テッド・コッチェフ監督の映画「料理長(シェフ)殿,ご用心」ブルーレイレビュー「まこと監督の『人脈』こそが映画製作の命なのだ。」
美食家として絶大な権威を持つ実業家マックス(ロバート・モーレイ)が
執筆した「世界で最も偉大な4人のシェフ」に選ばれた
英国・ロンドンの「鳩の包み焼き」のルイ(ジャン・ピエール・カッセル),
イタリア・ヴェネツィアの
「ロブスター・カルチオフィ風」のゾッピ(ステファノ・サッタ・フロレス), フランス・パリの「プレスド・ダック」のムリノー(フィリップ・ノワレ)
の3人が,それぞれの最も得意とする料理法で殺されて行く。
「最も偉大な4人」の最後の1人,米国の「デザート”爆弾“」の
ナターシャ(ジャクリーン・ビセット)は
「次は自分の番だ」
と恐れ戦く。
先の3人は皆厨房で殺されている。
なるべく厨房に近付きたくない彼女であったが
TVの料理ショーへの出演の日が迫る…
果たして連続殺人魔の正体と目的とは一体…?
本作の監督は「ランボー」のテッド・コッチェフ。
特典映像のメイキングで
彼が長年非常に多岐に渡るジャンルの映画を手掛けていると分かる。
彼は映画「シャレード」のファンで気の置けない男女が
小粋な会話のキャッチボールを絶え間なく交わしながら
ミステリに巻き込まれて行く映画を撮りたかったという。
オードリー・ヘップバーンに見立てられたのは
勿論ジャクリーン・ビセットだが
ケーリー・グラントに見立てられたのは
コメディ俳優のジョージ・シーガル。
コッチェフは本作をコメディタッチのミステリとして描きたかったのだ。
僕の好きな「八点鐘が鳴るとき」のロバート・モーレイは,
その体躯と機知を買われ美食家役で貫禄の演技を披露し,
ロベール・アンリコ監督の「追想」でナチを火炎放射器で焼く
妻子を殺された復讐鬼と化した医師を演じ一遍で大ファンになった
フィリップ・ノワレはフレンチシェフとして
華麗な包丁捌き(外国では何と言うのか知らん)を披露している。
音楽は「ティファニーで朝食を」「ピンクパンサー」の
ヘンリー・マンシーニ,
撮影はキューブリック監督の「時計じかけのオレンジ」でも
撮影を担当したジョン・オルコット…。
コッチェフの人脈の豊かさに舌を巻く。
本作には同名原作小説があるのだが
コッチェフは原作の結末が気に入らず大胆に脚色している。
その際のミスリードが実にニクイのである。
いや僕もねえ…この話の流れから言って
犯人は絶対にあのヒトだと思っていて…。
その通りの展開となって余りにも感動して泣いてたら…
二転三転のどんでん返しが待っていて涙が引っ込んだ。
僕の涙を返してくれ。
吹替はロバート・モーレイの滝口順平,ジャン・ロシュフォールの大塚周夫…
僕はアニメオタクなのでドクロベエとブラック魔王の共演に涙・涙である。
コッチェフは
「一流の俳優・一流のスタッフ・一流の脚本が一流の映画を作る」
と特典映像で言ってるが
僕は心の中で「一流の声優も重要だ」と付け加えていた。
勿論コッチェフは一流の俳優・スタッフ・脚本が揃うのも
監督(オレ)の「人脈」の為せる技だと…
大いなる自負心を背景に上の発言をしてるのだ。
もうね「本当」過ぎて二の句が継げないよ…
まこと「人脈」こそ映画製作の命なのだ。
本作はロンドン・ヴェネツィア・パリ・ミュンヘンで本当に撮影していて,
いいレストランを探す過程で,美食を堪能したコッチェフは20キロ太り,
親がレストランをやっていて自分も手伝っていた経験から
厨房の様子が非常にリアルだと評判になり本当の美食家だと思われ,
各国のレストランで
「当店の最高の料理をお召し上がり下さい,お代は結構です」
と文字通り賓客待遇を受けたそうである。
僕の「専門」はホラー映画で
「金が無くてこんな苦労をした」
って話ばかり聞いているので
コッチェフの話を聞いてるだけで満腹になるのである。
特典映像はコッチェフ自身によるメイキングが62分収録されていて,
本レビュー執筆に当たって大いに助けとなった。
映像文化社と言えば「安いだけが取り柄の貧弱な仕様」
と思い込んでいたが,その認識は改められなければならない。
今や同社は
「お手頃価格で仕様充実」のメーカーへと生まれ変わったのである。
最後となるが
本作のウィキペディアの粗筋もキャストもデタラメもいいところである。
ふざけるな!僕が正してやる!
怒りはレビュー書きに実にいいエネルギーを与えてくれる。
ネットでタダで拾える情報を鵜呑みにすると言う事は
道端に落ちてる饅頭を拾い食いするのと同じ事である。
腹壊しても知らんよ。