分を生かしてくれる存在になるのだと芝居を観て思いました。
神様が結んでくれるのかな。。
馬琴と崋山、二人の役者さんが巧みなこと!TVなどで拝見する方かと。扉座の方だったのですね。岡森さんの馬琴はとことん嫌な奴だし、山中さんの崋山は妬けるほど人気者。全く飽きず、本物が生き返っているのかと思うくらいすごい迫力。
特に崋山の笑顔がヤバイ(笑)あれは引きずる。。切ない。崋山が弟子を諭す時の言葉にも泣きました。「描くことと生きることはひとつ」
猿之助さんがよくおっしゃる「命がけで舞台に立つ」ということ。それは、演じることと生きることは一つと理解しているし、私も歌舞伎を応援することと、生きることはひとつです。そうなんだよな~と泣けました。崋山のラストの独白も希望に溢れていてよかった。
狂言回しの講談師風な方がいて、馬琴と崋山を知らなくても全く大丈夫な親切な構成です。その方、膨大なセリフ量で圧巻です。
あ、崋山を慕う芸者の はな竹さんもすごくよかった。読み書きも知らなかったところから、ラストは崋山を誰よりも理解し、魂が一つになったような聖母のような優しい言葉や雰囲気に涙しました。愛に溢れていた。
全ての役者さんが素晴らしかったです。横内さんの紡ぐ言葉を私の心にこんなにも響かせてくれました。たくさん泣いて心が浄化された気分です。
普段、グッズや公演関係のものは極力買わない主義ですが、思わず台本を買ってしまった。横内さんにサインもしてもらいました。何だか言葉を持って帰りたかった。
これは歌舞伎にもできるなぁなんて思う。とても面白かったです。スーパー歌舞伎Ⅱに出演の役者さんも何人かいるので、澤瀉屋ファンはわかるお顔もあって楽しいですよ。有難うございました。
6月19日まで座・高円寺にて
劇団扉座 第73回公演
「神遊 ー馬琴と崋山ー」
aya