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福居ショウジン監督「ピノキオ√964」DVDレビュー

女性の性欲を満たす為に「生前」の記憶を奪って作られたピノキオ964は「いざ鎌倉」という段になって 一物が役に立たない不完全な人造人間であった為に客に打ち捨てられ池袋東口周辺を徘徊していた所を ヒミコという女に拾われて廃屋での奇妙な同棲生活が始まる。
ヒミコは生まれたばかりの赤子に辛抱強く物を覚えさせて行く母親の様にピノキオに振る舞うが, 彼の不具合は深刻度を増し,肉体が溶解し異形の姿に変わり始める。 それに呼応するかの様にヒミコも嘔吐を繰り返した挙句,異形の姿に変わり始めるのだった…。

本作を観ながら昔都会に住んでいた頃を思い出した。
夜遅く満員の山手線に乗って下宿に向かっていると,酔っ払いが乗って来て大声で歌い始める。
不気味な沈黙が車両内を支配して,皆が黙っているが思いはひとつ。
「馬鹿騒ぎするなら何処か人の居ない他所でやってくれ」
下手に酔っ払いに注意して絡まれるもの厄介だ。
僕は,と言えば早く自分の降りる駅に着くのをゾッとする程ゆっくり進む時間の中,ただひたすらに乞い願っていた。
ところが酔っ払いの方は逆で満員の車両内の乗客全員に自分の歌を聴かせたくて大声歌っているのだった…。
何でこんな思い出話してるかと言えば,僕が本作を観ている時の心境に酷似してるからだ。 本作は池袋東口や新宿大通りで恐らくではあるがゲリラ撮影していて
「コレ映画の撮影?」
と怪訝そうにしている一般人が多数強制出演させられている。
登場人物は皆途中から奇行が激しくなって一般人は
「馬鹿騒ぎなら何処か人の居ない他所でやってくれ」
と心底迷惑に思っているが監督は
「役者の奇行を見て,一般人(観客)が迷惑そうにしている姿」
こそを撮りたいのだ。
つまり監督の本性が「満員電車で大声で歌う酔っ払い」であると言いたいのだ。
例え観客は本作を必要としなくとも本作は観客を必要とし,観る事を強要させているのだ。
全くもってはた迷惑な話である。
故に本作を観た感想は「迷惑極まりない」の一言に尽きるが, その迷惑そうな顔こそ監督が見たかった顔だと思うと殊更に悔しい。

本作の主人公のピノキオは不完全な改造人間という設定で勿論僕は「人造人間キカイダー」を連想した。
ピノキオは終盤自分の「生みの親」の許に戻って「お前なんか死ねばいい」と拒絶される所なんて実に石ノ森的ではないか。
またピノキオが不具合の結果,異形と化し,理由は分からんが同じ様に異形と化したヒミコと合体して強くなる場面は, デビルマンの「デーモンは合体を繰り返して強くなる」ってルールを思い起こさせる。

これは決して僕の独りよがりではない。

エンドロールが流れ始めるとピノキオとヒミコがディスコで踊り狂う場面が挿入され 不動明と飛鳥了がゴーゴーで踊り狂って明がデビルマンとなる場面にオマージュを捧げているのだ。
ショウジン監督と僕は5歳違い。
監督…もしかして漫画オタクだったりします?

特典映像はショウジン監督のフィルモグラフィと予告編が収録されている。 本商品の画面サイズはスタンダード,建造中の新宿新都庁舎が時代を感じさせる。

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