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『絶対に受けたくない無駄な医療』(室井一辰著,日経BP,2014)(12回)第一部 「治らない医療」を撲滅せよ!

【第12回】

第一部
「治らない医療」を撲滅せよ!
  米国で始まった
  無駄撲滅運動とは

 必要な医療だけを求めよう──。米国発で、医療界が動き始めている。
 医療費の増大は世界的に見ても国家的な問題だ。高齢化の進行や医療の高度化が、さらに拍車をかけると多くのところで指摘されている。適切な医療を施して国民の福祉を確保する必要があるのはもちろんだが、無用な医療を許す余裕はなくなりつつある。米国も、まさにそういう状況にある。
 米国の医療費は3兆ドル近く、300兆円に迫る水準にある。日本の医療費がおよそ40兆円だと思えば、その規模が分かるのではないだろうか。もちろん、日本とは人口も異なり、民間保険が担う部分も多いので単純比較は難しいが、日本とはケタ違いであることは間違いない。
 医療費の伸びが8%前後に達していた2000年頃と比べれば、金融危機以降は3%程度と伸び率は鈍化しており、より抑制できるかが問われている。一方で、患者レベルで見ると、米国連邦政府の長年の懸案材料だった「国民皆保険」への道を2013年から本格的に歩み出した。今は医療のあり方を見直す、またとないタイミングと認識されている。

無駄な医療撲滅の呼び水は「オバマケア」

 かねて米国の医療費は「とんでもない」と言われていた。日本の外務省も米国の高額な医療費に注意を促すほどで、「米ニューヨーク州のマンハッタンで急性虫垂炎で入院すると7万ドル(約700万円)」「上腕骨骨折の入院で1万5000ドル(約150万円)」などと紹介、多額の出費を避けるためにも、民間医療保険への加入を勧めている。
 このように医療保険への加入が欠かせない米国だが、実は米国国民の2割弱に当たる約5000万人はずっと無保険者だった。それがオバマ大統領の主導で、こうした無保険者を国民皆保険で救い出そう、医療の提供を広げようという方向に転換している。
 いわゆる「オバマケア」で、2013年に医療保険制度改革法が成立したことを契機に、約5000万人の無保険者を医療保険の制度に取り込んでいく計画だ。医療保険への加入を義務づける一方で、医療費の自己負担に上限を設けたり、保険金の上限をなくしたりして、低所得であっても医療保険を利用しやすくする狙いがある。 国民皆保険の存在しなかった米国では、様々な理由をつけて導入を阻止する動きが起きていた。「医療費に充てる税金が増加する」と、米国内では民主党に対抗する共和党が反対を続けていたのはよく知られる話だ。ともあれ、医療保険は浸透すると見られている。
 国民皆保険の導入は、これまで落ち着いていた医療費の増加要因にほかならない。そのため、医療費が増えるところで、効率化のドライブをさらにかけようという機運が高まりつつある。
 これまで米国では民間保険に加えて、高齢者や貧困層向けの公的保険メディケア、メディケイドが医療費増の「お目付け役」を担ってきた。特に顕著な取り組みは「マネージドケア(管理医療)」と呼ばれる仕組みで、保険者が特定の医療機関と組んで、患者が受けられる医療を文字通り「管理」して決める方式だ。
 根拠の伴わない医療を排除するとともに、医療費の支払い方式も、実施した個々の医療行為に保険金を支払う「出来高払い」ではなく、糖尿病ならいくら、虫垂炎の手術ならいくらと、疾患ごとに決まった額の保険金を支払う「包括払い」に切り替える。この仕組みだと、無駄な検査や治療をしていれば損が出る。このように、もともと医療機関の改革は進みやすい形になっていた。
 また、金融危機後に医療費の増加が落ち着いた背景には、患者が受診を控えただけでなく、医療機関の効率化が進んだことがあるとの指摘もある。保険者にとって、保険金は少ないに越したことはない。今後のオバマケアが保険金の増加要因になることを考えると、保険金の抑制に向けて、余分な医療を許さない流れは強まると見られる。

(第12回おわり、第13回へつづく

(Photo: Adobe Stock)

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