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パスカル・ロジェ監督の映画「マーターズ」レビュー「難行苦行のシステム化による「悟りの境地」の大量生産!フランス人の即物的な発想に震えが走る。」

幼少時,虐待を受け孤児院に保護された少女リュシーは15年後,
自分を虐待した夫婦を家族諸共皆殺しにする。
彼女は孤児院で姉妹の様に仲良しだったアンナに積年の恨みを晴らしたと
連絡するも正体不明の「満身創痍の異形」に襲われ始める。
その姿は15年前の逃亡の際,彼女と同じ様に監禁され,虐待を受け,
助けを求めていた少女の姿に酷似している…。

前半40分はリュシーが抱える罪悪感の話。
幕間が10分。
後半50分は全く趣が変わり,リュシーの親友アンナが,
狂信的な組織に監禁され生皮を剝ぐ地獄の責苦を受け,
人為的に悟りを啓かされ,解脱を強要される話となる。

ハッキリ言ってしまえば1つの映画の中に
2つの話が独立して存在しているのだ。
「リュシーの話」だけなら5つ星評価だが,
「アンナの話」は話が突然かつ突拍子も無さ過ぎて
「ハア?」の連続なのである。
それでも「アンナの話」を追い駆けると
パスカル・ロジェが難行苦行の末,悟りを啓く仏教の修行僧を見て,
「もっと組織的効率的に見込みがありそうな殉教者(マーターズ)を
世界的規模で集団で拉致監禁して, ありとあらゆる責苦を与え続ければ
「悟り」を人為的に大量生産出来るんじゃね?」
と考えたのが発想の基となっているのは間違い無く,
東洋人の身の上では到底思い付かぬ発想であると認める。

更に彼は
「そもそも「答え=悟りの境地」さえ殉教者にインタビューすれば
難行苦行なんて要らねんじゃね?」
と本気で考え本作で映像化している。

「難行苦行の省略と悟りの大量生産」

これこそが「アンナの話」の要諦であり本作の独創であると思う。

本作に於いては修行僧が長い難行苦行の末,到達出来るか出来ないかの
「悟りの境地」を人為的に量産する為に各地から拉致監禁した人間に
あらゆる責苦を加え強制的に「悟り」を啓かせ「マドモアゼル」と名乗る
金持ちのカルト集団の頭目が拷問で死にそうな被験者から
「『悟りの境地』ってどんな?」
って聴く話となる。
修行の「過程」を飛ばして「結果」だけ求めるディアボロも驚きの発想。
被験者のひとり=アンナが拷問の末,到達した「光」の正体は…?
「悟り」の大量生産とか東洋人には絶対に出て来ない発想。
徹底的な合理的発想?に震える。

「アンナの話」は独創性で5つ星だが余りにも即物的過ぎて
「フランス人は皆こうなのか?」
と呆れたので星2つ減点して星3つ。
全体としては星4つとなるが
「「リュシーの話」と「アンナの話」は別々の映画にすべきだった」
が総評となる。

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