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スティーヴン・キングの「クージョ」レビュー「『犬を愛する人に悪い人はいない』ワケはなく…その最高の反例が作家スティーヴン・キングその人だと今は思ってます…」

ニューヨークからメイン州キャッスルロックに引っ越してきた
トレントン一家は父親のヴィック,母親のドナ,4歳になる息子のタッド
で構成されていてヴィックは仕事柄,家を空けることが多い。

ドナにはスティーブという浮気相手がいて別れ話に応じようとしない。
優しい夫に対する罪の意識が常にドナの心を蝕んでいる。

ニューヨークとは違いキャッスルロックで暮らすには
何をするにも車は生活必需品だ。
その車の調子が最近悪いので
ドナは自動車修理工のジョーに車の修理を依頼し代車を借りて帰宅する。
ジョーはクージョという名のセントバーナード犬を
家族の一員として愛している。

ところがある日,
クージョは蝙蝠(コウモリ)に噛まれて狂犬病に蝕まれてゆく。
次第に正気を失ってゆくクージョは次々と人を襲い,その命を奪ってゆく。

一方,待てど暮らせどジョーからの連絡がなく
電話をかけても誰も出ない状況に痺れを切らしたドナは
息子タッドと共に代車でジョーの元へ向かう。
しかし,幾ら呼んでも誰も出てこない。

いや…出てきた。
正気を失ったセントバーナード犬が。
慌てて代車の中に戻ったドナとタッドであったが
セントバーナード犬の90キロの巨体より繰り出す
激しい体当たりで代車は故障してしまう。
代車の中に閉じ込められた形となった
ドナとタッドの長い長い真夏の1日が始まろうとしていた。
ドナは,これが「姦通」の罪を犯した
自分への「天罰」なのではないのかと怯え始めるのであった…。

相変わらず無敵の面白さを誇るスティーヴン・キングの傑作小説です。

漫画家の高橋留美子先生が本作品の大ファンで
漫画「めぞん一刻」に愛犬家のお嬢様「九条明日菜(くじょうあすな)」を
創作,登場させる程です。

スティーヴン・キングの大ファンの荒木飛呂彦先生も
「ジョジョの奇妙な冒険」の第3部から
空条承太郎(くうじょうじょうたろう)を登場させて
本作に敬意を表されてます。

実際80年代に創作活動をしていて
スティーヴン・キングの影響を受けない事は
殆ど不可能であると
僕はいちキング読者として思ってます。

本作品は「クジョー」というタイトルで
ルイス・ティーグ監督によって映画化されています。
高橋先生は映画を御覧になられて

「原作小説には確かにあった犬に対する愛がない。
犬が可哀想なだけの映画。」

と斬って捨てました。

僕は…スティーヴン・キングも同様に「クジョー」の出来に
怒り狂っていると勝手に思い込んでいたのですが…

ティーグ監督というヒトは下水道に逃げたワニの赤ん坊が成長して
下水道の中を縦横無尽に動き回って人を襲う
ワニ映画「アリゲーター」の監督でもあって
キングは「アリゲーター」の大ファンで
「オレの『クージョ』を映画化出来るのはルイス・ティーグしかいない」
とキングの方からティーグ監督に
「クジョー」の監督を依頼した経緯があると
「アリゲーター」の円盤の特典でティーグ監督が語っているのです。

ティーグ監督は
作中実験台となる子犬の声帯を切除し吠えられないようにした
動物愛護精神の欠片も無い「人でなし」であって
キングもソレを承知の上で
映画「クジョー」の監督として指名した事を考えると
僕のキングを観る目が「クージョ」を観る目が
変わらざるを得ないのである。

確かに…「クージョ」には犬に対する愛があります。
犬は最後まで飼い主を愛していて…
その愛する飼い主を狂犬病で殺してしまうトコロに
「犬の葛藤」が描かれていたのです。

ですがスティーヴン・キングには
「通俗」と「悪趣味」という側面もまたあり
彼の悪趣味面が「アリゲーター」への称賛を生み…
ティーグ監督もまた悪趣味であると知りながら
「クジョー」の監督を任せる側面があり…
キングを「犬への愛の人」と語るのは
余りにも一面的評価である様に思えるのです。

「犬を愛する人に悪い人はいない」

ワケないですよね。
その最高の反例が
作家スティーヴン・キングその人だと今は思ってます。

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