VIDEO VIOLENCE RELEASING&ジェミニエンターテインメント提供の「ブラッド・フィースト 新・血の祝祭日」レビュー「本来父親とは家長であり王(KING)であり専制君主である…今宵狂王が復活するのだ…」
「VIDEO VIOLENCE RELEASING」(VVR)と言っても
知らない人の方が圧倒的に多いだろう。
VVRはtwitter改めXで新作ソフトの告知をして,
新作ソフトは基本的にAmazonや楽天等の大手通販サイトを介さずに
オフィシャルサイトでの販売のみというヒロシニコフ代表が
輸入・字幕翻訳・販売・梱包発送迄を全て個人で行ってる
世界一小規模なレーベルで
近年になって大資本のジェミニ・エンタテインメントと組んで
「ウィッチスターズ 流星からの寄生体X」を
Amazonの流通販路に乗せた事でグッと知名度が高まり,
2023年9月にアムモ98と組んで「キャット・シック・ブルース」の
通常版をAmazonの流通販路に乗せ目下日の出の勢いを誇っている。
…がヒロシニコフ代表がメジャーデビューに浮足立つ事は全く無い様で
「クリプティック・プラズム」「夏バテ女」等の
新作ソフトを相変わらずオフィシャルサイトのみで頒布されている。
VVRのソフトの特徴は一言で言えば
「信じられん程のウルトラゴア」と「インディーズ系」であって,
ホラー映画愛好家の端くれとして到底看過出来ない
「「尖った映画」を生み出す特異な才能」を次々と発掘・紹介されていて,
オフィシャルサイトでの販売が開始されるや否や
好き者達の争奪戦が巻き起こり一瞬で完売する事もしばしば。
流通の安定したメジャー進出を期待する声が多い中,
ヒロシニコフ代表の「安定」に背を向けた姿勢に
益々ファンが増える昨今である。
映画「新・血の祝祭日」(アンレイテッド版)ブルーレイ2枚組のリリースは
VVRとジェミニ・エンターテインメントが
再びタッグを組んで仕掛けた企画であって
近日Amazonの流通販路に乗る予定だがVVRで先行販売されたのを
僕が購入して本日届き,視聴したレビューを書こうと言うのである。
「新・血の祝祭日」は
ハーシェル・ゴードン・ルイスの「血の祝祭日」のリメイクであって
クラウドファンディングで制作資金を集めて製作され
舞台を現代のパリに移し,
人肉料理に取り付かれたオヤジ(ロバート・ラスラー)の所業を追って行く。
ハーシェル・ゴードン・ルイスもカメオ出演している。
非常に奇妙な話だが「新・血の祝祭日」を観ていて
僕は「サザエさん」の事をずっと考えていた。
サザエさん一家は磯野波平という雷親父がいて一家の家長であり
殿様であり専制君主であり家事一切の決定権を持っている。
1969年にアニメが放送された当時は
普通に受け入れられていた「サザエさん」が
家族形態の変容に伴って次第に違和感を持たれる様になって行く。
何故マスオさん一家(マスオ,サザエ,タラオ)が義父の家に住むのか。
(何故新居に転居しないのか)
何故波平は威張り腐っているのか。
何故家族は波平(家長)の言う事に絶対服従するのか。
「父親」も家族の一員である以上,他の家族と「対等」なのではないか…。
オリジナルの「血の祝祭日」が制作された1963年もまた
父親は家長であり王であり専制君主であるとの価値観の下に制作されており,
その価値観をそのままリメイクした「新・血の祝祭日」を観ていると
違和感を覚えるのである。
その違和感は「父親ってそんなに偉くないだろう」という
現代の価値観から生じており
「父親」は家族ってチームの一員であり
父親と家族とは友達の様にフランクに話せる存在なのだ。
「サザエさん」は現在「時代錯誤」と攻撃される事が多くなった。
その攻撃理由は「父親だからってそんなに威張るな!」って反感が
根源になっており
「新・血の祝祭日」は全く企まずに
「血の祝祭日」の価値観をそのままリメイクした結果,
「父権の復活を意図した時代錯誤な映画」として顕現したのだ。
「新・血の祝祭日」の「父親」は妻と娘を従わせる為に
飲み物にドラッグを仕込んで判断力を奪ってラリパッパにして
「言いなり」にさせる他無かった。
「現代の価値観」を薬物で麻痺させる他無かったのである。
1960年代のホラー映画を現代に復活させるには
そうする他無かったのである。
「父親」がそうまでして実現させた人肉料理による祝祭日。
「父親」は陶酔の極致に到達した時点で
彼を導いて来た女神イシュタルによって
彼の魂が地獄に引き摺り込まれて映画は閉じる。
磯野波平は「家長」の権限を振り回した結果,
「乱心」したと見做されて地下の座敷牢で
未来永劫幽閉される他ないと示唆されて映画は閉じるのである。
「古き価値観」はそうやって消えて行く他ない。
「古き価値観」はそうやって死んで行く他無いのだ。