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marble
原発事故と医師の職業倫理
2011年の大震災と原発事故は医師として決定的な経験でした。さまざまなことがありましたが、原発災害時に医師は被災地にとどまるべきかという問題はいまだあまり議論されていないかもしれません。もちろんほとんどの医師はとどまって義務をまっとうしましたが、被爆することを心配し立ち去った同僚も少数いました。
福島原発まで95キロの仙台に住むわたしへの被曝影響は最小限で、この問題の当事者の立場とはいえません。それでもわたしのまわりで立ち去った医師は複数いて、そのなかには戻ってきたひとも、結局そのまま戻ってこないひともいました。しかしそういった医師を直接非難する声はなかったように思います。
避難勧告がでた20キロ以内であれば立ち去ることに問題は少ないでしょう。そうでないとき、医師患者関係の義務を放棄して立ち去ることが許されるのでしょうか。個人の危険が予想されるとき医師の治療義務はどこまであるのでしょうか。そういった問題がどこかできちんと議論され結論がでたのでしょうか。
これはもっぱら医師の職業倫理の問題でしょう。当時さまざまな感情の起伏を経験し、実際に多くの医師の去就を見聞きしてきた自分には、客観的に論じる資格はなさそうです。立ち去ったごく少数を批判できない一方、とどまって職務をまっとうした多くの医師はもっと称賛されてしかるべきとも思います。
これはわたしがずっと考えつづけてきた課題でしたが、いま実際にことばにしても残念ながらたいしたことは言えそうにありません。ただし震災や原発事故の当事者の医療者のほとんどは、はげしい葛藤を自らかかえながらも、地元のひとたちのため最後まで尽したことだけははっきりと明言したいと思います。