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ダリオ・アルジェント監督の映画「サスペリア(1977年)」レビュー「ダレが『魔女』を生んだのか?」

米国の若きバレエ・ダンサー/スージー・バニヨン(ジェシカ・ハーパー)は
母親もまた高名なダンサーであり…その縁故で母親が若い頃留学していた
ドイツ・フライブルクにある由緒あるバレエ学校に留学することを許され…
米国からドイツへ旅客機で向かい…ドイツに着いたのは深夜で…
彼女の到来を拒むかの如き激しい風雨の洗礼を受ける…。

何とかタクシーを捕まえ…
スージーがバレエ学校に着くと…
学校の中から
ひとりの少女(エヴァ・アクセン)が飛び出して来て…
何やら大声で喚いている…
が…何しろこの激しい風雨だ…よく聞き取れぬ…

辛うじて聞き取れたのは…
「秘密(secret)」と…
「青いアイリス(blue iris)」という言葉だ…
一体何のコトだろう…

ドイツに来たばかりのスージーは知る由もないが…
この少女の名はパットといい…
パットは寮に戻るや同じ寮の先輩に理由も告げず
「ワタシは…もうココにはいられない…」
「明日にも退学するわ…」
と言う…。

だが…そうは問屋が卸さない…
「秘密」を知ったパットを…
「青ひげ」が追って来て…
「青ひげ」は彼女を…
ナイフで滅多刺しにした挙句…
首に縄をかけ…
寮の屋上から突き落として絞首刑に処するのであった…。

いい迷惑なのはこの先輩で…
パットが絞首刑に処せられた際に…ステンドグラスが砕け散り…
ステンドグラスの破片が先輩の顔面を両断するのだった…
パットに風呂を貸したというだけで…とんだとばっちりで
酷い酷い酷い死に方をしなければならぬ先輩に合掌。

映画監督のダリオ・アルジェントは1975年に…
自身のフィルモグラフィの最高傑作「サスペリアPART2」
(原題:PROFONDO ROSSO(紅い深淵)」を生んでいる…。

「サスペリアPART2」という…実に悩ましい邦題は…
日本の映画配給会社…東宝東和の勇み足で…
1977年に日本でも公開された
「サスペリア」の大ヒットに大いに気を良くした東宝東和が…
「サスペリア」の続編でも何でもない
「紅い深淵」に…
「サスペリアPART2」という…
でっち上げの邦題を付与し…。
「続編」として翌年(1978年)に公開した所業の産物で…

ずっと後年になって…
この事実を知ったアルジェントは…
「オレの『紅い深淵』が…『サスペリアPART2』という…」
「クレージーな題名で日本で公開された」
と自伝に書き記している…。

この東宝東和の所業の結果…
「サスペリア」(1977年)の2年前に作られた
「紅い深淵」(1975年)が…
日本では「サスペリアPART2」として
慣れ親しまれる結果を生んだのである…。

話がチトややこしいが…
本論考で重要なのは…
最初に「サスペリアPART2」があり…
その「サスペリアPART2」の
ヒロインを演じたダリア・ニコロディが…
アルジェントと懇意となり
「サスペリア」の脚本を任された事実なのだ。

冷静に考えてだよコオロギくん…
自分の映画の主演女優に…
次の自分の映画の脚本を
書かせるなんて話…聞いたコトがあるかい…?
でも…本当なんだから仕方ないよコオロギくん…。

「サスペリアPART2」でジャンナというヒロインを演じ…
アルジェントの公私共のパートナーとなったニコロディは…

彼女の祖母イヴォンヌ・ロエブは若い頃…
薬を調合したり…
ちょっとした体調不良を手かざしで治す
「白魔女」と呼ばれる…善行を施す魔女であり…
その彼女の祖母が入学した学校が…
黒魔術を教える…
この世に悪行を成す「黒魔女」の養成学校だったコトに驚き…
即日退学したという…俄かに信じ難い逸話を基に脚本を書き始め…

