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「追放されたチート付与魔術師は気ままなセカンドライフを謳歌する」レビュー
冒険者として剣の腕前が立つ訳でも攻撃魔法や治癒魔法が使える訳でも宝箱の罠を解除できる訳でもない。
ただ武器と防具を魔力で強化出来る,言うなれば鍛冶屋としての能力を持ち
冒険者ギルドで後方支援していた本作の主人公レインは冒険には出ないがパーティに貢献してる自負はあった。
だがギルドマスターから戦力外通告された意趣返しに,
これまで武器・防具に付与してた強化の魔法を解除・全回収し貯まった強化ポイントを自分自身の為に使い冒険者となる事を決意する。
だが仮に「布の服」を「布の服+1000」に「短剣」を「短剣+2000」に守備力や攻撃力を上げたところで
彼には実戦経験は無く無謀な試みと思われるが…。
強くなりたいが強くなる努力は一切したくない…。
例えば空手の有段者になるには白帯から初めて苦しい訓練や鍛錬を長く続ける必要があると思うが
「苦しい訓練や鍛錬」という途中の「地道な過程」を全部ぶっ飛ばして
「強くなった自分」という「華やかな結果」のみを得ようとするジョジョで言ったらディアボロの如き心根を
ラノベ業界ではチート(CHEAT)と呼び,一般には「ズル」と呼ばれてます。
現実の武道ではズルして強くなる訳無いのでチート行為は無理ですが
「チート」と名が付くライトノベルは世の中に溢れ一大ジャンルとなってます。
主人公は読者の分身であって皆一切努力しないで楽して強くなったりモテモテになったりしたいのですよ。
本作も同名ライトノベルを原作としていて一切努力しないで無敵の布の服,無敵の短剣でドラゴンを倒そうと言う太い考えの内容ですね。
仲間になるのは女ばかりで何れハーレムパーティを編成する様になる訳で
本当だったら本書を2階の窓から投げ捨てて,それで本作との付き合いも終わりなのですが,
原作のラノベは置くとして少なくともコミカライズ版の本書の方は,それだけの内容では無い様なのです。
レインは最初所属していた「王獣の牙」という大手冒険者ギルドを戦力外通告されて解雇されて
現在所属する「青の水晶」と呼ばれる弱小ギルドに拾われたのですが
「仲間と信じてた人達に捨てられた」
って心の傷を抱えてて,その心の傷故に今迄付与した強化を回収して意趣返してて
ラノベ主人公に有り勝ちな「単純明朗快活で優しさだけが取り柄の若者」ではないんです。
有体に言って彼は性格が悪いのですが性格が悪くなった理由があるのです。
だから少し先の話になりますが弱小ギルド「青の水晶」所属のパーティの一員となっても
再び「用無し」として捨てられる事を恐れる余り,
今特段必要のない武器や防具の強化を申し出てパーティメンバーにウザがられる描写があります。
パーティメンバーに「貴方が必要なの」と言われて一旦は安心するものの
「コイツ等ウソ付いてるのでは?」って疑心暗鬼に再三再四苛まれる事となります。
例え強力な武器や防具を装備してても「共に旅する仲間を信じられない」って気持ちは払拭出来ないのです。
「自分が信用されてない」「仲間を信じられない」って疑う気持ちはレインだけの問題ではなく,
これからパーティに参加する面子全員の問題として潜在し仲間同士で言い争って傷付け合いながら和解して,
また傷付けあって…を際限なく繰り返す事となります。
原作小説は未読なのですが多分これコミカライズのオリジナルの設定だと思います。
何故なら主人公がチート能力を持ってる事で得意になる描写はホンの僅かで
残りは疑心暗鬼に苛まれていて僕は古い人間なので例えが古くなるのですが本書を読んでると
「カムイ外伝」を読んでる様な誰も信じられない嫌な気持ちとなるからです。
「読者をいい気持ちにさせる事」を是とするライトノベルでは有り得ない描写なのですよ。
確かに今後加入する面子は女ばかりなのですが主人公が彼女達にモテモテとはならず
「女達が俺の陰口を言ってる・俺を捨てる相談をしてる」と疑い布団の上で煩悶する事となるのです。
本作はね,チート能力でウハウハって漫画ではなく「信頼と疑念」の間で
疑心暗鬼に苛まれる登場人物達を苦虫を嚙み潰した様な面相で読む内容なのです。
そして
『「信頼と疑念」の間で揺れる人間の心の機微はチート能力などでは,どうこうする事が出来ない』
と描くコミカライズ版独自の設定に僕は誠意を感じるのです。