【連載詩集】No.19 絵のある暮らし
平成最後の夏、
七月の三連休。
京都に住む、
大学時代からの友人の家に、
久しぶりに遊びに来た。
お互いに、
クソの役にも立たない、
学生生活を、
酒と麻雀を、
だらだらとやりつつ、
なんとか楽しく、
乗り切った仲間である。
彼は、
「部屋、荒れているけれど」
と、話した。
「ぜんぜんかまわないよ」
と、僕は言った。
安い立ち飲み屋に入って酒を飲み、
その後、焼肉屋にはしごをした。
過ごし方は、
学生の頃と何も変わらないけれど、
この十年ほどの間に、
彼は結婚して子供が産まれ、
父親となり、その後、離婚も経験している。
いつの間にか、
それなりに長い歳月が流れ、
お互いに、様々な出来事を積み重ねているのだ。
ずいぶんと酔っ払って、
友人の住むマンションに帰ってきた。
部屋は確かにごちゃっとしていた。
しかし目を引くものがある。
——絵だ。
彼の部屋には、
二枚の絵が飾ってあった。
一枚は、20cmくらいの幅の、
小ぶりのキャンバスに描かれた絵だった。
青色の鮮やかな色彩の中に、
ぽつんと、光が描かれている。
特に何か、モチーフを感じる絵ではない。
しかし、どことなく、
目を引くものがある絵だった。
森の中で差し込むひとすじの光に、
思わず目を奪われてしまう——
そういう類の存在感を放っていた。
もう一枚の絵は、さらに強く、
惹きつけられるものがあった。
緑色の淡い色彩に満たされたキャンバスの上に、
果てしなく広がる、静寂に包まれた海が描かれている。
そこにはパラソルがひとつ、ぽつねんと開かれており、
水の中から跳ね上がったような不思議な軌道で飛ぶ、
飛行機の姿が空中に描かれている。
プロペラ機は、まるで零戦のような機影だ。
「良い絵だね」
と、僕は話す。
彼に話を聞くと、
まだそれほど名の知れていない、
若い女流画家が描いた絵だそうだ。
含みのある色彩に心を奪われ、
展覧会に足を運び、
画家から絵を直接買ったのだという。
「この絵の背景に使われている色彩が好きなんだよ」
「そうなんだ」
「でも、画家の女性から『飛行機が好きなんですか?』と聞かれて」
「うん」
「そういうんじゃないんだよなって。ぜんぜん、話がかみ合わなくて」
「ははは」
「色彩が好きだから、別に何が描かれているかは問題じゃないんだよ」
「なるほどね」
そのようなわけで、親友は今、
絵のある暮らしを送っている。
絵のある暮らし。
部屋は散らかっていたけれど、
彼はなかなか、
素敵な暮らしを、
しているのではないだろうか。
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