誰もが知っているグリム童話の
「白雪姫」と「青ひげ」を下敷きにして…
何も知らない白雪姫が入学したバレエ学校は…
実は黒魔女の巣窟であり…
その白雪姫が…「青ひげ」が決して開けてはならぬと
厳命した「扉」を開け…部屋の中を見たオンナを…
片っ端から惨殺している「青ひげの秘密」を知り…
「血だら真っ赤な秘密」を知った白雪姫は…
彼女に「黒き眠り」を齎そうとする
「青ひげ」を使役する意地悪な継母…
即ちバレエ学校の校長=究極の黒魔女と対決する羽目になるという…
「地獄の御伽噺」の脚本を完成させる…。

この…「ニコロディの構想」で重要なのは…
スージー・バニヨンは最初から魔女であり…
この「サスペリア」は…
魔女と魔女との闘争を…
「魔女同士による内部抗争」を描いているって点なんだよ…
コオロギくん…。

ずっと後年…アルジェントの「サスペリア」に心酔する
映画監督のルカ・グァダニーノは…
ルカ・グァダニーノ式「サスペリア」…
通称「ルカぺリア」(2018年)を創り…
「ルカぺリア」を…
スージー・バニヨン(ダコタ・ジョンソン)による
魔女の権力闘争として描いたのは…

ルカは…あのステキな馬鹿野郎は…
「三千世界で…このボクだけは…」
「アナタの創作意図を理解してますよ…ニコロディ…」
と目配せしているのだ…。

勿論…ニコロディは…
自分こそが黒魔女=意地悪な継母を滅ぼし…
世界に善行を齎すべく生を受けた
「白魔女の正統な血を引く者」…
「白魔女の実の孫娘」であり…
「白雪姫」でもあるとの…
大いなる自負のもとに…
「自分」を主役とする「サスペリア」の脚本を書いたのであって…。

ニコロディは…
アルジェントが…ジェシカ・ハーパーを
「白雪姫」に選んだコトを終生許さず…
世界中の人々に善行を齎そうとした「白魔女」が…
アルジェントに罵詈雑言を投げつけ続ける「黒魔女」と化したという…
まこと…事実は小説よりも奇なりとは…良くも言ったものである…。

でもアルジェント…
コレはオマエが悪いよ…
何にも知らない純真無垢な
ニコロディに脚本だけ書かせて…
ハーパーを主役に抜擢する様な真似をして…
オ・マ・エが魔女を生んだんだよ…

ニコロディは…
「ワタシが主役でないのなら端役でいいッ!」
と吐き捨て…
冒頭の空港の場面で…
ハーパーの横を歩く
名も無き観光客役を演じている…

バレエ学校のタナー先生を演ずるのはアリダ・ヴァリ。
「第3の男」の名演も忘れ難いが…
「サスペリア」がTV放映された際…
タナー先生の声の出演を高橋和枝さんが演じられ…
高橋さんは勿論「サザエさん」のカツオ役で有名であり…
カツオ声で喋るタナー先生の御姿が…
僕の脳のシワに深く刻み込まれたのは言うまでもない。

スージー・バニヨンのTV放映時の声の出演は岡本茉莉さん。
勿論「花の子ルンルン」であり…
ルンルンとカツオの共演に大喜びするアニメファン…。

スージーに魔女の知識を授けるふたりの導師役は…
フランク・マンデルをウド・キアが演じ…
ミリウス教授をルドルフ・シェンドラーが演じている。

ウド・キアのTV放映時の声の出演は井上和彦さん…。
勿論島村ジョーであり…
先般リリースされたばかりの
「悪魔のはらわた」の4Kで
フランケンシュタイン男爵を演じた
キアの声の出演は井上真樹夫さん(二代目石川五右衛門)であり…。

キアが大変な美形であり…
美形俳優には美形俳優御用達の声優が配されるとの
運命的な宇宙の法則に思いを馳せざるを得ないのである。

フランケンシュタイン男爵は…
あんなにロクでもない役なのに…
まこと「顔がいい」とは…役得の極みと言えるのだ…。

スージーの同じ寮の友人サラを演ずるのはステファニア・カッシーニで…
サラはパットの友人でもあり…このバレエ学校の「秘密」の一端を
パットから聞いており…ソレはやがて「青ひげ」の知るところとなり…
到底口では言えぬ惨たらしいやり方で殺されるコトとなる…。

だがサラは「秘密」を解くカギをスージーに残した。
ソレはバレエ学校の教員の「足音」であり…
教員一同は誰もバレエ学校の「外」に出ておらず…
「深奥」に向かっていると…
「足音のマッピング」で気付いたサラは…
非常に重要な手掛かりをスージーに託すのである…。

サラの遺した手掛かりで…
バレエ学校の「深奥」に到達したスージーは…
パットの遺した手掛かりで…
「深奥」には…「更なる深奥」が隠されており…
ソレこそが…「青ひげ」が…
決して開けてはならぬと厳命した…
開かずの部屋の扉を開ける鍵であると気付く…。

この映画の結末には様々な解釈がある…。
ソレはスージーと「諸悪の根源」との
対決結果を当て推量するもので…

この解釈論争に名乗りを上げたのが
前述したルカ・グァダニーノであり…
彼は…「ルカぺリア」に…
わざわざジェシカ・ハーパーを出演させ…
彼自身の解釈を映画化しているのである…

即ち…「サスペリア」が…
魔女同士の内部抗争であり…
スージー・バニヨンは最初から魔女であり…
彼女は率先して…
その抗争の渦中に飛び込んでいったとね…

同人作家の皐月臨さんは…著作「映画の独り言」で
「ルカペリア」について次の様に熱弁を揮う…。

(引用開始)
(前略)じゃあ「ルカぺリア」は良くある原作無視改悪リメイクなのか?
いや…寧ろ逆だ…。
好き過ぎて解釈を拗(こじ)らせて原作から離れてしまう…。
そう…我々(オタクは誰もがオタクの国の「裸の王様」なので
主語がI(我)ではなくWe(朕(ちん)=我々)となるのだ。)は知っている…。

そうだッ!!!

コレ(ルカぺリア)は最早リメイク映画ですらなくッ!!!
原作拗(こじ)らせオタク(ルカ・グァダニーノ)による同人誌なんだッ!!!

「原作と同じ事」を徹底的に避けているのは「原作と同じ事をするなら原作を観ろよ」という思想でありあらゆる批判を振り切り「自分が作るサスペリア」を追究したルカは生粋のアルジェントオタクでありこの映画に妥協が一切無いのは本作の本質が同人誌だからであり舞台のベルリンと時代設定は正にオリジナル版が公開された時代そのものでありルカは「あの時代を反映してサスペリアを作ったら」「僕がサスペリアを作ったら」IF創作を貫いた同人作家の鑑でありそれ故に本作はオリジナル版と似ても似つかないにもかかわらず紛れもなく「サスペリア」そのものでありルカの根底には原作のサスペリアが唯一無二であるとの大大大大大前提がありルカの「この映画はサスペリアという作品へのリスペクトだ」って言葉をなんで誰も汲まねえんだよバカヤロウまた1本の独立した映画として見てもルカぺリアは最高であり痛み悪夢狂気救済本当の恐怖とは一体何なのか「無知である事」「無意味である事」の魅力を私は本作品で初めて知ることが出来たッ(後略)

(引用終了)

僕は…「映画の独り言」の案内役…
アレックス(仮)の…この…
「キチガイの人殺しの思念」
にドン引きして…
ガタガタ震えながら部屋の隅っこで命乞いしながら
レビューを書かせていただいたのだが…

要約すれば「ルカぺリア」とは…
アルジェントの「サスペリア」がスキ過ぎる
ルカ・グァダニーノの…
「サスペリア」の二次創作同人誌であるというのが
「映画の独り言」の主張となるのである…。

僕は…「ルカぺリア」を観て…
アルジェントの「サスペリア」の最期で…
「諸悪の根源」から「魔女の力」を殺して強奪して…
冒頭と同じく…激しい風雨の中…
ゲラゲラ笑いながら退場したジェシカ・ハーパーが…

「ルカぺリア」のスージー・バニヨン(ダコタ・ジョンソン)に…
「ワタシが…アイツを殺して強奪した『力』をッ」
「オマエ(ダコタ・ジョンソン)に継承する…」
「コレでオマエは…」
「正真正銘未来永劫…」
「『スージー・バニヨン』となり…」
「ワタシは…」
「漸く『ジェシカ・ハーパー』に戻れるというワケだ…」

「返してやるッ」
「『虎の穴』から貰ったものを…」
「叩き返してやるッ」
「ソレでオレは…」
「『タイガーマスク』でなくなり…」
「『伊達直人』に戻るのだッ」

伊達直人は…
「虎の穴」を最高の成績で卒業して…
「虎のマスク」を授与され…
「タイガーマスク」となった…
いま…「タイガーマスク」は…
「虎の穴」最後の刺客にして…
究極のレスラー…
「タイガー・ザ・グレート」との最後の戦いで…
グレートに「虎のマスク」を叩き返し…
「伊達直人」として最後の邪悪を滅ぼすのだ…。

ルカ・グァダニーノが…
「ルカぺリア」にハーパーを出したのは…
「魔女の力」を「次」のスージー・バニヨンに渡し…
「スージー・バニヨン」を「ジェシカ・ハーパー」に
戻す為なんだよ…コオロギくん…

ジェシカ・ハーパーが…
長らく「スージー・バニヨン」に縛り付けられている
と言うのが…「真実」なのかは…実はどうでもよろしい…。

重要なのはッ!

思い込みと独断と偏見に満ち満ちた
同人作家ルカ・グァダニーノの目にはッ
「そう見えている」
という極めて主観的な視点なのだッ!

同人作家にッ!
「客観」なんて言葉は要らねえんだよッ!

皐月臨さんは勿論「ルカぺリア」に関する同人誌も上梓されており…
その同人誌…「To Die」を拝読し…
ナマイキにも皐月さんの…
「ジェシカ・ハーパーが出た意味」の論考に噛み付き…
上記の如き反駁をした次第である…。

ルカ・グァダニーノがアルジェントの「サスペリア」に…
未来永劫支配されて生きて行く様に…
皐月臨さんもまた「ルカぺリア」に…
未来永劫支配されて生きて行くのだろう…。

永遠に…ッ!
終わるコトのない…
連鎖ッ!

グリム兄弟によって編纂された「童話」が…
ニコロディに霊感を与え…
「サスペリア」を生み…
アルジェントの所業によって
ニコロディを黒魔女に変貌させ…
ジェシカ・ハーパーの人生を狂わせ…
映画監督ルカ・グァダニーノの二次創作魂を発露させ…
極東の同人作家皐月臨の人生をも捻じ曲げて行く…

まこと…優れた創作というものは…
死屍累々を生み続け…
決して止まるコトを知らないと…
決して終わるコトを知らないと…
思う事しきりなのである…

是空社が…
「サスペリア」4Kのジャケットデザインの
イメージカラーとして選んだのは白雪色(snow white)。
勿論ジェシカ・ハーパーが…
「白雪姫(snow white)」であるコトを承知していなければ
絶対に…金輪際出て来ない発想であり…
しかしながらその「白」は…
数多くの人間の情念によって…怨念によって…
ドス黒い「影」を落としているという…
まこと悪魔的なジャケットデザインと言えるのだ…。

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